April 21, 2014 / 4:07 AM / 4 years ago

コラム:新興国経済動揺の「真犯人」は誰か=竹中正治氏

[東京 21日] - 米国の量的緩和(QE)縮小と将来の利上げ展望が、資金流出を通じて新興国経済の不安定化を招いているという批判、あるいは懸念が一部の論者から繰り返されている。

経常収支赤字が大きく、インフレ率が高い「脆弱な5カ国(インド、ブラジル、インドネシア、トルコ、南アフリカ)」がこの点で最も不安視されている。経済学者でインド準備銀行(中央銀行)の総裁であるラグラム・ラジャン氏が、こうした批判の代表的存在だ。同氏は先進国中銀の金融政策は新興国経済にもっと配慮した国際協調の下に行われるべきだという趣旨の主張を繰り返している。

しかし、問題となる新興国からの資金流出は、米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長(当時)がQE縮小を示唆した昨年5月よりずっと以前から起こっており、新興国経済の不安定化をQE縮小に直接結びつける説明は不正確な認識であると私は昨年7月に本コラムで述べた(「新興国襲ったドルキャリー巻き戻しの残存リスク」2013年7月30日掲載)。

ところで、新興国からどのような投資家や金融機関が資金を引き揚げているのか。この点は上記コラム執筆時には主要な国際機関などの関連データが未発表だったので大ざっぱな推測によらざるを得なかった。その後データが公表され見えてきた事実があるので、以下ご説明しよう。

<欧州系銀行による「貸しはがし」>

国境を超えるマネーフローには、直接投資、銀行ローン、証券投資(株式投資と債券投資)などがある。直接投資は企業経営権を伴う形で長期の事業として行われるものであり、短期・中期の金利や景況次第で引き揚げられるということは一般にはない。したがって、ここで問題になるのは、銀行ローンと証券投資のフローだ。

対象債務国としては、上記の「脆弱な5カ国」にアルゼンチンを加えた6カ国について見てみよう。図は、国際決済銀行(BIS)のデータに基づく日米欧銀行の6カ国向け与信残高の推移である。ひと目でわかる通り、2000年代に6カ国向け与信残高を急増させたのは欧州系銀行であり、08年の危機後にいったん減少するが、11年にかけて再度増加してピークをつけた後、減少に転じている。

対象6カ国への与信全体に占める欧州系銀行の比率は圧倒的で、13年9月時点で日米欧銀行全体の72%を占めている。その欧州系銀行の与信残高はピーク時11年6月の9082億ドルから13年9月の7856億ドルに1226億ドル(約12.5兆円)減少している。一方、米系銀行のそれは同じ期間に2259億ドルから2064億ドルに195億ドル(約2兆円)の減少。日系銀行は944億ドルから957億ドルに13億ドル(約1300億円)の増加だ。

「米QEで供給された資金はドルだから米銀がやっていることだろう」と多くの方はイメージしていただろうが、実はそうではない。銀行与信について見る限り、新興国からの資金流出とは欧州系銀行の与信回収に他ならないのだ。もちろん、欧州系銀行の与信回収の背景のひとつには金融危機後の自己資本規制(バーゼルIII)強化への対応などのために、2000年代に膨張した与信残高を圧縮せざるを得ない事情が働いている。

また、欧州系銀行の6カ国への与信急増は、リーマンショック後の米QE以前から始まっていることにも注意しておこう。図を見て明らかな通り、それは05年頃に始まったトレンドである。興味深いことに01年以降の6カ国の経常収支の変化と当該諸国への海外銀行与信の増減には、高い相関関係がある。つまり、銀行与信が増えると1年のタイムラグで6カ国の経常収支赤字が拡大する関係が見られる(逆は逆)。

<タックスヘイブンを通じた証券投資フローの変化>

次に対象6カ国への証券投資(株式と債券)について見てみよう。国際通貨基金(IMF)のデータ(Consolidated Portfolio Investment Survey、年次データ)によると、海外投資家が保有する対象6カ国の証券投資残高は12年12月末時点の1兆3953億ドルから13年6月末の1兆1404億ドルに2549億ドル(約26兆円)も減少している。とりわけ株式投資残高の減少が1843億ドルと、全体の74%を占めている。

ただし、これは時価評価した証券投資残高の減少であり、取引フローの引き揚げによる減少と株価の下落による評価減が混在しており、その内訳は不明である。大ざっぱに評価減と資金引き揚げが半々と考えれば、当たらずといえども遠からずだろう。

では、どこの国の投資家が残高を減らしているのだろうか。この点の事情は銀行与信に比べると少し複雑だ。

まず米財務省のデータ(Treasury International Capital System)で対象6カ国向けの米国の対外証券投資残高を見ると、ピークは10年末の4124億ドルで、11年末に3322億ドルに減るが、12年末には3972億ドルに回復し、ピーク時からの減少額は152億ドル(約1.5兆円余り)に過ぎない。

