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コラム:「米景気拡大で円安再開」シナリオの落とし穴=佐々木融氏
2014年7月31日 / 08:18 / 3年後

コラム:「米景気拡大で円安再開」シナリオの落とし穴=佐々木融氏

[東京 31日] - 30日に発表された米国の第2・四半期国内総生産(GDP)が予想を上回ったことを受け、ドルは大幅に上昇。その後公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)声明にも後押しされ、ドル円相場は今年4月7日以来約3カ月半ぶりの103.15円まで一時上昇した。

今回のGDP統計の要点をまず整理すれば、第2・四半期の速報値は実質ベースで前期比年率プラス4.0%と、コンセンサス(同3.0%)よりも強い結果となった。また、第1・四半期の数字も同マイナス2.9%からマイナス2.1%に上方修正された。

第2・四半期の上振れの主因は、予想を上回る在庫の積み上がりだ。GDPへの在庫寄与度は1.7%ポイントに達した。これは先行きのGDP成長率を0.5―1.0%ポイント押し下げる結果につながるだろう。

ただ、過去1年間の実質GDP成長率はプラス2.4%となり、過去5年間の平均値(プラス2.2%)をやや上回っており、順調に2%台半ば程度の成長が続いていると考えていいだろう。在庫を除いたベースで見ても、過去1年間の成長率はプラス2.0%と、5年間の平均値(プラス1.8%)を若干上回っている。

第2・四半期GDPの結果は、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策に対しても、ややタカ派的なインプリケーション(含意)を与えるかもしれない。それは成長率が予想を上回ったからではなく、FRBが物価指標として重視している個人消費支出(PCE)コア価格指数の伸びが、第1・四半期は前年比プラス1.12%から1.25%に上方修正され、第2・四半期は同プラス1.48%と2013年第1・四半期以来の水準まで高まってきているためである。

<市場はFOMCよりGDPに反応>

同日公表されたFOMC声明は、インフレ率に関しては自信を深め、ハト派的な姿勢を後退させた一方、労働市場に関しては中立的な見方を維持したと言っていいだろう。

インフレ率に関する記述は2カ所の変更があった。一つめは、現状のインフレ率の評価に関する表現で、FRBのターゲットを「下回っている」から「やや近づいた」に変えたことだ。もう一つは、低インフレ率が「経済のパフォーマンスに対するリスクとなっている」との文言が削除され、代わりにこうしたリスクは「若干低下したと判断している」との文言が用いられた。

一方、労働市場に関しては、失業率に対して前回声明まで一貫して用いられてきた、「依然として高い」との文言が削除され、今回は「一段と低下している」との表現に変わった。もっとも、「様々な労働市場の指標は労働資源の著しい余剰が依然存在することを示している」との文言が加えられた。これはFOMCが中立的な失業率の水準により完全雇用と判断するのではなく、労働市場の動向をより包括的に考慮するようになってきていることを示している。

その他目立ったところでは、フィラデルフィア連銀のプロッサー総裁が、「資産購入プログラムが終了した後も(低金利政策を)相当期間維持することが適切」との声明の文言に反対した。インフレ率や各種労働市場に関するデータが現在のトレンドを続ければ、次回以降反対票を投じる委員が増えるかもしれない。

このように、30日の米国市場ではビッグイベントが2つ続いたが、市場が大きく反応したのは前者のGDPのほうで、米10年国債利回りは10ベーシスポイント(bp)、米2年国債利回りは一時4bp程度上昇した。これを受けて、ドルが全体的に上昇し、対ユーロでは昨年11月12日以来、対豪ドル・NZドルでは今年6月5日以来、英ポンドでは同月12日以来の高値を付けた。

ドルは実効レートベースで見ると7月初めをボトムに上昇基調を続けており、昨日の上昇で4月初め以来の水準まで上昇した。ドルが実効レートベースでそこまで上昇しているのに、ドル円相場が4月初めの104円台に比べドル安・円高水準に止まっているのは、円が当時より強いからである。

ただし、第2・四半期GDP発表後は、ドル買いに加え、円も下落し調整されたため、ドル円相場の上昇もそれなりに大きくなった。円実効レートは指標発表後0.6%下落し、約1カ月ぶりの水準まで下落してきている。ただ、それでも4月初めに比べると1%強円高水準である。

<米金利上昇でも円高リスクに要注意>

当然、今後の米経済指標にもよるが、筆者はここからドル円相場が上昇トレンドに入るとは見ていない。ドル実効レートは最近、米10年国債利回りではなく、米2年国債利回りとの相関が強くなっている。7月中にドルが実効レートベースで上昇していたのは、米2年金利が上昇したからである。

しかし、市場はFRBが来年9月頃に利上げを開始し、再来年3月には政策金利が1%程度まで上昇することをすでに織り込んでいる。昨日のGDPの結果とFOMC声明は利上げ期待を高めるほどの内容ではなかった(実際、市場の利上げ期待の織り込みもそれほど大きく変化していない)。したがって、ドル実効レートの上値余地があまり大きくないのではないかと見ている。

それに加えて、仮に利上げ期待がさらに高まり、米2年金利が一段と上昇するようなことになった場合、今後は株価やエマージング市場が崩れる可能性が高くなってしまう。実際、予想を上回る米GDP成長率の結果を受けても米株価は下落した。FRBによる金融緩和が3年で70%以上の株価上昇を実現させてきたと考えるなら、本格的な利上げ期待の高まりは、一定程度の株価の調整を引き起こすと考えるのは自然だろう。

また、ドルがエマージング市場に流れる資金のファンディング通貨であるという位置づけを考えると、米金利上昇はエマージング市場への投資を反転させることにつながると見るのも自然である。特に足元ではアルゼンチン債務に対する支払いをめぐる懸念が高まっており、米金利がさらに上昇すると、エマージング市場からの資金流出を加速させてしまうリスクがある。こうした場合、市場のボラティリティが上昇し、円が買い戻されることになる。

ドル円相場は1月下旬から続いている101―104円のレンジ内での取引が相変わらず続くと見ておくほうが良いのではないかと考えている。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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