December 15, 2014 / 3:37 AM / 4 years ago

コラム:アベノミクス選挙中に進んだ相場の地殻変動=佐々木融氏

[東京 15日] - 14日に投開票が行われた衆議院選挙では、自民党が291議席と選挙前の295議席から4議席減らしたが、公明党が4議席増やしたため、与党合計で326議席と選挙前と変わらない結果となった。

投票率は52%程度と、戦後最低だった2012年の前回選挙(59.3%)を7%下回った模様である。日本の有権者は1億400万人程度なので、投票に行かなかった人は前回に比べて700万人以上増えた計算になる。自民党が大勝し、今回よりも若干多い296議席を獲得した2005年の「郵政選挙」の時には投票率が67.5%で、比例代表で自民党に投票した人は約2580万人に上ったが、今回は約1760万人と大幅に減っている。ちなみに、2005年の衆院選で負けた民主党に投票した人は約2100万人もいた。

株式市場や為替市場(特に海外投資家)からは注目を浴びているアベノミクスだが、なぜ日本国民全体としてはやや白けたムードが広がっているのだろうか。

ひとつには、アベノミクスがますます第1の矢(金融政策)ばかりに頼り、マネーゲームの様相を呈してきているからではないだろうか。そうした中、「アベノミクスの成否を問う」と言われても、金融市場に携わる我々のような者は「成果があった」と感じていても、それを感じることができない国民の方が大多数だと言えるのかもしれない。

加えて、過去2年間のアベノミクスの下での日本経済は、最初の1年と次の1年でかなり状況が異なる。例えば、実質国内総生産(GDP)の伸び率を見ると、2013年10―12月期はアベノミクス開始直前の2012年10―12月期に比べて2.2%増加しているが、今年7―9月期は前年同期に比べて1.2%減少している。

また、東証株価指数(TOPIX)は、第2次安倍内閣が始まった2012年12月26日からの約2年間で68%上昇しているが、そのほとんどは最初の1年間での上昇であり、過去1年間の上昇率は13%と、米S&P500やスウェーデン、スイスの株価指数と同じ上昇率にとどまっている。

つまり、安倍政権発足から当初1年間の日経平均株価の上昇率は明らかに世界の株価指数を上回り、アベノミクスの成果と評価しても良かったが、その後の1年間の上昇は、世界の景気が良かったから日本も連れて上昇したという側面が強いとも言える。

このような状況下で突然、解散・総選挙となり、「アベノミクスの成果を問う」と言われても、「直近1年間はさておき、その前の1年間の成果を見てください」と言われているようなものであり、国民が白けてしまったとしても、無理はないだろう。

<円が急速に買い戻されるリスク>

こうした中、自民党・公明党の与党が今回の衆院選で議席を維持したことにより、安倍政権の焦点が経済政策から安全保障政策に移ってしまうのではないかと危惧する見方は多いようである。海外の投資家もこの点を気にしている。

筆者は先日、1月後半に1週間、米東海岸を訪問する計画を立て、ニューヨークの同僚に米国のヘッジファンドや機関投資家との会合設定を依頼した。すると、1日6コマ、合計30コマのミーティング時間枠が2日間で埋まってしまった。

アベノミクス、そして日本の将来に対する海外勢の興味・期待は非常に強いと言えるだろう。そして、彼らが注目しているのは、第3の矢(成長戦略)が今後、目に見えるような形で実体経済に影響を与え得るのかという点である。当初1年間の成果に興味を示す投資家はもはやいない。仮に安倍政権の焦点が経済政策から逸れていってしまった場合、市場に与える悪影響は大きなものになると考えられる。

成長戦略の中で、市場への影響が目先大きくなりそうなのは、法人税減税に関する議論だ。政府は現在約35%の実効税率を「数年で20%台」に下げる目標を掲げている。2015年度に税率が実際どれほど引き下げられるのかが注目される。

また、ごく目先の円相場にとっては、世界市場の動きの方が重要と言えそうだ。日本が選挙戦に入っていた過去2週間で原油価格は16%も急落しているのに加えて、過去1週間で米S&P500株価指数は3.5%、独DAX株価指数は4.9%も下落している。米10年国債利回りは20ベーシスポイント(bp)低下し2%割れに近づき、一方でギリシャ10年国債利回りは190bpも上昇し、昨年10月以来の9%台まで上昇している。

日本の政権与党が、いまだに当初1年間の成果に酔い、白けた国民に選択肢のない投票を強いている間に、世界経済、市場の環境はかなり不安定になってきている。世界経済が予期せぬ後退という事態ともなれば、悪影響は当然、日本にも及ぶ。資本調達通貨として売られていた円は急速に買い戻されることになる。

報道によれば、特別国会が召集され、首相指名選挙が行われるのは1週間以上先の24日になる予定で、第3次安倍内閣はその日のうちに発足し、年内に円安対策などの経済対策が閣議決定されるという。世界情勢がさらに悪化するようなことがあれば、円安対策など必要なくなった頃に、円安対策が話し合われるという笑えない状況に陥ることも全くあり得ない話ではないかもしれない。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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