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コラム:ドル円「1月効果説」が当たらなくなった訳=上野泰也氏

[東京 15日] - その年の1月中にドル円相場が動いた方向(円高か円安か)と、年間(1―12月)で動いた方向が合致する確率が非常に高いという経験則が、為替市場では昔からよく知られている。

 1月15日、みずほ証券・チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は、1月単月と年間の相場の方向性が一致するという「1月効果説」の的中率が2007年以降悪くなっている原因は3つあると分析。提供写真(2015年 ロイター)

暦年ベースで投資を行う米国など海外の機関投資家がシナリオに沿って年初にポジションを構築することが原因と説明されることが多い。海外投資家の相場支配力の強さを示す事象としても理解し得る。ところが、この経験則の的中率が、2007年に米国で住宅バブルが崩壊した頃から目立って悪くなっている。

日本が変動相場制に移行した翌年の1974年から2006年までの33年間、「1月効果説」の成績は27勝6敗、勝率81.8%という驚異的な数字だった。なお、データの取り方はいろいろあるが、筆者の場合は日銀公表データなどをもとに東京市場ベースで、1)1月第1営業日の午前9時時点、2)1月最終営業日の午後5時時点、3)12月最終営業日の午後5時時点を調べた上で、1)と2)の方向と1)と3)の方向が合致すれば「1月効果説」的中とカウントしている。

ところが、2007年から14年までの直近8年間では、この「1月効果説」は3勝5敗の負け越しで、勝率は37.5%にとどまっている。その原因として考えられることは、以下の3つである。

まず、米国で住宅バブルが崩壊してサブプライムローン問題が深刻化した2007年から、ドル円が75.32円(11年10月31日)と76.03円(12年2月1日)でダブルボトムをつけるまでの時期については、欧米でリスクが高まる中で、マネーが日本の円に逃避した「リスクオフ」の円高局面だったことが挙げられる。1月中に限ったドル円のベクトルがどうであるにせよ、年間では円高ドル安が進みやすかった。

2007年と11年は、1月に円安ドル高のシグナルが出ていたが、円高の大きなうねりには抗し切れず、「1月効果説」は外れた。

次に、2012年から14年までの時期については、日米欧の中央銀行が市場にサプライズをもたらす大胆な金融緩和策を実行する中で、年初に構築した相場シナリオを年の途中で大幅に変更せざるを得ないケースが多かったと考えられる。

2012年は、欧州債務危機を背景として1月に円高ドル安のシグナルが出ていたが、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が「ドラギマジック」とも呼ばれる危機対応策を打ち出して事態を沈静化させることに成功した。結局、この年のドル円相場は、通年では円安ドル高に動いた。

昨年は、アベノミクスに賞味期限切れムードが漂う中で、1月は株安と連動して円高が進んだ。ところが、10月末に日銀がマネタリーベース増加ペース上積みを含む追加緩和というサプライズを演じると、市場の状況は一変。米国と金融政策のベクトルが180度違うことから「円は売りやすい」という認識が市場に浸透して円売りが加速。通年では大幅な円安ドル高になり、「1月効果説」は外れた。

3つめの原因は、海外投資家の「投資行動の短期化」である。リーマンショックという大きなリスクイベントを経て、先進各国で金融の規制監督を強化する流れが明確になった。ヘッジファンドに代表される短期筋の側から見れば、資金調達の困難さが増した形である。

このため、固定したシナリオに沿ってじっくりと腰を据えて1年間投資をするというような行動が難しくなった。その代わりに、年の途中で運用対象商品そのものや相場観・金利観を状況変化に応じて何度でも切り替える機動的な運用収益の積み上げが志向されることが増えた。こうした投資行動パターンの変化は「1月効果説」にとって明らかにネガティブである。

<今年の予想レンジは112―125円>

では、今年のドル円はどう動くだろうか。1月5日の東京市場午前9時時点は120.41円。その後は原油価格下落を背景とする米国株下落や、米国の景気・物価指標下振れを受けた同国の利上げ開始時期予想の後ずれを背景に、一時116円台まで円高ドル安が進んだ。2015年についての筆者のドル円年間予想レンジは112―125円である。

ドル円に関して今年1つ注目されるのは、通年で円安ドル高に動いた場合は4年連続となり、過去最長記録に並ぶという点だ。米国でレーガン政権がドル高政策を採用した1981―84年に4年連続で円安になったという記録がある(なお、ここでは「1月効果説」と同じ手法を採っており、上記の1月第1営業日の午前9時時点と12月最終営業日の午後5時時点を比較している)。

強気の物価シナリオと現実の動きが大きくかい離する中で日銀がおそらく10月末にさらなる追加緩和に動く一方、年末頃に米国で利上げ開始がようやく決まるというのが、筆者が以前から描いているシナリオである。その場合、日米の金融政策のベクトルの違いがあらためて意識される中で、10―12月期に一時125円まで円安ドル高が進むと予想される。

ただし、そうした日本と米国の金融政策変更が市場で事前に十分織り込まれ、全くサプライズにならない場合は、材料出尽くし感から、年末にかけて円高ドル安方向に揺り戻すケースも考えられる。

もう1つ今年ドル円で注目されるのは、年間の値幅がさらに拡大するかどうかである。昨年は、ドル高値が12月8日の121.86円で、ドル安値が2月4日の100.76円だったので、年間値幅は21.10円だった(ここでは東京・ロンドン・ニューヨークを中心とするグローバル市場ベースで計算している)。20円を超えたのはリーマンショックが発生した2008年(24.79円)以来のことで、その前は1999年(23.50円)までさかのぼらないと前例がない。

また、年間値幅は2012年から昨年まで3年連続で拡大したが、これはデータをさかのぼることができる1985年以降では最長の記録である。値幅が今年さらに拡大する可能性はあまりないと筆者はみているが、不安定な株価に連動して為替相場の振れがかなり大きくなる場面は、年の途中で何度か生じるだろう。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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