December 19, 2014 / 10:53 AM / 5 years ago

コラム:原油安とバブル、80年代が示す2015年の針路=岩下真理氏

[東京 19日] - 2015年の干支は未(ひつじ)。過去の未年にあった出来事を振り返ってみると、1979年のイラン革命、日本の第2次オイルショック、91年の湾岸戦争と旧ソ連崩壊、2003年のイラク戦争やSARS(重症急性呼吸器症候群)など、市場の不安感を募らせたものが並んでしまう。

来年も引き続き中東情勢、欧米によるロシア制裁、エボラ出血熱などのリスク要因には目配りが欠かせないだろう。日本の株式格言によれば、「辰巳(たつみ)天井、午(うま)尻下がり、未(ひつじ)は辛抱」と比喩される。

確かに安倍政権誕生後の2012―13年の辰巳年の株価は大幅上昇。14年の午年はそれでも、12月上中旬に調整局面となったが、年初と比べれば下がらずに終わりそうだ。1949年以降で日経平均株価の年間騰落率をみると、12種類の干支のうち未年は第9位で6.7%高となり、未年は「辛抱」でも上昇する結果だ。前述のようなリスク要因に注意しながら、不安定な時間帯はあっても、平常心で臨むことが肝要な年と言えるかもしれない。

<波乱相場の震源地ロシアから目が離せない>

毎年恒例、米フォーブス誌が発表する「世界で最も影響力のある人物」は、2014年も昨年に続きロシアのプーチン大統領だった。18日の年次記者会見では、現在の危機は米欧がロシア経済の弱体化を図っているものだと非難し、揺るがない強硬姿勢を示した。

その上で、原油価格が1バレル=40ドルになる事態に備え、最悪の場合はリセッションが2年続くこともあり得るとして、国民に覚悟を促している。まるで戦時モード宣言であり、緊張緩和に向けた歩み寄りが進む気配は感じられない。

振り返れば、10月に世界経済の減速懸念が強まった背景には、ロシア情勢の影響を受けた欧州経済の弱さがあった。欧州経済の停滞が長引くと、欧州向け輸出が多いアジア経済の立ち直りが遅れ、アジア向け輸出の多い日本にも、輸出が伸び悩むと影響が波及してくる。世界の金融市場を混乱させている震源地・ロシアの動向からは当面、目が離せない。

筆者は、遅かれ早かれロシア経済のリセッション入りの可能性は高いとみていたが、原油安の加速感が想定以上であり、このままではその時期が早まり、長期化する印象だ。

<1986年「逆オイルショック」のデジャブ>

筆者は石油市場の専門家ではないが、現在は需要減少、供給過多という需給バランスの崩れに加え、金融面の資金流出が伴った状況にある。さらには、サウジアラビアによるシェールつぶしの思惑とロシアけん制、他方で経済制裁を受けるロシアと米国の政治的な駆け引きもあり、1986年の逆オイルショック時と3つの登場国はデシャブと言わざるを得ない。

当時は逆オイルショックのもと旧ソ連経済は弱体化し、1991年に旧ソ連崩壊に至っている。今回も複雑な要因が絡み合っており、政治と相場の解を求めるのは本当に難しい。来年前半は原油価格の下値を探り、下げ止まった後にフェアバリューを見極める時間帯になるとみている。

知己の専門家に聞く限り、かつての100ドル台(ロシアの財政均衡価格と言われる)には戻らず、価格水準のステージは明らかに変わるだろう。筆者は経済見通し作成時、WTIで1バレル60―70ドル程度を前提としている。

その一方で、原油輸入国の交易条件は改善、景気にはプラスとなる。12月1日、国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は米ウォールストリート・ジャーナルの会議で「(原油価格が)30%下落したと想定した場合、ほとんどの主要国は原油輸入国であるため、(経済成長率が)0.8%押し上げられる見通しだ」と語った。具体的な数字を挙げていたことから、来年1月下旬に発表見込みのIMF世界経済見通し改定版では、原油安の世界経済への影響が詳細に分析されることになるのだろう。

10月発表時に比べて、2014年の成長率は下方修正やむなしだが、15年には原油輸入国の上方修正と原油輸出国の下方修正の綱引きの結果、全体では上向く形になると見込まれる。ただし、原油安は短期的には物価上昇率を鈍くさせるため、インフレ目標のある中央銀行にとっては、15年前半は目標達成に厳しさが増す。

特にユーロ圏では、年明け後に消費者物価指数(HICP)が前年比マイナス圏に陥る可能性があるだろう。そのため、ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁は独連銀の反対を押し切って、国債買い入れに踏み切る可能性が高いと予想する。

