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コラム:「円高の夏」到来か、米株急落に要注意=斉藤洋二氏
May 23, 2014 / 6:23 AM / 4 years ago

コラム:「円高の夏」到来か、米株急落に要注意=斉藤洋二氏

[東京 23日] - 年明け以降、米国の大寒波、新興国不安そしてウクライナ危機など、リスク事象の顕現化が相次ぎ、国際金融市場のリスクテイク機運の盛り上がりは今一つだ。中でも特筆されるのが、2012年11月より世界の金融市場を牽引してきた日本発の株高・円安トレンドの変調である。

日本株(日経平均株価)は昨年末より14%下落し、アベノミクス相場において初めて前年同時期の水準以下へと落ちこんだ。チャート的にも昨年末に1万6000円水準でダブルトップを形成して以降下落し、1万4000円水準で52週移動平均線を13週移動平均線が、さらに日々線が上から下へと切り込み不完全ながらデッドクロスを描いた。

この背景として「アベノミクス」、とりわけ金融政策、つまり「クロダノミクス」への期待の剥落が挙げられる。また、円相場も上下動を繰り返しつつ強含み、目下101円台。特にこのところボラティリティ(予想変動率)が下がっており、次の大相場の始まりも予感させる。

果たして株安・円高へと突き進むのか。それとも一転してアベノミクス相場の第二幕が始まるのだろうか。

<中銀シャーマンの神通力も低下気味>

「期待」は人間行動の大前提として位置づけられる。近代経済学では、市場経済を構成する経済主体が資源と情報を有効に使って「期待」を形成し、最も望ましい結果をもたらす行動を選択するものとされてきた。

これまで市場参加者はアベノミクスがもたらす将来の均衡市場価格の客観的確率分布を想定し、「期待」に基づく最適化行動、つまり株買い・円売りを行ってきた。しかし、「期待」は時間とともに色あせる。また、「期待」はその「効用」(=満足感)が時々に実現されることで再認識され、新たな「期待」が醸成されるものである。

換言すれば、「効用」があってこそ期待メカニズムは機能するが、「効用」を享受することが無ければ「期待」はいつしか「失望」に転じる。

アベノミクスは経済主体である国民、市場参加者の「期待」に働きかけることによりデフレスパイラルからの脱却を目指したが、「第一の矢」の金融政策はしょせん時間稼ぎであり、「第二の矢」の財政政策には数量的な限界があると認識されてきた。つまり、「期待」の本質は「第三の矢」にあり、成長戦略が描けるか否かにかかってきた。

国内では依然として成長戦略が熱く語られるが、海外ではそもそも日本には「第三の矢」は存在しなかったという冷めた見方が支配的である。それが年初来の外国人投資家の売り越し、そして株安・円高の背景になっていると説明できよう。

08年のリーマンショック以降、「マネタリー・シャーマン」と言われるほどに中央銀行総裁の役割が大きくなった。かつて人々は、超自然的存在と交信するシャーマンのお告げに光明を見出してきた。現代のマネタリー・シャーマンが発するお告げを読み解くのは難しいが、その効能は時として凄まじい。今や市場は受動的にお告げを待つだけでなく、その恩寵を得ようと能動的に督促する。

目下、市場の長期的な「期待」が「第三の矢」にあるとすれば、近視眼的な「期待」は日銀による追加緩和策に集まっている。過去数カ月に渡り市場は追加緩和を期待し、日銀の金融政策決定会合を前にして株価は上昇し、空振りするや下落を繰り返してきた。

このような反復がいつまで続くか定かではないが、日銀が緩和カードにサプライズも込めようとすれば、その内容とタイミングはいよいよ難しくなる。市場の「期待」をつなぎ止めることは時間の経過とともにマネタリー・シャーマンにも至難の業となってきたと言えよう。

