November 4, 2014 / 7:18 AM / 6 years ago

オピニオン:消費増税は時期尚早、円安効果の再評価を=チャンドラー氏

[東京 4日] - 来年10月の消費再増税の必要性は、海外識者の目にはどう映っているのか。ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨戦略最高責任者、チャンドラー氏に、ドル円レートの行方と合わせて、アベノミクスの課題を提示してもらった。

同氏の見解は以下の通り。

<ドル円のレンジは前倒しで上方シフトか>

昨秋、今年のドル円見通しを問われた際に、低ボラティリティは圧縮された巻きバネのようなものだと説明した。何かをきっかけに、そのバネは跳ね上がり、大変動を発生させる、と。8月後半以降の値動きは、まさにその見立て通りとなった。

きっかけを与えた「何か」については、米利上げ期待や公的年金をはじめとする日本勢の海外投資拡大期待など様々な解釈がなされているが、8月下旬から10月初旬にかけてはユーロ安加速の影響も忘れてはならない。ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁ら欧州当局者の発言がユーロ安を誘い、円安・ドル高に波及した面もあろう。

今後のドル円相場を見通すと、米国と日欧の経済サイクルのダイバージェンス(かい離)がますます鮮明になる中で、上昇基調が続くと予想される。米国経済の成長軌道は、2008年の金融危機前に比べればスローだが、それでも日欧に比べてかなり安定的であることは間違いない。10月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で量的緩和を終了させた米連邦準備理事会(FRB)は、来年第3四半期にも利上げに踏み切るだろう。

一方、日本経済はまだ持続可能な安定成長軌道には至っておらず、日銀の量的・質的緩和は来年4月以降も継続されよう。欧州に至っては、デフレとの闘いの入り口にある。こうした政策の方向性の違いやその背景にある経済サイクルのかい離が、ドルを支えることになろう。

ただ、為替投資で大事なことはトレーディングゾーンの変遷を見極めることだ。前述したように、経済情勢はドル高基調を示唆しているが、基本的にはあるレンジから別のレンジに変遷していくと捉えるべきで、その中で再びこう着状態に陥ることもあるだろう。

では、当面のレンジはどこか。10月31日の日銀追加緩和決定を受けて、ドル円はそれまでの105―110円のレンジを上抜けて一気に114円超に吹き上がった。110―115円のレンジ定着は来年前半がメインだと考えていたが、追加緩和を機に前倒しになった可能性もある。

そもそも、ドル円は10月半ばに105.25円程度に下落した局面で、弱い買い手はすでに振り落とされているので、下値も限られるだろう。ブル(強気派)は、上値めどについて120円とも予想し始めている。

<アベノミクスの課題はPRの向上>

こうした見立ては、黒田日銀にとっても、望むべきところなのではないか。現在、原油価格の下落基調は続いており、場合によってはデフレ圧力となる。私は個人的に「2年程度で2%」というインフレ目標に日銀がこだわる必要はないと思うが(1.8%でも1.7%でもいいではないか)、円安進行はその目標達成を手助けすることになろう。

一部には、米国が円安進行に対して警戒感を強めているとの見方もあるが、果たしてそうだろうか。少なくとも米財務省が10月に公表した為替報告書を読むかぎり、日本に対する記述はかなりソフトになっている、むしろ批判の矛先は、自国通貨安誘導へ事実上の為替介入を続ける中国・韓国や、ユーロ安を背景とする輸出に頼るドイツなどに向けられており、円安は米当局者のメインテーマではないように思う。

ひとつには、日本企業が円安を利用した値下げによって、海外市場でのシェアを強引に伸ばそうとしていないことも好感されているのだろう。日本国内では、円安進行に伴い輸出が思うように伸びてこなかったことを問題視する向きもあるようだが、もともと「海外で作り海外で売る」仕組みを作り上げた日本企業の活動は、通貨変動に左右されにくくなっている。国内総生産(GDP)に占める輸出の割合をみても、ドイツの40―50%に対して、日本は10―15%にすぎない。輸出に対する円安効果の有無ばかりに着目するアベノミクス批判は正しくない気がする。

むしろ、日本人は、先入観を捨てて、円安のメリットとデメリットを再評価すべきだ。確かに、景気減速下で原油など資源価格が高騰する局面では、拡張的な金融・財政政策は「悪い円安」を助長する可能性が高い。昨年は、そうした懸念も強かった。だが、幸いにして、現在のところ、その懸念は遠のいている。逆に、先ほど述べた通り、原油価格の大幅下落に伴うデフレ圧力を心配する局面にある。

そもそも、この程度の円安は本当に騒ぎ立てるほどのものだろうか。わずか2年あまりで79円近辺から一気に114円超まで円安になったものの、かつての円安局面に比べて、極端な水準にあるわけではない。むしろ、70円台こそ行き過ぎた円高だったわけであり、当時の輸出産業が行った経営上の工夫を、輸入産業も別の形で追求すべきだろう。また、観光など、円安によって潤う産業もある。円高同様、円安にも敗者と勝者がいる。この点について、安倍政権はPR(広報活動)があまりうまくいっていないようだ。

<成長に勝る財政再建策はない>

もちろん、アベノミクスのすべてが褒められるわけではない。例えば4月の消費増税は拙速だったし、来年の再増税は、景気の現状をみるかぎり、見送るべきだ。

中長期的にみて財政再建に増税が必要という発想を否定するわけではないが、消費増税で消費が予想以上に落ち込み、その影響が長期化し、景気の失速が懸念される中で、アベノミクスが優先すべきは成長の加速であり、そのために消費を喚起することだ。むしろ、ここは増税よりも景気拡張的な追加政策を打ち出すべき局面だ。

こう話すと、財政再建はどうなるのかと尋ねられそうだが、米国は大規模な財政出動によって景気を刺激し成長をたぐり寄せることで対GDP比の財政赤字を金融危機後の10%超から2.8%にまで引き下げた。成長のために債務を増やすのは矛盾しているように聞こえるかもしれないし、成長することで債務の絶対額を減らせるわけではないが、債務返済が容易になることは間違いない。

10%への消費増税だけではGDPの倍以上に達する公的債務問題を解決できない現実を踏まえれば、今この段階で成長を犠牲にしてまで増税する意味はないはずだ。

*本稿はマーク・チャンドラー氏へのインタビューをもとに、同氏の見解に基づいて書かれています。

*マーク・チャンドラー氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンのシニアバイスプレジデント兼通貨ストラテジー部門グローバル・ヘッド。HSBCバンクUSAとメロンバンクでチーフ通貨ストラテジストを務めたのち、2005年10月より現職。著書に「Making Sense of the Dollar」。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

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