September 15, 2014 / 3:07 AM / 4 years ago

コラム:スコットランドは残留か、ケベック事例にヒント=田中理氏

[東京 15日] - 18日に迫るスコットランド独立住民投票をめぐって、金融市場の不安と緊張が高まっている。英サンデータイムズ紙に7日掲載された調査機関ユーガブの世論調査では、今年に入って初めて、独立支持の割合(47%)が残留支持(45%)を上回り、市場参加者の間に緊張が走った。

その後11日にユーガブが公表した別の世論調査では残留派が再び逆転(独立支持45%、残留支持50%)。その他の世論調査も引き続き残留派が上回っているが、独立派の優勢が伝えられた8月25日の第2回テレビ討論会以降、独立派の追い上げが目立つ。

最近の世論調査では、どちらに投票するか態度を決めかねている回答者の割合が徐々に少なくなりつつあり、態度保留者が独立支持に回ったことが、独立派の躍進につながっている模様だ。両者の差は僅かで、投票結果は蓋(ふた)を開けてみなければ分からない。

<ケベック州の住民投票から学ぶ>

住民投票の行方を占ううえで参考となるのが、1995年にカナダのケベック州で行われた独立の是非を問う住民投票だ。当時の世論調査によれば、今回と同様に投票日の2週間ほど前に独立派が残留派を逆転。独立派がリードを保ったまま投票に臨んだが、結果は僅差で残留派が上回った。

つまり、直前まで態度を決めかねていた有権者の多くが、最終的には現状維持(=残留)の選択をしたことになる。ケベック州の結果が今回のスコットランドに当てはまるとは限らないが、独立を選択した場合の経済・金融・通貨・産業・政治・外交上の混乱と不確実性の大きさを考えると、態度保留者の多くが残留支持に回る可能性がある。

ケベック州の例では、投票日の直前3つの世論調査の平均値で、独立支持の割合が47.0%、残留支持が41.7%、態度保留者が11.3%だったが、最終的な投票結果は、独立支持が49.4%、残留支持が50.6%と逆転した。

独立・残留支持派が世論調査と住民投票で同じ投票行動を取ったと仮定すると、世論調査で態度を保留していた11.3%の有権者のうち、21.4%が独立支持に回り、残りの78.6%が残留支持に回った計算となる。

こうした数値例をもとにスコットランドの住民投票の行方を占ってみる。世論調査の態度保留者の割合は各調査でバラツキがあるが概ね10%前後となっている。そこで態度保留者の割合を10%と仮定し、1)世論調査での独立派のリードの大きさ、2)態度保留者のうち独立支持に回る割合に応じて、最終的な投票結果がどのように変わるかをいくつかのケースに分けて計算した。

態度保留者の20%しか独立支持に回らない場合(ケベック州と似通ったケース)、世論調査で独立派のリードが6%ポイント以上ないと、住民投票で独立派が勝利することはない。また、態度保留者のうち独立支持に回る割合が40%に上ると、独立派のリードが2%ポイント程度でも、住民投票の結果が独立多数となる。さらに、態度保留者の60%が独立支持に回ると、残留派のリードが2%ポイント以下であれば、住民投票の結果は独立派が上回る。

<鍵を握る態度保留者の投票行動>

最近の独立派の追い上げは現地メディアでも大きく取り上げられており、このことが態度保留者の投票行動にどう影響するかは不透明だ。態度保留者が「勝ち馬に乗る」ことを選択し、独立支持の投票が増えるのか、あるいは、危機感を覚えた残留派が積極的に投票所に足を運ぶことになるのか。さらに、独立による混乱の大きさを懸念した残留支持の投票が増えるかどうかについては確信が持てない。

世論調査によれば、若年層に独立支持、高齢層に残留支持の割合が多い。高齢層の投票率の高さが残留派に有利に働く可能性がある一方で、今回の住民投票では16歳以上に投票権が認められ(国政選挙や議会選挙では18歳以上)、独立派に有利に働く要素もある。

ちなみに、12日時点の天気予報によれば、投票日のスコットランド各地の天気は概ね曇りで平年並みの気温となっている。この点は今のところ投票行動に大きな影響を及ぼしそうにない。

