May 12, 2014 / 7:54 AM / 4 years ago

コラム:公的年金の株式投資拡大は賢明か=佐々木融氏

[東京 12日] - 昨年11月に「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議」が報告書(以下、報告書)を公表し、公的年金基金による積極的なリスクテイクに向けた機運が高まっている。

ただし、現在の議論の流れを見ていて気になるのは、年金基金が株や外貨建て資産を買い増すことや積極的にリスクテイクを行うことに注目が集まり過ぎているのではないかという点である。

報告書には、「デフレからの脱却を見据えた運用の見直し」と「リスク管理体制等のガバナンスの見直し」の二つの大きな項目がある。そして、両者は「セットで行う必要」があると明記されている。

これは当然のことだろう。リスクテイクに関する優秀な専門家と適切なリスク管理体制が確立しないまま、リスク量だけを膨らませれば、損失が膨らむのは目に見えている。被保険者の一人として、願わくは「ガバナンスの見直し」をやや先行させつつ「運用の見直し」を行っていただきたい。

報告書では、ガバナンスについて、「運用対象の多様化やリスク管理の高度化を図るためには、第一線の専門人材が必要であり、報酬体系の見直しを含めた対策が不可欠」と指摘されている。実際にどのようにリスクテイクを積極化させるのかは不明だが、仮に自家運用でリスクテイクを積極化させ、それに見合った利益をあげるためには、比較的多額の報酬を払って、各市場(株式、債券、為替など)に精通した優秀なファンドマネジャーをそれぞれ雇う必要がある。

また、投資判断は会議を開き多数決で行うようなものではなく、専任の業務執行責任者の監督の下で、個々のファンドマネジャーに任せる必要があるだろう。判断は優秀なファンドマネジャーに委ね、それをしっかりとしたリスク管理体制によって監視し、個々人の暴走や予想外の損失発生を防ぐことが重要なのである(運用成績の悪い状態が続くファンドマネジャーは解雇し、常に優秀な人材を雇い入れ、優秀な人材には職にとどまってもらうための努力も必要だ)。

さらに、ある程度の損失が出ても、それを受け入れる体制や国民の理解も必要である。たとえば、報告書が出た昨年11月20日に本当に国債の保有額を大きく減らし、日本株の保有比率を大きく増やしていたら、現時点では損失が出ている。しかし、こうした状況下でも、長期的な被保険者の利益のためには、現在の含み損を受け入れてでもリスクテイク姿勢は維持すべきとの認識が広く共有されることも重要である。日本の世論と公的年金がこのような変化を本当に実現できるならば、画期的なことだと言えよう。

<目先の株価押し上げ効果は限定的>

公的年金基金の目的は、目先の株価を押し上げることではない。当社の試算では、仮に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が基本ポートフォリオにおける国内債券に対するウエイトを、現在の60%から45%程度に引き下げ、国内株式に対するウエイトを現在の12%から20%に引き上げても、新たに国内株に投資される資金は今後2年間で2―4兆円程度にとどまる計算となる。

もしも株価が今後上昇するとしたら、新たに株式に振り向けられる資金はさらに少なくなる。目先の株価押し上げ効果は限定的だろう。ちなみに、外貨建て資産に新たに振り向けられる金額は2年間で4兆円程度と推計され、円相場の方向性に大きな影響を与えるとは考えにくい。これも円安が進んだら新たな円売り額は減少する。

そもそも市場は実体経済を映し出す鏡でしかない。したがって、たとえ年金基金が一時的に株価を押し上げることはできても、企業収益が増加しないのであればその株価水準は維持できない。

たとえば、GPIFは毎年、積立金を取り崩して年金を支払っていかなければならない。つまり、GPIFが株式を大きく買い増すのは、現在保有する資産の構成比率を変更する時だけである。その後も株価が上昇するかどうかは、結局、日本企業が成長し、企業収益が増加するかどうかにかかっている。企業収益が増加しないのであれば、結局株価は元に戻るだけだ。

この点からも、本来注目すべきなのは、日本の年金基金が短期的にどの程度株を買い増すかではなく、年金基金の運用方針の変化が長期的に見て日本企業の持続的な企業価値の向上につながる可能性があるということだろう。

そのためには、報告書でも指摘されているように、資本の効率的活用や投資者を意識した経営観点など、グローバルな投資基準に求められる諸要件を満たした企業で構成されるJPX日経400のような株価指数をインデックスとして採用したり、「日本版スチュワードシップ・コード」に関する検討結果などを踏まえ、投資先との対話を緊密化させたり、議決権を適切に行使したりといったことを真剣に検討する必要がある。そのような改善策が実行に移されて初めて、公的年金運用改革は日本企業の収益性向上を通じて長期的な株価上昇の可能性を高め、日本経済の発展に役立つものと考えられる。

株価を引き上げるのは年金基金を含む投資家の仕事ではない。政府が日本の株価を引き上げたいと考えるなら、やるべきことは誰かに株を買わせることではなく、結果的に企業収益が増加するような方向へ向かうための、経済の構造改革や規制緩和なのではないか。

繰り返しになるが、市場は実体経済を映す鏡でしかない。誰かが鏡を持ち上げて見せ方を変えても、実体が変わらなければ意味はない。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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