<遠のくアベノミクス相場第二幕>

上場企業の14年3月期決算は、連結営業利益で約2.3兆円の史上最高益を計上したトヨタ自動車(7203.T)に代表されるように、円安そして消費増税前の駆け込み需要により空前の利益を出し、その一部はベアとして還元された。

しかし、15年3月期については円安効果の一巡、さらに消費増税による消費の伸び悩みを懸念する向きが多い。特にベアの恩恵に浴さない多くの給与生活者の肩にインフレと増税の重荷がかかり、消費低迷は企業業績そして株式市場の重石となるだろう。

18世紀の思想家バーナード・マンデヴィルの発想に由来すると言われる「トリクルダウン理論」は、富める者が富めば、貧しい者にも自然に富がトリクルダウン(浸透)すると説く。しかし、現代の先進国や経済規模が一定水準を超える国々では経済構造が複雑化しており、この理論のように富は必ず上から下へ流れると単純には言い切れない。

実際、アベノミクス導入により新たな富が蓄積されたものの、企業において新規設備投資のような富の水平的な広がりは乏しく、中間層さらには貧困層へと富の垂直的な浸透の事例も少ない。有効求人倍率が改善し、業種によっては人手不足が伝えられるなどアベノミクス効果への期待は根強いものの、実体経済へ十分に波及するのは難しい。

とりわけ、実体経済の体温であり、またアベノミクスの成果として強調されてきた株価は、13年こそ15兆円を超える外国人投資家の買い越しにより押し上げられたが、14年に入り3月の1兆円超など大幅に売り越しとなっている。

この状況打開に向け、政府は少額投資非課税制度(NISA)に続き年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のポートフォリオ組み換えにより株価上昇を企図していると言われる。しかし、法人税減税の議論が進むとともに消費税再引き上げが不可避となれば、当面は株価上昇の下押し材料となり株高・円安のアベノミクス相場第二幕は遠のく。

    <危険水域に達した米国株>

    現在の日本株(日経平均)は、株価収益率(PER)は約14倍、 株価純資産倍率(PBR)は約1.2倍と低水準であることから、世界で最も割安な投資先と推奨する向きがある。しかし、これはあくまでも市場の均衡は維持され、そして現在の相場は踊り場にあり株高・円安トレンドへの復原力を十分に備えていることを前提としている。さらに、この前提は米国株の堅調なトレンドが続くとの絶対条件の上に成り立っている点に注意が必要だ。

    米国株(ダウ工業株30種平均)は09年2月以降の上昇トレンドを維持し史上最高値を再三更新しているが、上昇の熱気に溢れるわけでもなく、ほどほどの状況が続いている。これは米国経済が雇用環境などに改善を示す一方で住宅市場が低迷するなど強弱入り乱れ、市場は未だ景気回復への確信を持てないでいることを反映したものと言えよう。実際、長期金利低下に見られる通りグレートローテーション、つまり債券市場から株式市場への資金シフトの動きも乏しい。

    米国の経済学者ハイマン・ミンスキーは、自らの金融不安定仮説において、金融市場には均衡に収斂するのではなく均衡が崩れる方向へと働く力が内在している、と主張している。このように均衡はいつか崩れるとすれば、米国株はそろそろ危険水域に入っている可能性を否定できない。

    何しろ、「悪いニュースも良いニュース」とばかりに全てを米量的緩和策に結びつけて買い材料とし、5年を超えて上昇してきたのである。ITバブルの大相場(94年後半から2000年まで)、住宅バブルの大相場(02年後半から07年後半)もちょうど5年程度で終わっている。

    初夏を迎えた東京市場は米国株堅調の現状においても株安・円高基調にある。とすれば、米国株が下落した際の日本株そして円相場への影響はさらに深刻だ。加えて「冬は円安、夏は円高」との相場変動の季節性に関するアノマリー(経験則による規則性)に思い至れば、「円高の夏」への備えはくれぐれも忘れてはならない。

    *斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。

    *本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

    *本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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