<FRBから届いたクリスマス・プレゼント>

一方、年内最後の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、声明文に低金利維持の期間目安となる「相当な期間(considerable time)」を残しつつ、「忍耐強くいられる(can be patient)」との文言が加えられた。早期利上げには慎重ながら、正常化に前向きな姿勢も示すことで見事にバランスを取り、市場に無用な混乱を招かずに済んだ。

このバランスを取った気配りは、原油安に荒れ模様だった株、為替市場への米連邦準備理事会(FRB)からのクリスマス・プレゼントと言えるだろう。また、イエレンFRB議長は会見で、「少なくとも今後2回の会合で利上げはしない」と発言し、利上げは来年4月以降で経済指標次第であることを強調した。

筆者は、来春までの点検作業として、1)クリスマス商戦が順調に終了すること、2)労働市場の改善の中でも賃金上昇率の下げ止まりが確認できること、3)欧州経済の持ち直しがみえることが、利上げの必要条件ではないかと考えている。

一点目は滑り出しこそ悪いと思われたが、ガソリン安の恩恵もあって前年比プラス3%超えは可能だろう。二点目に関連して物価統計は、原油安の影響による一時的な押し下げはやむを得ない。FRBの物価見通しでも、2015年の個人消費支出(PCE)価格指数(総合)は前年比プラス1.0―1.6%に下方修正された。しかし重要なのは、景気回復に連動する賃金動向だろう。

そして条件の中で、クリアーできるか一番懸念されるのは三点目だ。前述したロシア動向もさることながら、ギリシャなどの政治混迷が深まれば、欧州経済の立ち直りが遅れる可能性はある。この見極めが重要となりそうだ。

<日本株の上昇基調は2019年まで持続か>

翻って日本では、衆議院選挙で自民・公明の連立与党は圧勝し、アベノミクスが国民の信任を得た。安倍首相は「2017年4月からの消費増税は先送りしない」と断言しており、さらなる延期は許されない。引き続きデフレ脱却に向け、経済を最優先に取り組む方針だ。

年内に地方支援の経済対策(3.5兆円規模)、2015年度の税制改正大綱(法人減税は2.4%台の引き下げ幅で調整)も取りまとめられることから、スピード感ある対応は市場をすぐに失望はさせないだろう。年明け後のハードルは、15年度予算での歳出削減の内容、春闘での賃上げ率、夏までに示す予定の財政再建の具体策となる。

ESPフォーキャスト12月調査では、来年末(2015年第4四半期)のコア消費者物価指数(CPI)予測総平均は、前年同期比プラス1.17%(現時点で筆者は同プラス1.5%)と低く、2%はかなり遠い見通しだ。それでも、何でもやる黒田日銀だけでなく、安倍政権も原油安の追い風のもと、15年末の物価2%達成が必須という道を示しているようだ。

足元の原油安は、2015年前半の物価上昇率を鈍化させ、2%の物価目標を目指す日銀を苦しめるだろう。しかし、足元の円安と原油安は、15年後半の日本経済の成長率を確実に押し上げる。15年度の成長率は2%が視野に入ったと言えるだろう。

最後に今後の政府・日銀のデフレ脱却への取り組みをイメージするため、1980年代後半のバブル期を振り返っておきたい。当時と世界情勢は大きく異なるが、頭の体操をしておこう。

2017年4月の消費再増税を1989年4月の消費税導入時と見立てるならば、日経平均株価が過去最高値を更新したのは89年12月。あと3年程度の株高の持続力が期待できるだろう。また、バブルと認識されたのはさらに2年後の91年であり、今回なら20年夏の東京オリンピック開催の1年前の19年。過去の夏季オリンピック開催国の景気ジンクス(開催1年前に景気ピーク)にもちょうど当てはまる。

ちなみに、当時の日銀は、1987年2月に公定歩合を2.5%まで引き下げる低金利政策をとり、89年5月に利上げに転じた。今回は2%の物価安定目標の実現を目指しているが、2%で安定的に推移していると判断できるまでには時間はかかろう。

また、消費再増税先送りにより、2017年度前半(駆け込み需要の反動減が出る時期)までに出口戦略に踏み出す可能性は低くなったように思える。18年4月8日に任期を終える黒田総裁にとって、任期中の出口戦略はかなりのナローパスになるだろう。

*岩下真理氏は、SMBCフレンド証券のチーフマーケットエコノミスト。三井住友銀行の市場部門で15年間、日本経済、円金利担当のエコノミストを経験。2006年1月から証券会社に出向。大和証券SMBC、SMBC日興証券を経て、13年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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