Reuters logo
コラム:ドル110円シナリオは挫折したのか=村田雅志氏
June 11, 2014 / 4:37 AM / 4 years ago

コラム:ドル110円シナリオは挫折したのか=村田雅志氏

[東京 11日] - 為替市場では昨年末、今年はドルが対円を中心に上昇基調を続けるとの見方が大勢だった。たとえばドル円の場合、年末には110円を見込む声が強く、一部からは115円や120円といった威勢のいい見通しも示されていた。

しかし、こうした予想に反し、ドル円は年明けからわずか1カ月で年初に記録した105円台前半から102円ちょうど近辺に下落。4月上旬に104円程度まで上昇する場面もあったが、総じてみれば2月以降は102円を挟んで方向感に欠ける動きを続けている。

今年も半分が過ぎようとする中、こうした相場の流れを受けて、見通しを変更する動きが強まってきた。ドル円は上昇したとしても今年夏場まで103円程度で上値が重く推移するという見通しが市場のコンセンサスとなっている。秋口以降は再び上昇するとの見通しが多いが、それでも年末水準は106円程度と、年初来高値の105円台前半を小幅上回る予想となっている。

ちなみに、為替市場関係者の一部は、昨年末の見通しを変えず、110―120円程度まで上昇するとの見方を維持しているようだが、その達成時期は今年末ではなく、いつのまにか「中期的に」などに後ずれしている。

昨年末にドル円の上昇を見込む声が強かったのは、今年に入っても円売りとドル買いの動きがともに続くとの見方が、それなりの説得力を持っていたためだった。市場関係者の多くは、4月の消費税率引き上げなどを受けて日本の物価が伸び悩むとの見通しから日本銀行が早ければ5月にも追加緩和に動くと予想。追加緩和の方法は定かではないものの、昨年4月に打ち出された量的・質的金融緩和と同様に、相当の円安効果を期待した。

しかし、市場の見通しとは裏腹に、消費者物価(CPI)は堅調な伸びを維持。今年4月のCPIは前年同月比プラス3.4%(総合指数)で、日銀が試算した消費税率引き上げの影響を除いても3月から伸びが加速した。黒田東彦日銀総裁は、基調として労働需給ひっ迫や中長期的な物価予想の高まりが実際の賃金・物価形成に影響を与えていると指摘。4月8日の会見では満面の笑みで2%の物価目標達成への自信を示した。一方、岩田規久男日銀副総裁は物価が2%を恒常的に上回り続ければ、政策を調整すると述べ、直近の日銀首脳発言としては初めて出口戦略に言及した。

早ければ5月と言われていた日銀の追加緩和観測は7月に先送りされたが、最近では年内の追加緩和は見送られるとの見方が増えている。

<米金利低下「中ロ犯人説」の誤謬>

しかし、それでも上述したように「ドル円は夏場まで伸び悩むが、秋口以降は上昇する」との期待が続いている。それは、たとえ日銀の追加緩和期待が後退し、円売りの動きが望めなくとも、ドル買いの動きは続くとの期待が維持されているからだろう。

米国では連邦準備理事会(FRB)が2013年12月に債券買い入れ額を月額850億ドルから750億ドルに縮小することを決定。バーナンキFRB議長(当時)は会合後の記者会見で、雇用の伸びが予想通り継続すれば、債券買い入れは14年の大半を通じて慎重なペースで縮小を続ける公算が大きいとの見方を示した。

3月18―19日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)は声明で、資産買い入れ策終了後も、現行のフェデラルファンド(FF)金利の目標誘導レンジを「相当な期間」維持することが適切になるとの見解を表明。しかし、FOMC後の記者会見でイエレンFRB現議長が「相当な期間」に関する質問に対し、「おそらく6カ月程度を意味している」と回答したことから早ければ年内にも利上げが実施されるとの見方すら出た。

その後、同議長は早期利上げに対し否定的な姿勢を示したものの、一部地区連銀総裁は15年での利上げに前向きな姿勢を示したままだ。FRBが14年に債券買い入れの縮小を続け、15年の利上げが視野に入るならば、米長期債利回りは上昇するとの期待が強まるのも無理はない。米長期債利回りが上昇するならば、ドル買いの動きも続くとの期待が維持されるのは自然なことである。

