July 1, 2014 / 3:42 AM / 4 years ago

コラム:動かぬドル円のからくり、オプション市場の異変=高島修氏

[東京 1日] - 相場がこう着色を強める中、最近はドル高か円高かなどといった相場見通しに関する質問よりも、なぜ相場は動かないのか、低ボラティリティの理由は何か、いかにしてこの環境は終わりを告げるのかといった質問を数多く受ける。

オプション市場では、例えば、ドル円1カ月のインプライド・ボラティリティ(予想変動率)は過去最低水準を下回り、目下5.0%前後での推移を続けている。

記録的な領域に達してきたボラティリティ低下に関する筆者なりの解釈はこうだ。年初来パフォーマンスが低調で、ヘッジファンドなど短期投資家のリスク許容度が低下。こうした、通常オプション(ボラティリティ)買いで損失を限定しながらアップサイド収益を稼ぐスタイルの投資家層からの需要が減退したことが、直接的には大きく影響している。

一方で、原資産を持つ市場参加者のオプション取引は正味のボラティリティ売りとなるものが多い。輸出入企業など実需企業による為替ヘッジ取引はその古典的な代表例だ。オプションを用いた為替ヘッジを講じる際に、条件を満たした瞬間に権利が消えるノックアウトを付与したり、レバレッジをかけてストライク(為替ヘッジ価格)を改善させることが多く、この際、往々にしてネットでのボラティリティ売りとなる。

また近年、急速に拡大しているのが、投資家層でのオプション取引である。その典型例が、外貨建て投信で行われることが増えたカバードコール取引である。念のために説明すると、カバードコール取引とは、例えばドル建て資産に投資する際に、ドル円のコールオプション(ドル買い権利)を売却。一定水準を超えるドル円の上昇による値上り益を放棄することにはなるが、オプション・プレミアムを獲得することで、事実上の利回り改善を狙うものである。

これは原資産をバックに、オプション(ボラティリティ)を売却する典型的な取引といえる。同じように、パワー・リバース・デュアル・カレンシー(PRDC)や、プレミアム・デポジットと呼ばれる外貨預金の一種もオプションを売却する投資戦略である。

こうした投資家層におけるオプション取引が増加している時代背景には、次の3つのことがありそうだ。

一つは、近年、世界的にも国際分散投資や外貨取引が一段と増加したことだ。その典型例が投資信託や売出債、外国為替証拠金取引(FX)を通じた日本の個人投資家の外貨投資である。第二に、それでも世界的な低金利環境の中で、期待リターンを満たすことは容易ではなく、投資家が少しでもリターンを改善させることを狙ってオプション売却を行うことが増えてきたことだ。

第三に、それに加えて、各国中銀の金融緩和による過剰流動性の供給、国際決済銀行(BIS)など金融規制の強化によって、大規模な危機が発生するリスクが低減し、オプション売却戦略を可能にしていることである。

<ボラティリティ低下を招く悪循環>

しかも、こうしたエンドユーザー(実需企業や投資家)のボラティリティ売却に伴って、オプションのインターバンク・ディーラーはボラティリティ・ロングとなっていることが多い。

相場が動かない場合、時間の経過に伴ってオプション価値が低減し、損失が発生する。オプション・ディーラーは収益挽回のために、1)「ガンマトレーディング」と呼ばれる、上がったら売り、下がったら買うというスポット取引を行ったり、2)短期オプションの売却を行うことが多くなる。

短期オプションを売却するのは、短期オプションは時間の経過に対して価格変化が大きいため、そのショートポジションを持つことで、ボラティリティ低下局面では手っ取り早く収益を稼げる可能性が高いからだ。こうして、相場はますますこう着感を強め、ボラティリティにもさらなる下落圧力が加わる。恐らく現在はこういう悪循環、いわば自己強化プロセスに陥っているのだろう。

現在、ドル円は年初高値(105円台)を起点とするディセンディング・トライアングル(上値抵抗線は右肩切り下がり、ネックラインは水平線の弱気型の三角保ち合い)を形成中。昨年5月から10月にかけてもドル円は二等辺三角形型のトライアングルを形成した。

この時と状況が似てきているが、一つの違いは昨年秋にはヘッジファンドなど短期投資家のポジション造成が旺盛となり、それに絡んだノックアウト・ポイントの前後でオプションバリアが形成され、凪(なぎ)の相場の後に上げ下げが一時的に加速する期待も持てたが、今回はそうなりそうもないことだ。

