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コラム:イエレンFRBが直面する「雇用爆発」リスク=鈴木敏之氏
May 8, 2014 / 8:34 AM / 4 years ago

コラム:イエレンFRBが直面する「雇用爆発」リスク=鈴木敏之氏

[東京 8日] - 量的金融緩和に積極的に取り組んだ日米英で雇用の改善が進んでいる。英国では7.0%の失業率に到達するまで緩和を続けると言っていたら、瞬く間にその水準を割ってしまった。日本では有効求人倍率がバブル崩壊後のピーク(1.08倍)間際の1.07倍まで上昇し、人手不足の話題が日々、報道紙面に登場するようになっている。

米国でも、4月分の非農業部門雇用増加数は28.8万人という強い数字になり、同月の失業率も金融政策変更を検討する閾値としていた6.5%を割り込む6.3%となった。雇用状態が良くなるのは待望されていたことではあるが、米連邦準備理事会(FRB)にとっては、悩ましい問題でもある。

今の時点で米国の失業率が6.3%にまで下がったことは、FRBが二重の判断の誤りを犯したことを意味する。第一に、閾値として6.5%を設定した時点では、2014年4月にそこに到達するとは見ていなかっただろう。失業率の動きを読めなかったのである。

第二に、今、インフレが心配されている状態にはない。失業率6.5%という閾値が、閾値ではなかったことになる。イエレン議長のもとでFRBは、金融緩和によって次元の高い完全雇用を目指すのだろうが、雇用に関する最重要指標であるはずの失業率の動きを読みきれていないうえに、失業率とインフレの関係も見えていなかったことになる。

<短期失業率低下の意味>

さらに、FRBの金融政策運営は、ふたつの難題に直面していることが見えてきている。第一は短期失業率の低下が進んでいることであり、第二は雇用爆発の脅威である。

失業者の失業期間で27週間を境目に短期と長期に分けて、短期失業率と長期失業率を計算すると、短期失業率は4.1%まで下がってきている。4%割れは、08年の金融危機前のブーム時の水準である。長期失業率は、危機前よりもはるかに高い。

ここで問題になるのは、賃金動向に影響を与えるのは短期失業率だということである。高齢などの理由で再就労への意欲の小さい失業者の多寡は、賃金への影響は小さい。しかし、雇用情勢が好転して就労意欲の旺盛な労働者を確保しようとすると、賃金を上げることが必要になるということだろう。

「賃金動向を決めるのは短期失業率ではないのか」「もう賃金上昇を視野に入れるべきではないのか」「今のような強い金融緩和をしていて危険はないのか」。こうした疑問に対して、FRBサイドも気にしたとみられ、スタッフ(Michael Kiley)の調査報告という形で、反駁した。すなわち、長期失業率が高い場合、インフレは抑制されるというデータと分析を示したのである。

ここで問われるのは、この反論のやり方だ。もし短期失業率が下がってきて、これから賃金上昇が始まったとしたら、「短期失業率が賃金を決める」「もう危険だ」という批判側の主張が正しいことが明瞭になってしまう。無視どころか、反論したとなると、短期失業率の低下に応じて賃金が動き出す場合、指摘がありながら、それを退けて強い緩和を続けたことになり、FRBの信認は大きく損なわれることになりかねない。

<イエレン議長にとっての敗北とは>

雇用爆発の脅威も一顧に値しよう。労働生産性の伸び率は毎期振れるが、趨(すう)勢を見ると、01年あたりから低下が続いている。そのもとで、ゼロ金利に加えて、量的緩和とフォワードガイダンスで強烈な金融緩和をやって需要を刺激し、3%成長を続けさせるというのが、今のFRBが送っているメッセージである。この需要拡大を満たす供給力を左右する労働生産性の伸びが趨勢的に鈍っているとなると、雇用者数を爆発的に増やすか、個々の労働時間を延ばすかが必要になる。

ちなみに、FRBは、この問題については、労働生産性の伸び率が高まることを暗黙に想定している。はたして、その目論見の通り、労働生産性の伸びが回復しないと、雇用統計の非農業部門雇用者数が増えることが脅威になる。賃金がはねれば、FRBの責務である持続可能な雇用最大化の「持続可能」が損なわれるからである。

起きる可能性は明瞭ではないが、この雇用爆発は非常に厄介だ。前述した通り、金融緩和によって質的な面も重視する次元の高い完全雇用を目指すというのがイエレン議長の立場だ。労働者数の急増は短期間ならば、歓迎されるが、それが続くと、賃金上昇、インフレ圧力となることを心配しなくてはならなくなる。そうした事態が早く到来すると、今の量的緩和を秋に終了し、時間をおいて利上げという悠長な正常化は言っていられなくなる。後手に回ったという「Behind the Curve」の批判が沸き起こる。

それに金融政策を動かすことで応じるにしても、FRBが保有証券の償還分の再投資をとめ、過剰の準備を吸収してからでないと、金融政策はブレーキをかける方向に動けないという従来にはないハードルがある。

また、急がざるを得なくなって、臨時の米連邦公開市場委員会(FOMC)でも開こうものならば、フォワードガイダンスの公約はどうなったのかという問題になり、その先の引き締めを見越して、リスク資産の値崩れが起きるかもしれない。それは、「持続可能な」雇用最大化の任務達成の可能性を大きく損なう。さらに厄介なことは、そうした事態が起きたときに有効な金融緩和の手段が見当たらないことである。

需要は強いが、労働生産性の伸び率も回復して、穏当だが着実な雇用拡大があり、インフレも眼前の脅威とはならない中で、株価が上昇し、家計は雇用拡大と資産価値の増加で成長の好循環が見えてくるのが、イエレン議長にとっての勝利である。雇用への需要拡大が爆発し、短期失業率が低下して賃金が上昇し、後手に回った(Behind the Curve)という批判が激昂する中で、悠長な正常化を撤回させられることは、イエレン議長にとっての敗北である。

どちらに振れるのか。雇用統計ごとに緊張を強いられることになるが、両方の可能性を見ておく必要がありそうだ。

*鈴木敏之氏は、三菱東京UFJ銀行市場企画部グローバルマーケットリサーチのシニアマーケットエコノミスト。1979年、三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。バブル崩壊前夜より市場・経済分析に従事。英米駐在通算13年を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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