July 3, 2014 / 7:27 AM / 4 years ago

コラム:米長期金利とドル円の一段高は来年に持ち越しか=竹中正治氏

[東京 3日] - 昨年12月末から今年初めにかけて3.0%前後まで上昇した米10年債利回りは、その後2.4%台まで低下、現在は2.5―2.6%で推移している。米長期金利のこの低下をしきりと不思議がり、米国経済の長期的な衰退の兆候ではないかという議論がこの春以来、一部の市場関係者やエコノミストの間で繰り返されている。

しかし、私には不思議でもなんでもない。極めて自然なことで、むしろあのまま3%を越えてするすると長期金利が上昇したとすれば、そのほうがよっぽど特異なことと言うべきだろう。

前回5月28日付のコラム「量的緩和、最後で最大のリスクは中銀の巨大損失」(here)で述べた通り、米国の趨(すう)勢的な実質国内総生産(GDP)成長率が3%強から2%台半ばに低下している点は私も異論はない。ただし、その主因はかねてより見込まれていたベビーブーマー世代の引退による労働力成長率の低下に他ならない。

一部新聞の論説を読むと「金融危機の後遺症」とイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長が話したというが、2008年の金融危機と不況による家計や金融機関のバランスシート調整はマクロで見る限り、損失の償却とその後の資産価格(株と債券)の上昇でとっくに終了している。イエレン議長発言のどの部分を切り取ってきたのか不詳だが、今でも「金融危機の後遺症」が成長率の低下をもたらしているというのは奇妙な議論だ。

さらに、危機後も継続している米国の家計所得格差の拡大が消費性向の低い富裕層の貯蓄増加・消費減少を通じて需要全体の減少を起こし、成長率を低下させているという議論も聞かれるが、これも事実に照らすと矛盾している。

むろん、サマーズ元財務長官ら米国の一部経済学者が所得格差の拡大傾向について繰り返し危惧の念を示しているのは確かであり、所得格差の拡大も事実だ。しかし、格差拡大が消費性向の低下を招いているならば、家計貯蓄率の上昇が見られるはずである。

ところが、実際には米国の危機後の家計貯蓄率は09年の7%をピークに低下傾向を辿っている。ちなみに、2000年以降の平均値は4.6%であり、14年第1四半期は4.4%である。

<長期金利軟化の真相>

それでは、私の長期金利低下の読み解きをご紹介しよう。長期金利の推移は当然ながら米国の景気循環と金融政策を反映する。

まず景気の状況を反映する経済指標は様々あるが、包括的なものとしてGDPギャップ(マクロ的な総供給と総需要のギャップ、マイナスが需要不足・供給力超過)で示すことができる。米連邦議会予算局(CBO)の推計によると、過去1年(13年第2四半期―14年第1四半期)の米国のGDPギャップは平均マイナス4.2%だ(6月25日のGDP第2次改定値発表前の推計)。

GDPギャップはマイナス幅を次第に縮小しているが、1980年以来の平均値プラス1.7%よりもまだかなりマイナス方向に振れている。これはリーマンショック後の不況による需要減少が非常に大きかったことの結果だ。GDPギャップは14年平均ではマイナス4.0%からマイナス3.0%の範囲に入ってくると見込んで良いだろう。

次に長期金利は予想される短期金利の将来にわたる累積結果と同じ水準になるように決まるのが原理だ。つまり、10年物長期金利と3カ月物金利ならば、将来10年にわたって3カ月物で資金運用(あるいは調達)した場合の予想累積利息と、10年物金利での累積利息が等価になるように決まる(信用リスクなどが同一であることが前提)。

現在は短期金利がFRBの非伝統的金融政策(量的緩和)で0%近傍に抑えられているが、将来は金利引き上げが予想されているので、長期金利は短期金利より高く、長短金利差はプラスである。一般的に景気の先行き改善が予想される局面では長短金利格差のプラスの幅が大きくなる。逆に景気の先行き悪化が予想される局面(多くの場合、景気循環のピーク近辺)では長短金利格差は縮小し、フラット化、あるいは逆転することもある。

以上を念頭に、GDPギャップと長短金利差(10年物財務省証券利回り‐3カ月物財務省証券利回り)の相関関係を示したのが、掲載図だ(期間は05年第1四半期から14年第1四半期)。両者の間には有意な(関係性が偶然ではない)負の高い相関関係が見られ、相関係数はマイナス0.86、決定係数は0.73である。これは、この時期の長短金利差の73%はGDPギャップで説明できることを意味する。

CBOが推計したGDPギャップを基に考えると、14年は通年ではマイナス4.0%からマイナス3.0%のレンジにマイナスが縮小すると見込まれる。GDPギャップの平均値をマイナス3.5%として上記の関係性を前提にすると、対応する長短金利差は2.5%となる(図中の近似線の方程式にマイナス3.5を代入して求める)。現状の3カ月物財務省証券利回りは0.1%未満なので、10年物財務省証券利回りの推計値もほぼ2.5%となる。

