June 10, 2014 / 4:17 AM / 4 years ago

コラム:動かぬ市場に潜む「バブル」の芽=佐々木融氏

[東京 10日] - 先週一週間、筆者は東南アジア各国を訪問し、各国中央銀行、機関投資家、ヘッジファンドの他、日系企業関係者と面談を行った。

最初の訪問先はタイのバンコクだった。政変が起きた国を訪れることに最初は一抹の不安を感じたが、実際に行ってみると、やや拍子抜けしてしまった。交通量がやや少なくなっているとのことだったが、逆に言えば、その程度しか変化が見当たらないということだ。街中を移動中、軍関係で目にしたのは談笑する2人の若い兵士ぐらい。軍事車両も見かけなかった。

この間、為替相場の方はといえば、欧州中央銀行(ECB)によるマイナス金利導入と米雇用統計の発表という重大イベントがあったが、ドル円相場は102円台、ユーロドル相場も1.36ドル前後と最近のレンジ内の動きにとどまっている。

このまま永久にレンジ取引を続けるのではないかと思われるほど動意に乏しい。ドル円相場の1カ月物インプライド・ボラティリティ(予想変動率)はとうとう5.3%まで下落し、ユーロドル相場のそれは5%を割り込んだ。歴史的な超低ボラティリティ状態である。

JPモルガンの調べでは、過去に主要通貨のヒストリカル・ボラティリティ(3カ月物)の加重平均値が7%を下回ったことは、1980年代以降で見て、今回を含め合計20回ある。その期間は最短で58日間(2002年12月から03年1月、第2次イラク戦争で終了)、最長で480日間(1996年1月から97年5月、アジア通貨危機で終了)、平均で153日間だった(日数は週末を含む)。

今回7%を下回っている期間は、先週末時点で45日間。仮に現状の低ボラティリティが過去最短と同程度で終了するならば、相場はあと2週間もすれば動き出すことになる。一方で、過去最長に並ぶならば、低ボラティリティ状態は15年8月頃まで続くことになる。平均的な期間で終了するならば、今年9月頃には動き出す計算だ。

もっとも、これでは期間が2週間から1年2カ月と幅があり過ぎるため参考にならない。そこで、低ボラティリティが継続した過去19回の中身をもう少し細かく調べてみると、概ね米連邦準備理事会(FRB)が緩やかに利下げを行っている期間か、政策金利を据え置いている期間と一致する。

そして、FRBが金融政策の引き締め方向への動きを見せるか、重大な地政学リスクが発生するか、ブラックマンデー、アジア通貨危機、サブプライム危機のような経済的に重要な事象が発生すると、低ボラティリティ状態は終了している。

実際、前回の低ボラティリティ期間は12年12月から13年5月の156日間だったが、この時の幕引きのきっかけは、当時のバーナンキFRB議長が「今後数回の連邦公開市場委員会(FOMC)で資産購入のペースを減速することもあり得る」と発言したことだった。

したがって今後、アジア通貨危機のような事象や重大な地政学リスクが顕現化しないという前提に立てば、低ボラティリティ環境からの脱出は、イエレン議長率いるFOMCが何らかの形で利上げに向けて具体的な道筋を示したタイミングとなる可能性が高いかもしれない。

<ミニバブルの破裂か、それとも膨張か>

市場のボラティリティが全般的に低下し過ぎたり、低水準の状態が長く続いたりすると、実は「バブル」と呼ばれるような事象が発生しやすくなる。そのような状況下では、投資家は低金利通貨で資金を大量に借り入れ、それを多少でも高金利通貨、ないしはリスクが高そうに見えても利回りの高い資産に投資しておけば、簡単に利ザヤ・リターンが稼げるとの期待を高めてしまうからだ。

そして、実際にそのような取引が行われ、それでも市場が動かず、低ボラティリティ状態の中でもある程度の利益が稼げると、リスクに対する感覚が麻痺し、リスクテイクはどんどん大きくなっていってしまう。低ボラティリティ環境下ではそもそもリターンが低い投資先しかないから、自ずとポジションの規模が大きくなる。

その後、誰もがこうした環境がずっと続くと思い始めた頃に、ターニングポイントは訪れる。市場の変動が激しくなり、巨大に膨らんだポジションが損失を生み始め、そのポジションを慌てて手仕舞おうとする動きが、さらに市場の変動を大きくし、損失拡大を招くことになるのである。

仮に2週間後に低ボラティリティ状態が終了するなら、すでに膨らんでいるミニバブルが「ポンッ」と小さな音を立てて破裂するのかもしれない。それは何か――。過去最高値更新を続ける米国の株価か。それとも、実体がベールに包まれている中国のシャドーバンキングか。あるいは、インフレ率がすでに1.5%(消費税増税を除いたベース)まで上昇しているのに、いまだに0.6%程度で取引されている日本の10年物国債だろうか。米10年物国債利回りの水準を下回ったスペインなど欧州周辺国債市場かもしれない。

バブルは終了した時にしか分からないというから、実はミニバブルではなく、すでに大きなバブルが発生しているのかもしれない。あるいは、仮にこれから1年以上も低ボラティリティ状態が続くようなことがあれば、本格的なバブルは実はこれから発生するといえるのかもしれない。それは、米株価の上昇にさらに拍車がかかる、それとも欧米長期金利の大幅低下が進むということなのだろうか。

いや、恐らく筆者がここで例として挙げられるようなものではなく、破裂して初めて気がつくようなものである可能性が高い。率直に言って、これだけの低ボラティリティが生み出す市場の歪みや、低ボラティリティ状態を終了させる事象はどこに隠れているか分からない。冒頭で筆者が言及したタイにしても、本当は完全に楽観視してはいけないのかもしれない。ウクライナ情勢をめぐる地政学リスクに対しても、すっかり安心しきっている。

ドル円相場は引き続きこう着状態にあるが、注意深く市場の動きを観察し、その歪みや破裂する可能性につながる「芽」を見極めていく必要がある。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below