September 12, 2014 / 8:45 AM / in 5 years

コラム:スコットランド独立でポンド弱体化は本当か=山本雅文氏

[東京 12日] - 英国からの独立の是非を問うスコットランド住民投票については、つい1カ月前までは独立反対派の勝利に終わり現状維持が続くとみられていた。そのためリスクイベントとしての認知度は低く、英ポンドをめぐる市場の関心は、むしろ英金融政策に集まっていた。

具体的には、年内利上げ開始に関するカーニー総裁を中心とするイングランド銀行(英中央銀行、BOE)の一貫性のないコミュニケーションによる翻弄から、いかにして生き残るかがテーマだった。

それがここへ来て、一部の世論調査で独立賛成派が多数となる可能性が示され、市場を動かすイベントとして、住民投票の重要性が一気に高まった。投票で何が起こるか分からないため、不確実性の回避を目的としたポンド建て資産保有削減の動きと、スコットランドが独立する場合の残存する英国経済への悪影響を囃(はや)したポンド売りの動きが強まり、ポンドは対主要通貨で急落。18日実施の住民投票後も下がり続けるという見方がコンセンサスとなりつつある。

とはいえ、住民投票結果はまだ決まったわけではない。事実、10日に発表されたサーベイションによる世論調査では、独立反対派が53%、独立賛成派が47%と、独立反対派が比較的大きな差をつけて優勢となったほか、11日発表のユーガヴによる世論調査でも前回とは逆に独立反対派が52%対48%で上回った。

18日の投開票に向けて、世論調査結果に右往左往する展開が続くことが想定されるが、住民投票後にポンドが大きく反発するリスクも意識しておく必要があろう。独立賛成の場合のポンド売りのロジックについては、世界のメディアが連日この問題を報道する中で浸透しつつあることから、むしろ住民投票後にポンドが反発するシナリオについても思考実験を行っておくのは有用だろう。

<独立反対派の勝利でポンド買い>

第一に、独立反対派が勝利する場合だ。足元は独立賛成派勝利のリスクを織り込むかたちで、ポンドロングの巻き戻しだけでなく、ポンドショートの造成も行われてきたため、こうした結果はショート巻き戻しにつながる。

そもそもこれまで独立反対派が多かった理由として、独立による経済不安定化への懸念がある。確かにスコットランドは地理的比率に従った分割となれば9割の北海油田収益を得られ、独立後の貿易収支、財政収支は黒字となる可能性が高い。しかし、北海油田の石油・ガス生産量はピークを過ぎており、現在は収益源として大きいものの将来は枯渇に向かう可能性が高い。そのため、将来的な増税を懸念する向きも多い。

また、貿易取引の大宗を占める英国および欧州連合(EU)との間で、現在と同様の自由貿易協定を結べるのか分からない。独立後自動的にEUに加盟できるわけではなく、全加盟国との個別交渉と合意が必要だ。同じく国内にカタルーニャ独立問題を抱えるスペインなどは、スコットランドのEU加盟を認めない方針を明確にしているため、事実上、加盟は不可能だろう。現在と比べ、貿易取引のコストは非常に大きくなるだろう。

経済構造面でも、独立後の人口・経済規模は英国の9分の1程度と小さいうえ、残存する英国と比べて平均年齢も高く、産業面では石油・ガスや飲料、資産運用業に偏っている。その経済成長率は英国全体よりも一貫して低い。例えば2012年の実績では英国全体がプラス1.6%であるのに対し、スコットランドはプラス0.5%だ。独立すれば経済が不安定化する可能性は高い。

世論調査の結果を受けて独立の可能性が高まれば、一部の独立支持派がこうした独立の経済的帰結を想起して「我に返る」可能性は高いだろう。

<独立賛成多数でもポンド上昇の可能性>

第二に、独立賛成となった場合でも、英国への資金の流れがポンドを支える可能性はないだろうか。独立予定日の2016年3月23日までにはまだかなり時間がある。英国との債務分割などに関する交渉に長期間かかるとの見方もあり、それまで不確実な期間が続く。その間に、以下のような独立後を先取りした動きも出てくる可能性がある。

まず、すでに複数の企業が方針を表明している通り、独立の場合に多くの企業がスコットランドから残存する英国へ拠点を移す可能性がある。例えば、英国政府から支援を受けているロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)(RBS.L)やロイズ・バンキング・グループ(LLOY.L)といった大手金融機関が支援を継続して受けるために移転する可能性が指摘されている。また、残存する英国との取引が多い企業にとっては、英国に拠点を移したほうが貿易コストが小さくて済むこともあろう。

こうしたことが実現すると、法人税収入や雇用が英国に流れ、残存する英国を利することになる。英国への企業移転は、英不動産市場のさらなる過熱をもたらすかもしれない。

また、スコットランド独立後の残存する英国は、現在よりも経済パフォーマンスが向上する可能性が高い。上述の通りスコットランドは英国全体よりも成長率が非常に低いことから、低成長地域が離脱すれば、残存する英国の成長率は高まり、現在の局面では利上げ開始に向けたスピード感はむしろ高まる可能性すらある。

さらに、スコットランドは独立後に潤沢な外貨準備を保有する必要があり、その大半がポンドとなる可能性は高い。独立後にどの通貨を使用するのかは未決定で、独立運動を先導するスコットランド国民党は英国との双務的な通貨同盟を想定していたが英国政府は否定。このため、当初は通貨同盟ではなく一方的な英ポンド使用の可能性が高い。

とはいえ、そもそも国家として独立するのであれば、独立した金融・財政政策を行うべきで、そのためには独自の通貨、中央銀行そして外貨準備が必要だ。特にスコットランドのような資源依存の小国の通貨を安定的に管理するには、信頼性の高い経済・財政政策運営のみならず、必要以上の潤沢な外貨準備が要となる。

これは、独自通貨をポンドに一方的にペッグする場合でも、自由変動相場制にする場合でもそうだ。このため、やや先の話ではあるが、独自通貨創出の議論が高まる場合、外貨準備積み上げのためのポンドおよびポンド建て資産の大量購入が市場で話題になるだろう。

<ポンド反発に向けた取引戦略>

こうしたシナリオを想定してポンド買いの取引戦略を構築する場合、どの通貨に対してロングにするのかは重要だ。現時点では、対ユーロでのポンド買いが最も妙味があるだろう。

住民投票後にポンドが買われるとして、対価として売るのは最も弱い通貨がいい。現在のところ、追加金融緩和の可能性が最も高いのは欧州中央銀行(ECB)で、ユーロ安トレンドも明確だ。スコットランド問題があるにせよ、英国経済自体の成長率が高く、利上げ方向に向かっている状況は大きく変化していない。このため、ユーロ圏と英国の間での金融政策の方向性は正反対で、コントラストが明確だ。

他方で、ポンド/ドルは英米両国の金融政策がいずれも来年初の利上げ開始に向かっており、コントラストよりもむしろ類似点が多く、強い方向性が出にくいだろう。

*山本雅文氏は、外為投資に関する調査・分析・情報発信を行うプレビデンティア・ストラテジーの代表取締役兼マーケットストラテジスト。日本銀行で短観調査作成、外為平衡操作(介入)や外為市場調査・モニタリングに従事した後、ドイツ・フランクフルト駐在を経てセルサイドに転出。日興シティグループ証券で通貨エコノミスト、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド銀行東京支店およびバークレイズ銀行東京支店で日本における為替ストラテジーチームのヘッドを歴任後、2013年8月にプレビデンティア・ストラテジーを設立。国際基督教大学卒業。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below