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コラム:蓄積された「円安マグマ」はいつ動くか=熊野英生氏
May 2, 2014 / 2:52 AM / 4 years ago

コラム:蓄積された「円安マグマ」はいつ動くか=熊野英生氏

[東京 2日] - 米国の大雪、ウクライナ問題、消費増税など、それなりに大きなイベントやショックがあったにもかかわらず、ドル円レートは2月以降、101―104円のレンジ内で推移している。この図式は、当面は続くと予想されるが、いずれどこかで変化するだろう。果たしてどこで変化するのだろうか。

まず、横ばい状況の起点である2月は、イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長の就任時期だったことが思い起こされる。また、1月中旬から新興国通貨の急落が起こり、米量的緩和縮小(テーパリング)の副作用が意識された時期でもある。FRBの資産買い入れ縮小は、1月に続いて、2014年3月と4月にも行われているが、その後の影響は意外なほどドル円レートに及んでいない。

なぜドル円レートが横ばいだったのかという点については、表面的な説明ならばごく簡単にできる。米国の長期金利が2月以降はほぼ横ばいで、日米金利差も横ばい、だからドル円レートも横ばいという関係になったからだ。

では、なぜ米金利は動かないのか。この謎解きは難題である。本来、FRBが債券を買い取るペースを縮小させると、市場で消化される供給量が増えて、長期金利は上昇するはずだろう。米景気が十分に良くなっても長期金利は上昇するはずだ。

そうならないのは、金融引き締めに向かってテーパリングの先に利上げを用意しているFRBの政策が、実体経済に下押し圧力になることを市場が警戒しているからだろう。一方では、米経済はそこそこに強くなっている。4月30日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、1―3月の実質国内総生産(GDP)が年率0.1%と振るわない数字だったにもかかわらず、FRBは景気実勢に自信を深めていて資産買い入れ規模を縮小させた。テーパリングは景気悪化要因だが、一方で景気拡大も進んでいるので両者が拮抗する格好なのだろう。

また、米長期金利が上がらない背景には、消費者物価指数の伸び率がコア・総合ともに前年比1%台で歴史的に低水準を続けていることもある。米経済が過熱しにくい状況なので、ドル高・円安には向かいにくい。わかりやすく言えば、景気が良くなっても米経済の体温が低いままだから長期金利が上がりにくいという背景説明が成り立つ。

米経済に潜在的な弱さあって、金利水準が上がりにくいことが、当面、日本にとって円安の恩恵がこれ以上期待しにくい背景だと考えられる。

<円安再開は14年終盤か>

次にそうした前提が変わって、円安に向かうシナリオを考えてみたい。有力なシナリオは、米経済の過熱である。

インフレの可能性が見えてくれば、FRBの政策運営も変わり、金融市場の見方も変化するだろう。その条件とは、米国の労働市場がひっ迫する状況になって、インフレ加速の兆しが見えてくることである。

米失業率はリーマンショック後の09年秋に10%まで上昇したところから、最近は6.7%(14年3月)まで低下している。インフレ率を加速させる失業率が5%台前半辺りだと仮定すると、そこまで失業率が低下するまでには距離感がある。

このまま米経済が順調に回復していき、失業率が従来と同じペースで低下していくのならば、計算上では失業率が6%を割るのは15年入り後になるだろう。さらに、インフレ率が加速する領域に移っていくのは15年秋だと思われる。もちろん、そこまで物価指標や長期金利が上がらないというわけではないが、問題はそれが目先に見えてくるかどうかだ。

これは目測であるが、そのタイミングは、14年10月辺りにテーパリングが完了して、より具体的に利上げ時期を意識する頃ではないだろうか。14年終盤に、米失業率のさらなる低下が展望されるようになると、米長期金利はインフレ加速のシナリオを織り込んで上がっていくだろう。ドル円レートが円安方向に大きく動くとすれば14年終盤ではないか。

<「追加緩和=円安」ではない>

現時点で、「日銀の追加緩和が実施されれば、為替は大きく円安に向かう」という見方をしている人はかなり多い。3月、4月の金融政策決定会合後の黒田東彦日銀総裁の記者会見では、相当に冷や水を浴びせる性格の発言内容を繰り返しているのに、追加緩和期待はまだ熱い。

筆者は、そうした見方には以前から冷静だった。黒田総裁が語りかける通り、日銀の景気シナリオが崩れるリスクの顕在化がなければ、追加緩和はしないと考えている。

そもそも、追加緩和で13年4月の「異次元緩和」を再現できるものなのだろうか。アベノミクスは、FRBの量的緩和第3弾(QE3)が12年9月に実施されたからこそ、それと重なってドル高・円安、そして株価上昇という地殻変動を起せたように見えた。現在は、それを再現できる威力は感じられない。

仮に日銀のシナリオが狂って、景気下振れのリスクが高まったとしよう。それは国内要因よりも海外要因でリスクが顕在化するときだろう。そうなると、ドル安・円高が進んで、日銀の追加緩和はその悪影響を減殺するための「カウンターパワー」という位置づけになる。ならば、追加緩和で一気に円安に向かう、というシナリオは実現しにくい(逆説的に円安誘導をするならば、景気が良好な今だという見方もできる)。

筆者の見解は、追加緩和がなくても、景気が良くなっていく中で超金融緩和が続けられる恩恵がリスク回避志向を弱めて、徐々に海外資金移動、海外投資といった円安圧力を生じさせるというものだ。米経済が次第に拡大ペースを上げていくとすれば、それはドル高圧力になっていくから、日本の景気拡大の作用とシンクロしていく。筆者は、今は静かにこちらのマグマが蓄積されていると考えている。

日米長期金利差の行方を展望すれば、日銀が追加緩和を行わなくとも、14年秋以降には緩やかに拡大していくだろう。日本では15年に消費税率を再度引き上げる決定が行われて、財政再建の見通しがより蓋然性を高める。景気情勢も、雇用拡大のパワーが強まって、本格的にデフレ脱却を語ることができる段階になる。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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