しかし、こちらも市場関係者の思惑とは裏腹に、米長期債利回りは今年に入って低下基調で推移。米10年債利回りは年初の3.0%ちょうど近辺から2月初めには2.6%割れ。その後は2.7%を挟んでの上下動が続いたが、5月半ばには節目とされる2.5%を割り込み、5月29日には一時的とはいえ2.4%近辺と13年6月以来の低水準に低下。その後は反発したものの、6月に入っても2.6%近辺で上値が重いままである。

米長期債利回りが今年に入り低下した理由はいくつか指摘されている。一つはベルギーに本社を置く清算機関ユーロクリアを通じ、中国やロシアが米国債の保有額を拡大させているという見方だ。米財務省が発表している米国債国別保有残高によると、ベルギーの保有残高は確かに増加基調で推移しており、今年に入り、中国、日本に次ぎ3位に位置している。

ただ、この見方が仮に正しいのであれば、米国債利回りが低下すると同時にドル買いの動きが強まることになり、ドルの上値が重いという現実を説明できない。中国やロシアが米国債保有額を拡大させていることは否定できないものの、FRBが証券買い入れ枠を淡々と縮小させているにもかかわらず、米長期債利回りが低下基調で推移している理由を中国やロシアの動きだけで説明するのは無理があるように思える。

<10年前の「謎」との共通点>

むしろ説得力が高いのは、FRBタカ派メンバーの見方とは異なり、米国のインフレは今後も当分、低い伸びにとどまるとの期待が強まっているという推測だ。

米国景気は第1四半期に厳冬の影響で大きく減速したものの、第2四半期は市場の期待通りに持ち直した。仮に米景気の拡大期待を背景に市場のリスク選好姿勢が強まり、過剰流動性相場の様相が強まっているのであれば、資金は米国債ではなく米国株により多く回るはずである。しかし、現実には米国株だけでなく米国債にも資金は流れている。

おそらく米国の投資家は、景気拡大期待を維持しながらも、米国でのインフレが当分、弱いとの見方から米国債を買い戻しているのだろう。現に米個人消費支出(PCE)コアデフレータは4月でも前年比プラス1.4%と2カ月連続で加速したとはいえ2%を大きく下回る水準のままだ。

5月の米雇用統計では非農業部門雇用者数が21.7万人増と堅調な伸びとなったが、平均時給は前年比プラス2.1%と伸び悩み。週平均労働時間は34.5時間と12年以降、同水準を上回ることができておらず、労働参加率は62.8%と1978年3月以来の低水準に低下したままである。これでは米インフレが、FOMCが利上げの基準とする2%を早期に超えることは期待しにくく、FRBは利上げに対して慎重にならざるを得ない。

市場予測によると米利上げ時期は15年後半との見方が有力視されているが、筆者は市場予想より後ずれする可能性があるとみている。イエレンFRB議長やニューヨーク連銀のダドリー総裁は、賃金の伸び悩みなどを理由に金利上昇に対し引き続き非常に慎重な姿勢を崩していない。

また、米中古住宅販売は13年半ば以降、弱含みでの推移となっている。筆者は米利上げ時期が早くても15年第4四半期で、雇用や住宅市場に変調の兆しが見られれば、16年まで見送られる可能性も十分にあると考えている。

債券市場関係者の一部は、米長期債利回りが上昇しない足元の状況が、利上げを10回繰り返したにもかかわらず、米長期債利回りが上昇せず、当時のグリーンスパンFRB議長が「コナンドラム(謎)」と表現した状況に似ていると指摘している。確かに当時(約10年前)も今も、FRBは金融政策を緩和から引き締め方向にシフトさせながらも、そのペースは非常に緩やかなものにすると半ば公言。この見方が正しいのであれば、米長期債利回りは少なくとも今年いっぱい低位安定となり、ドル買いの動きは強まらず、ドル円は低いボラティリティのまま方向感に欠ける動きが続くことになる。

ただ、周知の通り「コナンドラム」の後に起きたのは、市場が予期しない形での米住宅市場の崩壊と世界的な金融不安だった。FRBは慎重に利上げを続けたつもりだったが、実体経済はその重みに耐えきれなかった。

今回もFRBが総意として利上げに前向きな姿勢を示すそのタイミングで、米長期債利回りが上昇し、ドル買いの動きが強まるだろう。しかし、それは09年6月から始まった米景気の拡大局面が終了に近づく合図となり、低ボラティリティが続いたドル円相場に大きな波乱を呼び寄せるかもしれない。

今後の予期せぬ波乱から身を守るためにも、現在のドル円の低ボラティリティを前提とした高金利通貨買いの動きは限定的なものにすべきだろう。

*村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below