April 30, 2014 / 8:43 AM / 4 years ago

コラム:第三の矢は「はり治療」、期待の鎮静化が急務=佐々木融氏

[東京 30日] - 日銀は4月30日の金融政策決定会合で、大方の予想通り金融政策を据え置いた。同日公表された展望リポートで新たに示された2016年度のコア消費者物価指数上昇率(消費税率引き上げの影響を除くベース)に関する政策委員の見通し(中央値)は2.1%となった。

また、展望リポートや黒田東彦日銀総裁の記者会見でも、同インフレ率について「見通し期間(14年度―16年度)の中盤ごろに2%程度に達する可能性が高い」と示唆されており、日銀は現状の金融政策を継続することにより、2%のインフレターゲットを達成できるとの自信を引き続き示したものと考えられる。

ドル円相場は過去3カ月間、101円から104円のレンジ内での推移が続いている。筆者は、日銀の追加緩和と米金利上昇に対する市場参加者の期待が強過ぎることから、最初にレンジを抜けるのは円高・ドル安方向であり、年初につけた105円台半ばを超えて106円台に上昇する前に100円割れとなる可能性が引き続き高いと予想している。

このところ気になるのは、政治家を含む当局者が市場に影響を与えることを目的に発言したり、行動したりしているのではないかと感じられる点である。たとえば、4月16日付の日本経済新聞は、15日の安倍晋三首相と黒田日銀総裁との昼食会には株価を下支えする思惑もあった可能性を指摘している。

確かに、実行した政策の方向性の正しさをチェックするために、当局者が市場の動きを注視することは必要だ。しかし、先回りして市場に影響を与えようとして政策を行おうとすれば、結局は失敗に終わる可能性が高い。市場の期待は際限がないからである。注視することと影響を与えようとすることは異なる。このコラムでも何度か書いているが、市場は実体経済を映す鏡でしかない。実体が変わらなければ鏡の向きを変えて映る姿を変えて見せても意味はないのである。

たとえば、10年9月から11年11月までの約1年間にわたり、政府は16.4兆円もの円売り介入を行い、円高進行を阻止しようとしたが、結局、対ドルで85円台から75円台へと大幅な円高が進んだ。一方、その一年後に始まったアベノミクスでは1円たりとも円売り介入を行っていないのに、円相場は大幅に反落した。

もちろん、アベノミクスについてもまだ実体経済を変えるとの期待が高まっているだけという側面が強いが、当局者の使命は市場を動かすことではなく、市場が動くように実体経済を変えることなのではないだろうか。

<「Buy my Abenomics」の不安>

当局者が言葉や表面的な行動などを通じて市場の期待だけを高めるということを繰り返すと、市場の期待は際限なく膨らんでいく。その結果、実体に変化が見られないと、途中で期待は失望に変わり、「市場が勝手に期待して、勝手に失望している」との捨て台詞が当局者から飛び出す。これまで何度このようなことが繰り返されただろう。

市場に向き合う際に最も避けなければいけないのは「驕り」である。何となく市場の動きが読めるようになったなどと、驕りが少しでも心の中に芽生えると、不思議なことに市場は予想とは全く逆方向に動き始める。政治家にとっての選挙も同じようなものではないだろうか。

安倍首相が昨年9月26日にニューヨーク証券取引所で行った演説で「Buy my Abenomics(アベノミクスは買いだ)」と発言したのを聞いて、過去の自分自身の苦い経験から、株価の先行きに若干不安を感じ始めた市場参加者は少なくないだろう。日経平均株価はその後約3カ月で10%上昇したが、現在は演説時のレベルを下回ってしまっている。

アベノミクスの目指すところが、長期的に見ても強い経済を築いていくことならば、市場はいずれその強い姿を映し出すだろう。無理に先取りさせる必要はない。真の意味での日本経済再生に時間がかかるなら、これ以上短期的な期待を高めることはかえって裏目に出るリスクがあるのではないだろうか。

筆者はアベノミクスの第三の矢については、それで市場を動かそうとか、市場が動くのではないかとの期待を内外の投資家に与えない方が良いのではないかと考えている。というのも、太い痛み止め注射のような第一の矢(金融政策)、第二の矢(財政政策)に比べ、第三の矢は鍼(はり)治療のように極細の鍼をたくさん身体に刺すことによって、徐々に、かつ根本的に身体の機能を正常化させていくのに似ているように思えるからである。

第三の矢の具体策を見ると、一つ一つは比較的細かい施策が目立ち、それだけで市場が大きく動くというようなものではない。しかし、諸事情から市場が驚くような大胆な構造改革や規制緩和ができないのであれば、このような細かい施策を積み重ねていくしかなく、それが日本経済の強化として目に見えてくるには時間がかかるのも仕方がないだろう。痛み止め注射は根本的な問題の解決にはならないが、鍼治療で時間をかけながら身体の自然治癒力に作用して問題を解決していくのは長期的に意味があると思う。

市場に対しても、細い矢(鍼)を殊更大きく見せようとせずに、「矢(鍼)が細くて遠くから見えなくとも、着実にじっくり効いて、日本経済はやがて元気になる。気がついた時には株価は上昇し、乗り遅れるかもしれませんよ」くらいのメッセージを送っておけば良いのではないだろうか。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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