13年末の残高はまだデータが出ていないが、1―9月までの9カ月間の長期証券投資フロー(グロス)は74億ドルの米国からの流出・対象国への流入である。また、反対方向のフロー、つまり対象国から米国への対米長期証券投資フローとのネットで見ると、138億ドルのやはり米国からの流出・対象国への流入である。

つまり、対象6カ国のデータからは証券投資マネーの流出が指摘できるのに、米国から6カ国への証券投資フローは米国への引き揚げ超過になっていない。この一見矛盾するデータはどのように理解したら良いのだろうか。

実は国際マネーフローはケイマン諸島やバミューダなどに代表されるタックスヘイブン(租税回避地)を経由した部分が大きく存在している。多くのヘッジファンドなどが税制上の恩典を得るためにタックスヘイブンに登記されて投資活動をしているからだ。

このタックスヘイブンと米国との間の証券投資フローを見ると、やはりグロスでもネットでも米国からの流出が続いており、米国への引き揚げ超過は生じていない。ところが、タックスヘイブンからの投資先が、経済的な脆弱性が懸念されるようになった新興国から他地域(欧州や日本への証券投資)に投資先をシフトしていると考えると辻褄が合う。

この点について、前掲のIMFデータでは13年の詳細データが出揃っていないため包括的に示すのは難しいが、たとえばケイマン諸島から行われる対外証券投資のうちブラジル向けは10年末には262億ドル、13年6月には223億ドルと約15%減少している。

また、私的な調査情報としては、今年4月3日付の日本経済新聞が次のように報じている。

「投資調査会社EPFRグローバルが集計する世界の投資信託の資金流出入の動向を見ると、新興国の株式や債券などから欧州への資金流入が継続していることが見て取れる。昨年10月末以降、3月半ばまでに株式と債券の合計で690億ドル弱(約7兆円)が新興国から流出する一方、欧州市場に約630億ドル(約6.5兆円)が流入した」(円換算値は筆者記入)。

<新興国の調整局面は継続する雲行き>

以上まとめると、問題となっている新興国からのマネー流出は次の2つの経路で生じていることになる。

第1に銀行ローンについては欧州系銀行の対外与信の縮小が主因である。第2に対外証券投資フローについては、主にタックスヘイブンなどを経由しているヘッジファンドなどの投資フローが、経済ファンダメンタルズに懸念のある新興国から他地域に投資先をシフトさせていることが主因である。

繰り返し強調しておくと、こうした国際資金フローの変化は、13年5月のバーナンキFRB議長(当時)のQE縮小示唆発言以前から起こっている。また、もしも米QE縮小が新興国からのマネー流出の直接の原因であるならば、米国からの対外証券投資フロー全体が縮小するはずだが、そうした縮小は起こっていない。実際に起こっているのは投資先の変更である。

今後の展望について考えてみると、まず銀行与信については自己資本規制(バーゼルIII)の導入を控えて、欧州系銀行を中心に抑制的な基調が継続するだろう。経済協力開発機構(OECD)の景気動向指数は12年後半から米国、日本、欧州の回復基調、主要新興国の減速トレンドを示しており、この傾向が持続する限り新興国への証券投資フローは勢いを欠いた状態が続くだろう。足もとではブラジルやトルコの株価に反発の動きが見られるが、まだ短期的な反発の域にとどまっている。

こうした状況で問題は、新興国政府や中銀が国内のこれまでの信用膨張や経常収支赤字、膨らんだ対外債務のソフトランディング的調整ができるか、あるいは97―98年のアジア通貨危機型のハードランディング的調整を起こす国が出るかどうかである。ある国のハードランディングが危機となって伝染するリスクもあるが、多少の楽観論を前提に展望すると、国ごとの固有の事情を反映した調整過程が進むのではないかと思う。

この点でIMFは昨年10月のレポート(Global Financial Stability Report)で、10―12年の期間について、経常収支赤字の対国内総生産(GDP)比率と、信用の拡大がGDPの成長度を上回っている度合いの2つの尺度で測り、最も脆弱性の高い国としてトルコ、ブラジル、コロンビアをあげている。また、中国については対外リスクではなく、国内の債務膨張と過剰設備投資の調整が不可避と指摘している。

最後にウクライナ情勢の緊迫、不安定化については、一般にユーロ売り材料として受け止められているようだが、国際的なマネーフローの面では「ロシアリスク回避」の動きから「不安の中でのユーロ高(ユーロシフト)」という要因として働いている可能性があることを指摘しておこう。

*竹中正治氏は龍谷大学経済学部教授。1979年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、為替資金部次長、調査部次長、ワシントンDC駐在員事務所長、国際通貨研究所チーフエコノミストを経て、2009年4月より現職、経済学博士(京都大学)。最新著作「稼ぐ経済学 黄金の波に乗る知の技法」(光文社)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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