短期投資家のアクティビティが落ちており、現在100円前後、104円前後にいくらかバリアがあると見られているものの、相場の勝負どころになりそうな大きなバリアは特段見当たらない。

<2つのファンダメンタルズ要因が影響>

興味深いのは、ドル円ボラティリティをインプライド(マーケットでの価格形成)とリアライズド(過去の実績値)で対比させると、今局面では、1カ月物など短期ゾーンでは、ほぼ一貫してリアライズド・ボラティリティの低下がインプライドに先行していることだ。

上記した需給面での自己強化プロセスが働いているとはいえ、何らかのファンダメンタルズ要因が低ボラティリティの底流にあると考えるべきだ。

そうしたファンダメンタルズ要因に関する筆者の一つの理解は、世界的な不均衡の縮小・消滅である。特に主要国間では、米国の経常赤字縮小、日本の経常黒字急減に象徴的なように、まず国際収支の不均衡が是正されてきた。しかも、その間、主要国政策金利は軒並みゼロ金利時代に突入し、かつ期待インフレ率も収斂(しゅうれん)が進んできた。

通常、国際収支、名目金利、インフレが収斂しても、バリュエーション面での不均衡(平たく言えば、割高感、割安感)があれば、為替相場は大きく動く可能性はあるが、我々の試算では、少なくともドル円に関しては昨春に100円を超えた時点で、価格正常化を終えた。

また、もう一つ注目すべきは、米連邦準備理事会(FRB)による「ドル高封印政策」ではなかろうか。2010年代後半にかけて想定されるエネルギー革命は、90年代後半のニューエコノミーに相当する投資テーマだと考えられる。エネルギー革命がドルの急所である双子の赤字(貿易・経常赤字と財政赤字)を直接的に縮小・解消させる可能性があることを考慮するならば、現在蓄積されつつあるドル高のマグマは90年代後半を上回るものかもしれない。

ただ、現実的には、米経済回復への懐疑心と新興国など海外経済に対する悪影響への配慮から、FRBは極めて緩やかな緩和巻き戻しに徹底しており、94年の利上げをきっかけに長期ドル高局面入りした90年代後半と顕著な違いを生じさせている。

ドル安になりにくい経済環境の下で、ドル高が表面化しにくい金融政策が敢行されている。世界的な不均衡の是正に加え、これが為替市場のボラティリティが低下している背景にあるのではないか。

<急激な円高が誘発されるシナリオは>

なお、最近、低ボラティリティを脱し、相場が動意づくきっかけは何かとの質問をよく受ける。それに対する筆者の答えは、どの水準までのボラティリティ上昇を想定するかによって警戒すべき事態は異なるというものだ。

上記した、ファンダメンタルズ面でのボラティリティ低下の2つの理由(世界的な不均衡是正とドル高マグマの封印)を考慮すると、ボラティリティが上昇する事態として、本質的に想定しておくべきなのは、FRBの引き締め観測に伴う米市場金利の上昇なのだと思う。その変化が緩やかに進行する場合においては、金融市場でも著しい混乱は見られず、為替市場でもドル高が比較的順調に進行することが期待できよう。

ドル円ボラティリティでいえば、10%前後(上振れて15%)までならば、昨年前半にも見られたボラティリティ上昇であり、いわば「平時のボラ上昇」と見なすことができる。米利上げ期待を欠く中でも、日本のインフレ統計の下振れなど、日銀の追加緩和観測の高まりに伴う円安相場の到来でも到達可能な水準だろう。

もちろん、このレベルのボラティリティ上昇は円高サイドでも普通に発生しうる。逆に日本のインフレ統計の上振れで、日銀の追加緩和期待が完全消滅するような場合がそれだろう。

一方で、ドル円1カ月ボラで15%を超えてくると「通常ではない領域」に入り、20%を超えてくると、いわゆる「危機レベル」と目される。目下、現実的に想定されうるのは、恐らく景気回復期待ではなく、どちらかといえば、インフレ懸念の台頭に伴う米金利の急上昇などにトリガーされてのことではないかと思うが、例えばブラジルかインドなど、どこかの新興国が昨年を超える本格的な危機に陥るケースではなかろうか。

この場合、当初はリスク回避による急激な円高が誘発され、米金利上昇を背景とするドル高円安色が強まるのは危機終息後とならざるをえないだろう。

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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