June 24, 2014 / 10:25 AM / 4 years ago

コラム:成長戦略と日銀金融政策に潜む円高リスク=佐々木融氏

[東京 24日] - 経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)と成長戦略が閣議決定された。内容の多くはすでに報道されており、特に目新しいものはなく、安倍晋三首相の記者会見の内容もかなり安全保障問題に割かれたものとなった。

昨年6月5日に安倍首相が講演で成長戦略を発表した後、日経平均株価は急落し、円相場も急騰した。結局、日経平均株価はその後1週間程度で約8%下落、ドル円相場は約6%下落した。今回はそれほどの動きにはならないと予想するが、海外勢の中には失望から円を買い戻す向きもあると考えられる。

国内投資家の多くは、「骨太の方針」や「成長戦略」はあくまでも目標や方針を示すもので、具体的な決定が発表されるようなものではないと理解している。しかし、政府高官がいたずらに期待を高めるような発言を繰り返すことにより、海外投資家の中には、何かしら具体的な決定が行われるものと期待している向きもある。

市場が期待しているのは、今や計画や意気込みではなく、具体的な決定や実行なのだろう。いたずらに期待だけを高めると、逆に後から失望につながる可能性が高くなる。公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の改革にせよ、法人税減税にせよ、すでに市場参加者の期待は十分高まっているので、これ以上宣伝する必要はない。あとは実行あるのみである。

<追加緩和どころか出口検討も>

もう一つ海外投資家にとって期待外れとなりそうなのは、日銀の追加金融緩和だろう。予想を上回る消費者物価指数(CPI)の上昇圧力に鑑みると、日銀が追加金融緩和を行う可能性はかなり低くなっている。

4月のコアCPIは前年比プラス3.2%となり、消費税増税の影響(1.7%ポイント)を除くと同1.5%となった。2014年度のコアCPI前年比の日銀予想はプラス1.3%であるから、最初の月から予想を上回ったことになる。

ちなみに、全体の15.6%と比較的高いウエイトを占める「持家の帰属家賃」を除いたコアCPIは、前年比プラス3.9%と、消費税増税の影響を除いたベースでは同2.2%まで上昇している。つまり、「持家の帰属家賃」を除いたベースのインフレ率はすでに日銀がターゲットとしている2%に到達していると言えるのである。

詳細を見ても、物価の上昇圧力が強いことが分かる。家庭用耐久財価格の3月の上昇率は前年比5.3%だったが、4月は9.4%だった。明らかに消費税増税以上の値上がりである。携帯電話機は3月の7.4%から4月は12.8%へ、宿泊料は3.1%から7.4%へ上昇率が加速している。

黒田東彦日銀総裁は6月23日に行った講演で、国内需要が今回の景気回復を牽引してきた結果、労働需給の引き締まり傾向が強まり、また非製造業を中心に設備の不足感もあって、需給ギャップが改善を続けていると指摘。この需給ギャップの改善から物価上昇圧力は今後一段と強まっていくと述べた。また、黒田総裁は人々の予想物価上昇率も上昇し始めており、この面からも物価上昇圧力は強まっていくとの考えを示した。

仮に足元のペースで物価が上昇を続けると、予想以上に早い段階でCPI前年比は日銀のターゲットである2%に到達してしまう可能性も排除はできない。そうなれば、追加緩和どころではなく、日銀による「量的・質的金融緩和」の縮小が今後の市場のテーマになってしまう可能性がある。

これは、日銀にとってはあまり好ましくない動きかもしれない。今後の金融政策で最も難しいのは出口政策だろう。国債の購入額を減らすどころか、国債を売却してバランスシートを縮小したり、短期金利を引き上げたりする必要が生じる事態に陥れば、日銀は非常に難しい舵取りを迫られることになる。日銀にとってみれば、インフレ率はむしろしばらく現状程度で推移して、緩和スタンスを継続しながら「先行きインフレ率はさらに上昇する」と言い続けられる状況の方が好ましいのではないだろうか。

こうした状況下、日銀にとって幸いなことは、市場参加者の多くが円安による物価押し上げ効果の剥落により、今後インフレ率は低下してくると予想していることだろう。黒田総裁も23日の講演で、これから夏場に向けては(消費税増税を除いたベースの)前年比プラス幅が1%近傍まで縮小すると強調した。黒田総裁はもしかすると期待インフレ率がこれ以上高まらないように、こうした発言をしたのかもしれない。27日に公表される5月CPIが注目される。

ちなみに、円の名目実効レート(各月平均)を比較すると、今年4月の平均値は前年同月比マイナス6.2%、5月は同マイナス2.6%と確かに円安による物価押し上げ効果はある程度剥落するが、6月は仮に現時点までの平均値のままならば、マイナス6.5%と再び円安効果が強まる。物価上昇率が予想以上に高止まりするリスクには警戒する必要があるだろう。

物価上昇率の高止まり、日銀が出口政策を検討しなくてはならなくなるリスクの高まりは、円相場には円高方向の圧力を加えることになる。日本の長期金利がこれに反応して上昇を始めれば、日米金利差も縮小することになる。日本のインフレ指標は年後半に向けた円相場の波乱要因となる可能性が高い。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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