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コラム:「原油安で脱デフレ頓挫」の誤解=嶋津洋樹氏
2014年12月11日 / 01:52 / 3年後

コラム:「原油安で脱デフレ頓挫」の誤解=嶋津洋樹氏

[東京 11日] - 筆者はちょうど1年前に「2013年は小さいながらもデフレ脱却に向かって重要な一歩を踏み出した」と評価したが、今年は「3歩小さく進んで2歩大きく下がる」という印象で、辛うじて前進を続けられたといったところだろう。

この1カ月余りの間に決まった「量的・質的金融緩和」拡大(いわゆるQQE2)と消費増税延期をめぐっては批判も少なくないが、いずれもデフレからの脱却に必要な判断だったと筆者は考えている。

こうしたなか、日本経済には原油価格の大幅な下落を通じた交易条件の改善という強力な追い風が吹き始めた。次の消費増税が2017年4月へ先送りされることで、2015年半ばにかけて盛り上がると期待されていた駆け込み需要も後ずれする見込みだが、内需は今後、底堅さを増す可能性が高い。

また、在庫調整の圧力が一巡しつつあることで、企業は来春にかけて徐々に増産に踏み切るだろう。筆者は2015年度の実質国内総生産(GDP)成長率について、市場予想(前年比プラス1%台半ば程度)を大幅に上回る可能性があるとみている。

一方、原油価格の大幅な下落は、実際の物価上昇率の鈍化を通じて、予想物価上昇率を引き下げ、デフレからの脱却を困難にする可能性がある。このことは、「2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に2%の物価安定の目標を実現する」という目標を掲げる日銀にとって悩みの種となりそうだ。

それでも、当面は10月末に決定したQQE2の効果を見極める時期である。日銀の次の行動は、原油価格の下落が来年1年間を通じて続くなど、期間が長期化した場合だろう。

<原油価格調整はすでに「後半戦」>

そもそも、原油価格の調整はすでに「後半戦」に突入している可能性が高いと筆者はみている。というのも、原油に対する需要は米国のドライブ・シーズンに向けたガソリン精製の本格化で1―3月期に底入れすることが多いからだ。

石油輸出国機構(OPEC)の原油生産量も11月は減少した。米国のシェールオイル開発ブームに一服の兆しがあることも踏まえると、原油需給の緩和という市場参加者の見方はそれほど深刻化しない可能性もある。原油先物市場で期近が期先よりも安い「コンタンゴ」となっているのは、こうした思惑を反映していると考えることもできる。

なお、QQE1による予想物価上昇率の引き上げ効果は、実施から3カ月後の2013年7月頃から顕在化し始めたと筆者は分析している。実際、消費者物価指数(CPI)の全採用品目の前年比変化率を観察すると、その頃から上昇幅を拡大させる品目と下落幅を縮小させる品目が増加している。

筆者はQQE2の予想物価上昇率を引き上げる効果については、2015年1―3月期頃から再び顕在化する可能性があると考えている。その時期に交渉が本格化する春闘でベースアップ(ベア)が実現した場合、予想物価上昇率は従来よりもしっかりと固定されることも期待される。

ちなみに、黒田日銀総裁が予想物価上昇率の固定されている国と紹介した米国の個人消費支出(PCE)デフレーターの内訳をみると、1990年代半ば頃から多くの品目が前年比プラス0.5%から同3.5%に集中。つまり、その頃から多くの企業は前年比プラス2%から上下差1.5%を前提に価格設定をし、家計もそれを受け入れ始めたと考えられる。

米国における「物価の安定」がPCEデフレーターで前年比プラス2%を指すことは今では広く知られているが、それが米連邦準備理事会(FRB)内で共有されたのは1996年7月に開催された連邦公開市場委員会(FOMC)だ。このことは、金融政策が予想物価上昇率の形成に一定以上の役割を果たしていることを示すだろう。

金融政策を運営する上で予想物価上昇率を重視しているのはFRBだけではない。例えば、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は今年8月に「今日、中央銀行の政策の核心はコミュニケーション戦略」であるとし、「金融政策の効果は、将来の政策金利に関する期待の操作に一段と依存するようになった」と発言している。

これに対して、日本では依然として予想物価上昇率の役割に対する懐疑的な見方が少なくなく、金融政策でそれに働きかけることへの批判もある。国内での予想物価上昇率をめぐる議論は少なくとも欧米に後れを取っていると言わざるを得ない。

日本人はどうも物事のデメリットに目を向けがちなようだ。実際、今回は原油安をめぐるシナリオに焦点を当てたが、その前は日本が通貨戦争に拍車をかけるとの批判があった。それが今や円安はデメリットだという。通貨安がデメリットだとすると、通貨戦争は起き得ないだろう。

物事にはたいていメリットとデメリットがある。メリットを強調すると、思慮が足りないと思われがちだが、デメリットへの行き過ぎた配慮は現状維持を正当化することにもつながる。それは賢明な判断にみえて、必ずしもそうではない。

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントを経て2010年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとして、日米欧の経済、金融市場の分析に携わる。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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