残留に向けた英国政府の働きかけも活発化している。オズボーン財務相はスコットランドが残留を選択すれば、税・予算・社会保障分野でのさらなる権限委譲を約束。与野党の党首は10日、定例の党首討論を取り止め、スコットランド各地で残留への支持を訴えた。

独立派が逆転した7日の世論調査の中に、仮に住民投票が「独立」と「残留」を問う二択ではなく、「完全な独立」「スコットランド議会の権限を拡大」「現状のままの議会権限」の三択であったとしたら、どのように投票するかを尋ねた設問がある。

その回答結果は、独立が42%、権限拡大が36%、現状維持が14%だった。独立支持が最も多いが、権限拡大を選ぶ有権者も相当数に上っている。権限拡大の誘いに態度保留者が耳を貸す余地もありそうだ。

スコットランドを代表するいくつかの金融グループは、住民投票で独立派が多数となった場合、本店所在地やどこの規制当局の監督下に入るかを定める法律上の登記住所をエジンバラからロンドンに移す計画があることを明かしている。産業空洞化への懸念も、残留支持の拡大につながる可能性がある。

<独立派が勝利すれば混乱は不可避>

万が一、独立派が賛成多数となった場合、それを止める手だては残されていない。2016年3月を予定期日とする独立に向け、英国政府とスコットランド政府の間で、独立後の使用通貨、政府の債務や資産の分割、北海油田収入の帰属などをめぐる交渉が正式に開始される。

独立の動きを止める唯一の方法はスコットランド議会が自ら再投票の実施を提案することだが、独立派が多数を占める議会でその選択は考え難い。

独立が決まった場合、その影響は多岐にわたることが予想される。独立後の経済・金融・通貨・産業・政治・外交をめぐる先行き不透明感が著しく高まることから、企業の投資意欲が削がれ、英国景気は停滞色を強めよう。スコットランドの銀行からの預金流出の動きや金融市場全般の混乱も景気の重石となる。

中長期的な観点からも、独立後のスコットランド経済の地盤沈下や産業空洞化が懸念される。主要な貿易相手国であるスコットランドの弱体化は、英国経済を直撃するはずだ。

為替市場ではポンド安の進行が加速する。独立後の通貨をめぐる不透明感、英中銀(BOE)の早期利上げ観測の後退、油田収入を失うことによる英国の貿易赤字拡大懸念などが、ポンドの売り圧力となる。

また、キャメロン英首相は来年の総選挙で保守党が勝利することを条件に、2017年に欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票を実施することを約束している。スコットランド独立後の英国議会の構成の変化が意識され(反保守党色の強いスコットランド選出議員がいなくなる)、英国のEU離脱リスクが高まることも、ポンド安要因と受け止められよう。

債券市場では、国債の格付け見直しやクレジットリスクの高まりが金利の上昇要因となるが、景気見通しの悪化と早期利上げ観測の後退から、国債利回りには低下圧力が及ぶ可能性が高い。不確実性の高まりと英国景気の減速懸念から、株式市場ではスコットランド関連銘柄を中心に売り圧力が高まることが予想される。

スペインのカタルーニャ自治州やベルギーのフランドル地方など、独立問題を抱える他国に飛び火する懸念が強まり、スペイン国債やベルギー国債の利回りに上昇圧力が高まろう。

投票は現地時間で18日午前7時に開始され、午後10時に締め切られる。出口調査の結果は、よほどの接戦とならない限り、18日午後10時頃(日本時間の19日午前6時頃)には大勢が判明すると見られている。公式の投票結果は日本時間の午後3時頃までには公表されよう。スコットランドが英国と共に歩んできた307年の歴史に幕を下ろすのか、運命の投票日まで残り僅かだ。

*田中理氏は第一生命経済研究所の主席エコノミスト。1997年慶應義塾大学卒。日本総合研究所、モルガン・スタンレー証券(現在はモルガン・スタンレーMUFG証券)などで日米欧のマクロ経済調査業務に従事。2009年11月より現職。欧米経済担当。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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