もっとも、当然バラツキのある関係であり、実際の長短金利差が推計値から乖(かい)離する程度を確率的に示す標準誤差は0.6である。これは3分の2の確率で実際の長短金利差が推計値からプラスマイナス0.6ポイントの範囲におさまることを示している。すなわち14年の10年物財務省証券利回りの中心レンジは1.9―3.1%となる。これが上記データの関係性を前提にした自然な水準だ。

念のために言うと、GDPギャップの推計法は複数あり、前提や推計法次第でギャップの水準についてはかなり異なる結果が得られる。しかし、ここで肝心なのは、ギャップの水準自体ではなく、長短金利差との相関性である。ちなみに、国際通貨基金(IMF)が試算している年次ベースのGDPギャップのデータを使っても、ほぼ同様の結果が得られたことを言い添えておこう(対象期間は1990―2014年)。

<今年3%越えるほうが「コナンドラム(謎)」>

以上の通り、昨年末から今年初めにかけての10年物財務省証券利回り3.0%前後という水準は、今年のGDPギャップと短期金利を前提に予想されるほぼ上限だ。

ロイターでも少なからぬ数の識者が米長期金利の軟化を「コナンドラム(謎)」と呼んでいたが、年末年初に利回り3.0%をつけた時でも、FRBの量的緩和が終了するのは今年の後半であり、実際に金利の引き上げが始まるのは来年の半ば前後と予想されていたはずだ。それを前提に考える限り、今年の10年物財務省証券利回りが、3%を越えてするすると上昇したとすれば、そのほうがよっぽど「コナンドラム(謎)」として受けとめるべきことなのだ。

それではなぜ年末年初にそこまで長期金利は上昇したのか。それは13年に米国の市場参加者を中心に語られたグレートローテーション相場(国債などの安全資産から株式などリスク性資産へのポートフォリオシフト)で、14年もさらにひと儲けしようと動いたヘッジファンドなど投機的なプレーヤーが長期財務省証券を積極的に売り込んだからに他ならない。

ところが、すでに見た通り、年末年初の10年物財務省証券利回り3.0%の水準は、今年の景気と金融政策から導かれる上限近辺だった。そこに1―2月の大雪による米国の経済活動の鈍化が加わり、投機筋の思惑は外れた。結局、損切りに追い込まれるプレーヤーの買い戻しで10年物財務省証券の価格は上昇、利回りは2.4%近辺まで押し戻されたということに過ぎない。

そもそも長期金利に限らず全ての相場は、将来の変化を先取りしようとするプレーヤーの思惑で短期的なオーバーシュート(行き過ぎ)や後戻りを繰り返してジグザグに進むものだ。今年春の長期金利の軟化もそうしたポジション調整によるジグザクな動きのひとこまに過ぎない。

ヘッジファンドなど投機筋の思惑先行で生じた年末年初の長期金利上昇を根拠もなく「景気回復に伴うトレンド」と勘違いしているから、誤った見解が生じるのだろう。

<年内はドル100円割れにむしろ注意>

最後に来年までの予想をしておこう。すでに見た通り、CBOが推計した過去1年(13年第2四半期―14年第1四半期)のGDPギャップはマイナス4.3%だった。15年にこれがマイナス3.0%までマイナス幅が縮小したとすると、長短金利差は2.4%となる。

現時点で15年12月期日の先物が予想するフェデラルファンド(FF)金利は約0.7%だから(6月27日時点)、来年12月の10年物財務省証券利回りの現時点の推計値は3.1%となる(FFレートと3カ月物財務省証券の利回りがほぼ同じ想定)。やはりプラスマイナス0.6%の標準誤差の幅をもって考えると、15年の予想レンジは2.5%から3.7%となる。

ドル円相場への含意について考えれば、ドル長期金利の一段の上昇(10年物財務省証券利回りの3%越え)は年内には望み薄であり、それは15年になろう。一方、円についてはまだ長短金利ともに変化がないと想定すると、ドル円金利格差の拡大がドル高要因として働き始めるのは来年になる。

したがって、多くのストラテジストらが今年の相場として年初に予想した1ドル=110円近辺へのドル相場の上昇も来年に持ち越しとなる公算が高そうだ。足元ではドル円相場の膠(こう)着が続いているが、年内はむしろドルロング筋のポジション調整で一時的には100円割れの円高・ドル安に警戒しておくほうが良いかもしれない。

*竹中正治氏は龍谷大学経済学部教授。1979年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、為替資金部次長、調査部次長、ワシントンDC駐在員事務所長、国際通貨研究所チーフエコノミストを経て、2009年4月より現職、経済学博士(京都大学)。最新著作「稼ぐ経済学 黄金の波に乗る知の技法」(光文社)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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