December 30, 2014 / 2:37 AM / in 2 years

視点:格差是正へ所得税改革が急務=土居丈朗氏

[東京 30日] - 消費増税先送りを受けて、財政再建の道筋に不安が高まる一方、再増税時の低所得者対策として軽減税率が検討されるなど、日本の税制のあり方が根底から問われている。

慶応義塾大学の土居丈朗教授は、2015年中に税制の方向性を決める必要があり、具体的には財政再建に向けた10%超の消費増税と、格差是正を目指した給付付き税額控除の導入などを目指すべきだと語る。

同氏の見解は以下の通り。

<所得控除から税額控除への移行>

2015年は、日本の税制の方向性を決める年にしなければならない。単に論争するだけではなく、議論に決着をつけて、中長期の具体的な工程表を作りこむ必要がある。

周知のとおり、現行8%の消費税率は2017年4月まで10%に引き上げられないことになった。後述するように、財政再建の観点からは、これは望ましい決断ではないが、こうなった以上、今後2年間は税制を根本的に見直す機会を与えられたと前向きに考えて、行動すべきだ。

法人税については、2014年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2014」(いわゆる「骨太の方針」)に、2015年度から数年で(現在約35%の)実効税率を20%台まで引き下げる方針が示された。この方針の具現化はもちろんのこと、引き下げ効果により経済活動が活性化し、税収増につながるよう、第3の矢(成長戦略)の実行で企業の収益機会の拡充を図らなければならない。また、赤字企業にも負担を求めることになる外形標準課税の拡充など課税ベースの拡大は、企業活動や賃金への分配に支障をきたさないようにすべきだ。

対照的に改革の方向性が定まっていないのが、所得税だ。2015年は、三大基幹税のうち残されたこの税目について議論を深め、改革の方向性を決める必要がある。

折しも現在、格差拡大の解消に役立つとしてグローバル富裕税の導入を提案しているフランスの経済学者トマ・ピケティ氏が世界的な注目を集めているが、日本も税制で格差がどれほど是正できているのか、できていないとすれば、何が問題なのか、虚心坦懐に議論すべきだ。

率直に言って、日本の所得税制度には大きな歪みがある。国民の所得総額は年間ざっと250兆円あるが、実際に所得税が課される対象となる課税所得はそのうちの約110兆円にすぎない。残りの140兆円は、給与所得控除や公的年金等控除、あるいは基礎控除、配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除など、控除に次ぐ控除で、課税対象から外されている。

大きな問題は、控除のやり方だ。所得税制上の控除に対する考え方には大別して、計算された税額から一定額を差し引く税額控除と、税率を乗じる前に収入金額から一定の金額を差し引く所得控除の2つがあるが、海外で前者が主流なのに対して、日本ではいまだに後者が圧倒的に多く適用されているのだ。

現在、所得税制で税額控除が適用される分野は住宅ローンや寄付金(ただし所得控除と選択制)などに限られており、適用額も約7000億円にすぎない。そのため、所得課税による格差是正効果が世界的にみて、極めて低くなっている。

もう少しわかりやすく説明しよう。例えば、所得税率10%と20%の人がいたとする。両者に一律38万円の基礎控除が与えられるとどうなるか。税負担軽減効果は前者が3.8万円なのに対して、後者は7.6万円。つまり、所得の多い人ほど、税負担が軽くなる。

これに対して税額控除の考え方では、例えば全員3.8万円で基礎控除額を統一しますよということであり、高所得者ほど税負担軽減効果が低くなる。格差是正効果は大きく、また課税ベースが拡大することから、税収増にもつながる。

こう話すと、高所得者の税負担増で、経済活力が削がれるのではないかという懸念が聞こえてきそうだが、果たしてそうだろうか。より稼ごうという労働意欲の問題に置き換えて考えれば、問題は働く人が追加で稼いだお金にかかる税率であるはずだ。その限界税率を上げてしまえば、確かに労働意欲は阻害されるだろうが、そこを変えずに税額控除を導入するならば、その批判は的外れだろう。

また、格差是正という観点から、もう1つ大事なポイントを補足すれば、消費税に軽減税率を併用するのは得策ではない。例えば、食料品に軽減税率を適用したところで、低所得者のみならず、高所得者もその恩恵を同じように受けるからだ。格差是正につながらないうえに、税収も減少する。軽減税率導入で税収が失われる分、標準税率のさらなる引き上げも必要になる。

むしろ、低所得者対策として有効なのは、給付付き税額控除だ。控除適用に所得制限を設け、低所得者にだけ税負担を軽減する給付を出すことで、格差是正の効果を強めることができる。2016年1月にスタートする社会保障・税番号制度(マイナンバー)を利用すれば、低コストでより正確に所得を捕捉することができ、不正受給も防げるはずだ。

ちなみに、軽減税率のほうが、他国の事例で示されているように、事務コストは大きく、不正や脱税の温床となる傾向がある。報道によれば、自公連立政権は2017年の消費増税に合わせて、軽減税率を導入する方向を目指しているようだが、今一度そのデメリットにも目を向けてもらいたい。

<10%超の消費増税は不可避>

一方、日本の財政健全化の過程では、消費税が引き続き主役となるべきだ。所得税、法人税、相続税などの歪みを正すことで、税収を増やす努力をするのは当然のことだが、これら3つの税目に頼りすぎると、グローバル化の中で富の流出を招き、かえって税収を失ってしまう恐れがある。それに対して消費税ならば、よほど極端に高い税率に引き上げない限り、そのようなことは考えにくい。そもそも、国際的にみて、日本の消費税率はきわめて低い。また、引退した高齢者にも負担してもらえることから、世代間格差の是正効果も併せ持つ。

その意味でも、10%への税率引き上げは通過点に過ぎず、さらに一段の消費増税が必要になると私は考える。周知のとおり、日本は2015年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)赤字の対GDP比半減(対2010年度比)と2020年度のPB黒字化という財政健全化目標の達成を閣議決定し、国際的な公約として掲げている。これを覆すことは、国債格付けのさらなる引き下げなどを通じて、財政危機に火をつける可能性もある。

もちろん、道筋としては歳出削減と経済成長による税収確保も必要だが、現実問題として一定の増税は不可避だ。そもそも内閣府の試算では、3%台半ばの名目成長を実現したとしても、11兆円のPB赤字(2020年度)が残るという。

この11兆円を、例えば社会保障費(約110兆円)の圧縮だけで実現しようとすれば、10%も削ることになる。これは、社会的に受け入れられる痛みではないだろう。確かに、社会保障費の伸び率を抑制し、かつ公共事業や公務員人件費の大幅削減なども断行すれば、5兆円以上は赤字を圧縮できるかもしれない。しかし、11兆円は、増税なしでカバーするにはあまりに大きな額だ(しかも、成長率が想定より低くなれば、赤字はさらに膨らむ)。

問題は2017年4月の消費増税まで、新たな消費増税議論を行うのが難しくなったことだ。税収増の効果は増税実施の翌年以降から顕現化するので、逆算すれば、本来は2019年には10%超への4度目の消費増税を実施することが望ましい。

政府は2015年夏に、具体的な財政健全化計画を提示するとしているが、国際公約を守り財政の持続性を確保するためにも、次の消費増税議論を早々にスタートする必要がある。

(編集:麻生祐司)

*土居丈朗氏は、慶応義塾大学経済学部教授。専門は、財政学、公共経済学、政治経済学。2009年より現職。現在、行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、社会保障審議会臨時委員などを務める。東京大学経済学博士。

*本稿は、土居丈朗氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの特集「2015年の視点」に掲載されたものです。

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