July 4, 2014 / 9:04 AM / 4 years ago

コラム:強い雇用統計もスルー、閑散相場の裏にW杯も=池田雄之輔氏

[東京 4日] - 7月4日の独立記念日が金曜日に重なった影響で、6年ぶりの木曜日発表となった米雇用統計。前日に発表された別の雇用指標が強かったこともあり、市場の期待感は通常以上に高まっていたように思える。結果は、文句なしの強さだった。

6月分が28.8万人増と、20―25万人を見込んでいた市場予想を大幅に上回っただけではない。4・5月分が大幅に上方修正されたため、4―6月期平均でも27.2万人と、雇用の加速感がいよいよ鮮明になってきた。

それにしても、である。これだけ雇用統計が強かったわりに、米国債券市場の反応はまたもや大人しいものだった。確かに今回のデータでは、時間当たり賃金の伸びは前年比2.0%と弱かった。このことが「米連邦準備理事会(FRB)は利上げを急ぐ必要がない」との見方を強化した面もある。

あるいは、より大きな背景として、「米国の長期的な成長ポテンシャルに対する慎重な評価がある」「世界の3大中央銀行を見渡した場合、FRBが徐々に出口に近づく一方で、欧州中央銀行(ECB)と日銀が流動性供給の担い手となり続ける」との解説にもそれなりの説得力がある。

しかし、筆者はそれだけではないと見ている。ヘッジファンドの現在の状況が、おそらく絡んでいる。

<体力消耗したヘッジファンドの厭戦気分>

6月後半に2週間かけて、欧米の機関投資家、とりわけヘッジファンド勢を多数訪問してきた。今回、出張の準備段階で興味深かったのは、「その日はイタリアの投資家は都合が悪いから、ミラノの日程をずらして欲しい」「この日の午後はおそらくニューヨークではアポイントがとりにくい」などという理由で、直前になってスケジュールの入れ替えが必要になったことだった。理由は、ワールドカップ(W杯)ブラジル大会である。

ウィンブルドンで全英オープンテニスが開催される時期、ロンドンは雨の日が多いが、私の訪問中は好天に恵まれた。しかし、ヘッジファンドの面々は浮かない顔をしている。イングランド代表がいきなり2連敗したのも影響していたかもしれないが、とにかく「これほど動かないマーケットではどうしようもない」というため息ばかりが聞こえてきた。

ニューヨークでは、午後になると明らかにオフィスが閑散としていた。米国代表の試合があった日などは、金融街近くのスポーツバーが昼間からビジネスマンであふれ返っていた。米国で、今までになくサッカー観戦が盛り上がったのは、金融市場のこう着感と無縁ではなかったのかもしれない。

2014年は、年初から「想定外」の連続だった。大寒波による米国景気の大きなつまずき、中国人民元の突然の下落、ロシアのクリミア半島編入など、悪材料が飛び出すたびにヘッジファンド勢は損失を重ねてきた。1―3月に体力を消耗したヘッジファンド勢は、4―6月には休養を決め込み、戦線離脱してしまったのである。そしてそれ自体が、相場のこう着をもたらす。W杯はヘッジファンド勢に、「サッカーでも見て過ごすよ。どうせ相場は動かないから」と絶好の口実を与える結果になった。

ヘッジファンドが市場に参加しなくなったことは、米国長期金利の下押しにつながっている可能性もある。第一に、市場の変動が小さくなると、高金利商品や長期債券でコツコツと金利を稼ぐ「キャリー」に旨みが出てくる。よって、10年債、30年債の価格上昇、金利低下をもたらす。第二に、グローバルな投資資金が長期債券に集中し、米国のファンダメンタルズでは正当化できない水準まで金利が低下しても、そのような矛盾を本来は修正すべき空売りの担い手が不足してしまった、という事情も影響したように思える。

では、ヘッジファンド勢は今後の相場をどう見ているか。ロンドンでもニューヨークでも「いずれ米国の金利が上昇するのは間違いない」との明確な答えが返ってくる。10年金利は年内に3.0%を超えるとの見方が多数派で、かなり控えめな見通しでも2.8%だった。しかし、年内の金利上昇を見込んでいるにもかかわらず、「債券をショートするにはまだ早すぎる」「今は動きたくない」「もうすぐ夏休みだし」といった答えが判を押したように返ってくるのだ。

一方で、「相場がこう着を脱するカタリストは何だと思うか」と尋ねると、多くのプレーヤーが「9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)」と答える。

平均的な見方はこうだ――。「10月のFOMCで、テーパリング(量的緩和の縮小)が終わる。景気・物価見通しを公表する9月のFOMCでは、利上げ開始の条件について市場とのコミュニケーションを本格化させる必要がある。(しかし、それでも)そのテーマでトレードするにはまだ早い」。

年初に体力を擦り減らしてしまったヘッジファンド勢は、石橋をたたいて渡るような、彼ららしからぬ慎重姿勢になってしまっている。

<日銀発「失望の円買い」リスクは小さい>

ドル円についても同じである。年末の予想としては「105円」「110円」という答えが多かった。地政学リスクに備えて円をロングしているというヘッジファンドはわずかにあったが、円高を予想している向きは皆無である。しかし、「ドル円は米金利次第。だから、まだ勝負しない」「日本に目先のカタリストがない」と言って、円ショートには参戦していない状況である。

日本側のマクロイベントについては、日銀の追加緩和に関する質問が思いのほか少なかったことが印象的だった。10月の追加緩和という国内コンセンサスを知っている投資家がほとんどだが、4カ月も先の不確実なイベントに賭けるヘッジファンドは少ない。逆に言えば、黒田東彦日銀総裁が追加緩和への期待を打ち消すような発言をしても、「失望の円買い」を招くリスクは現段階でほとんどないように感じられる。

一方、欧米投資家が強い関心を持っているのが、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)をはじめとする公的年金のポートフォリオ改革である。この点だけ30分超にわたって質問してくるヘッジファンドさえあった。

筆者からは、1)GPIFと3つの共済を併せて160兆円近い運用規模があること、2)想定によっては10兆円を優に超える外国証券への追加投資が見込まれ、それによる円安効果が期待されること、3)新しい基本ポートフォリオは9月前後に発表される公算が大きいこと、を説明した。しかし、納得してもらえても「先回り投資をするにはまだ早い」となってしまう。

また、ドル円相場が1ドル=102円前後で完全に止まってしまっていること自体も、目先の円安加速を想像しにくくさせている面がある。案の定、「103円をブレークしたら、そこからドル円をロングする」というファンドが複数あった。いずれにせよ、ヘッジファンドらしからぬ受け身の姿勢が目立つのだ。

言い換えれば、ひとたび相場が動き出せば、一斉にヘッジファンドが米金利上昇、ドル高・円安のトレンドに群がってくる可能性も秘めている。おそらく、日本のお盆明け頃にヘッジファンドもようやく戦線復帰し、大きな相場トレンドを作り始めるのではなかろうか。

ただ、いかんせん現在のところは、「FOMCよりWC(ワールドカップ)」となってしまっているのである。

*池田雄之輔氏は、野村証券チーフ為替ストラテジスト。1995年東京大学卒、同年野村総合研究所入社。一貫して日本経済・通貨分析を担当し、2011年より現職。「野村円需給インデックス」を用いた、円相場の新しい予測手法を切り拓いている。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。著書に「円安シナリオの落とし穴」(日本経済新聞出版社)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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