December 29, 2014 / 10:03 AM / 5 years ago

コラム:日銀が導く未踏の境地「4年連続円安」の現実味=佐々木融氏

[東京 29日] - 2014年も残すところわずかとなったが、本稿執筆時点(29日)で、今年の主要通貨の中で最強だったのは米ドルである。2位との差は大きく、年末時点でも最強通貨となっている可能性は高い。

米10年国債利回りは大きく低下したが、その他の国の利回りの方がさらに大きく低下したため、結果的に米10年国債利回りは主要国の中で、ニュージーランド、オーストラリアに次いで高くなり、米国は相対的に高金利通貨国となった。これが米国へ資金を惹きつけ、ドルを最も強い通貨に押し上げた側面も強い。ドルが主要通貨の中で最強通貨となるのは2001年以来13年ぶりのことである。

2番目に強いのはニュージーランド・ドルだ(3位の英ポンドとは僅差であり、最終的に逆転する可能性もある)。やはり、先進国中最も高い3%台後半の10年国債利回りが資金を惹きつけたのだろう。ニュージーランドの長期金利はルーマニアやハンガリーよりも高い。

最弱通貨となったのは、円ではなくスウェーデン・クローナで、2番目に弱かったのはノルウェー・クローネだ。ちなみに、スウェーデンは2年金利が主要国の中で最も低下しており、ノルウェーは2番目に大きな低下となっている。ノルウェー・クローネの弱さには原油価格の急落も影響しているだろう。なお、ノルウェー・クローネが最弱となるのは、過去20年間で初めてである。

円は3番目に弱い通貨だった(4番目に弱いユーロとの差は僅差なので、最後に逆転の可能性もある)。特に円は10月31日の日銀による追加緩和が影響して、年後半に大きく下げた。

円はアベノミクス、日銀による量的質的緩和もあって、2012年、2013年と主要通貨の中で最弱通貨となっていた。2014年は前述の通り最弱ではないが、それでも円はこの1年で対ドルで14%下落、名目実効レートベースで8%も下落した。アベノミクスが始まった日を2012年11月14日とすると、その日以来、円は対ドルで52%下落している。約25カ月半で円が対ドルで50%超下落したのは、1973年の変動相場制移行後初めてである。  

この結果、JPモルガンが算出する円の実質実効レートは、1970年以降の最低レベルを更新しながら、さらに低下を続けている状況にある。つまり、現状レベルは実質的に歴史的な円安水準にある。そして、2015年も円相場が未知の領域へと下落を続けていくかどうかは、日銀の金融政策にかかっていると言えるだろう。

<悪いインフレ、悪い円安の可能性> 

日銀は自らが発行している通貨の価値を落とそう(インフレを起こそう)と積極的に金融緩和を進めている。賃金の伸びが弱く、インフレ率に届かないため、実質賃金の伸びは大きくマイナスとなっている。ここからさらにインフレ率が上昇したら実質賃金の伸びはマイナス幅をいっそう拡大し、消費にとって明らかにネガティブになると考えられるが、それでも日銀はインフレ率を押し上げることを目標としている。

主要国の消費者物価指数前年比の加重平均値は足元1.4%で、過去2年半一度も2%以上に届いたことがない。つまり、2%のインフレ率はすでにグローバルスタンダードではなく、ディスインフレ(物価上昇率の鈍化)は世界的な現象であると考えられる。そうした中、各国中央銀行は臨機応変に対応し、様々な経済指標を見ながら政策運営を行っているが、日銀は原油価格に大きく左右されるコア消費者物価指数前年比だけをターゲットに政策運営を行っている。

日銀は「デフレマインドの払拭(ふっしょく)」を目指して金融緩和を続けていると言うが、日本人が物を買わないのは本当にデフレマインドがあるからなのだろうか。本当に物の値段が先行き下がりそうだから買わないのだろうか。

筆者は需要が弱い原因はデフレではなく、賃金が上昇しないことと、先行きの年金受け取りに不安を感じている人が多いからだと考えている。日銀はインフレ率が上昇すれば企業は賃金を上げると言うが、企業収益自体が根本的に改善しない中で、企業がインフレ率以上に賃金を上げるとは考えにくい。言うまでもなく、実質賃金が上昇しなければ消費は増加しないだろう。

また、年金基金は大きなリスクを取り始めており、今後相場の上下動により含み損が膨らむ時もあるだろう。こうした不安定な運用を年金基金が行うことは、10年後、20年後の運用益が多少増えたとしても、日本人の年金受け取りに対する不安感を増幅させ、より現在の消費に慎重になるという結果を導いたりはしないだろうか。

2014年後半の原油価格の急落により、2015年半ば頃までに日銀が政策のターゲットとしているコアCPI前年比はゼロ%か、場合によってはマイナス圏にまで鈍化する可能性が高い。もし、日銀が現在の政策スタンスを維持するのであれば、2015年夏頃に追加緩和が行われる可能性がある。

中には、「安倍首相は2016年7月の参議院選挙で何としても3分の2の議席を確保したいだろうから、日銀も2015年は全力で景気とインフレ率の押し上げのために積極的な追加緩和を行ってくる」との予想も聞かれる。現在の日銀の政策スタンスを見ていると、その可能性は高いと筆者も思う。

しかし、本当にそれで大丈夫なのだろうか。実際に日銀の政策が功を奏し2016年初め頃にコアCPI前年比が2%に達した時、7月の参議院選挙を前にしても日銀は出口政策を採れるのだろうか。

国債市場は市場としての機能を失っているように見える。恐らく2015年の10年国債利回りは0.2―0.3%程度で張り付いてしまうのではないだろうか。そうした中で、コアCPI前年比が2%に達し、日銀が国債購入を止めることになれば、長期金利は一気に2%程度まで急騰し、景気を大幅に冷やすことになるだろう。そのようなことを参議院選挙の前にできるのだろうか。

また、2017年4月には消費税増税が待っている。2016年7月の参議院選挙を通過したとしても、その9カ月後の消費税増税を前に、日銀は出口政策を採ることができるのだろうか。

このように考えると、本当のリスクは日本のコアCPI前年比が2%に到達した時の日銀の金融政策にかかっている。仮に2%に達しても参議院選挙や消費税増税を前に出口政策が採れないということになれば、インフレ率は一段と上昇し、さらに大幅な円安が待ち受けることになろう。これは明らかに悪いインフレ率上昇、悪い円安になる。

このような事態に陥る前に、日銀は2015年中に政策転換をする勇気を持つべきではないか。もし、政策転換が行われずに、原油価格急落を原因とした物価上昇率低下に対抗するために、さらなる金融緩和を行った場合、2015年も予想以上の円安となる可能性はある。

ちなみに、2015年も円安が続けば、ドル円相場は4年連続でドル高・円安になるが、これも変動相場制移行後一度も起きたことがない。通常だと、過去に一度もなかったから、今回も起きない可能性が高いと予想したいところだが、過去に例のない金融政策が行われている下では、過去に例のない4年連続のドル高・円安が発生する可能性の方が高いと言えそうだ。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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