January 16, 2015 / 9:22 AM / 4 years ago

コラム:ユーロ安が「長期化」する理由=村上尚己氏

[東京 16日] - 昨年末からギリシャの政権交代というイベントに注目が高まり、原油価格の大幅下落とともに市場の不確実性を高める材料の一つになっている。

1月25日投開票のギリシャ総選挙では、国民の支持率が高い左派政党であるSYRIZA(シリザ)が筆頭政党になる可能性が大きい。このため、2012年半ばに金融市場に大きな混乱をもたらしたギリシャのユーロ離脱、すなわちGrexit(グレグジット)の懸念が再浮上している。昨年末以降、Grexitへの備えについてドイツ高官の発言などが報じられ、投資家心理を冷え込ませた。

ただし、実はSYRIZAなどのギリシャの政党の多くは、経済政策としてユーロ離脱を主張していない。本来はギリシャなどの南欧諸国がユーロ域内にとどまる経済的なデメリットが大きいので、ユーロからの離脱は経済理論的には妥当である。そうすることによって南欧諸国は最も早く経済正常化を進めることができるからだ。しかし、実際にはギリシャですら多くの政党が、政治的なコストが大きいため、ユーロ離脱には慎重な姿勢を示している。

ギリシャ経済にとって引き締め的な経済政策が重石となり続ける中で、国債の償還期限を迎える度に、借り換えや流動性の対応について欧州連合(EU)などとの政治交渉を続けざるを得ない。南欧諸国の国民にとって不幸だが、政治体制が変わってもユーロ圏にとどまる限り経済成長率は抑制され続ける。

一方、ドイツも、ユーロシステムを堅持する対応を続けるだろう。そして、ユーロ体制の維持を使命とされている欧州中央銀行(ECB)が側面支援する体制も変わりそうにない。ドイツでは失業率の改善が続き、また財政収支が2014年に黒字に転じており、政策対応を変更するインセンティブは乏しいだろう。Grexitを想定しているかのようなドイツ高官の発言があったが、財政支援を続けることを前提とした政治的なものだろう。

ドイツにとってもGrexitが経済的には望ましいが、ドイツの財政収支改善によって、ユーロという秩序を守る政治的な余裕も生まれている。本当はユーロ体制を見直すことが、幅広い欧州経済に住む人々の生活水準を高めるはずだが、そうした方向を目指す政治的な動きは起きていない。であれば、ギリシャ総選挙というイベントは、市場の短期的な思惑を高めるだけに過ぎない。

<従来のユーロ安局面との決定的違い>

さて、「ギリシャリスク」のもう一つの側面として意識されているのが、このことがECBによる量的金融緩和政策への期待を左右していることだ。ECBが量的緩和に乗り出すとして、問題となるのが買い入れ資産としてのギリシャ国債の取り扱いだ。つまり、ドラギ総裁がコミットしているように、本当にECBは量的緩和を実現できるかどうかということだ。実際、1月の政策理事会で予想される量的緩和の具体的なプランの中身が、年末以降、各メディアから漏れ伝わっており、そのスキームと市場への影響をめぐり思惑が揺れ動いている。

市場の思惑はいろいろだが、重要な点は、ドラギ総裁が発しているようにECBのバランスシートの拡大などでインフレ期待を左右することへの信任が高まることで、ECBの金融政策が有言実行となるかどうかだ。筆者は、現在のドラギECB総裁のイニシアティブによる政策転換によって、金融緩和の景気刺激効果が少しずつ顕在化すると予想している。

2013年までのECBの金融政策は、金融システム・流動性不足対応として役割を果たしたが、実際にはバランスシートが縮小し続けるなど、景気抑制的に運営されてきた。しかし、2014年半ば以降、少しずつだが状況が変わった。米連邦準備理事会(FRB)や日銀などが実践した標準的な中央銀行の役割を理解しているドラギ総裁が考えを改め、ECBがデフレリスクへの対処を最優先させるようになったのだ。

2014年6月にECBが金融緩和を強化してから、ドイツ国債金利が大きく低下し、スペイン、イタリアなどの国債そして銀行貸出金利も約100ベーシスポイント(bp)低下している。為替市場ではユーロ安が続き、南欧諸国にとって引き締め的だった金融環境がかなり緩和されている。そして、2014年末からECBによる資産購入姿勢が変わり、そのバランスシートは再び増え始めている。スペインなど対ドイツの国債金利スプレッドはまだ縮小する余地が残っているので、今後のECBの国債購入拡大を通じて金融緩和の景気下支え効果はさらに強まるだろう。

金融緩和の欧州経済をサポートする効果としてより重要な経路が、為替市場を通じたユーロ安である。2015年早々から大幅なユーロ安が続き、ユーロドルは9年ぶりの安値水準まで低下している。2010年や2012年の債務危機時にもユーロドルは下落したが、今次局面ではこれまでのレンジを下抜けし、ユーロ安が進んでいる。

さらに今回のユーロ安は、2012年までのような危機対応への警戒感がもたらした通貨安ではなく、ECBが量的緩和に踏み切るという強い決断がもたらしている面が大きい。2012年までは危機時にユーロ安が進んでも、危機が収束すると再びユーロ高が訪れた。その主たる理由は、ECBの金融緩和政策が受け身でしか対応しないという市場の期待が根強かったことだ。

ただ現在はECBがデフレ阻止を全面に打ち出し、FRBの代わりに世界的な金融緩和状態を作り出す役回りを演じつつある。ECBが金融緩和強化を徹底し続けるため、ユーロ安の持続性もかつてとは異なるだろう。

ユーロの実質実効レートをみると、2015年年初にようやく2012年の危機時の水準まで低下したが、割高だったユーロが歴史的な平均水準に戻ったに過ぎない。リーマンショックがもたらしたバブルとその処理に最も手間取ってきた欧州経済がデフレを回避して浮上するには、アグレッシブな金融緩和による大幅な自国通貨安が必要になるのではないか。

ECBの政策転換によって、デフレ阻止のために総需要安定化政策がようやく役割を果たせるようになる。同時に、本来は維持するのが難しいユーロというシステムを守るために、ECBが果たすべき役割は極めて大きいということなのかもしれない。

以上を踏まえると、年初から進んでいるユーロ安は長期化する可能性が高い。2014年は、金融緩和が不十分でデフレに足を踏み入れつつある欧州、そして大型増税で失速した日本が、世界経済の足を引っ張った。2015年は、日本での増税先送り、そしてECBが金融政策の本来の役割を果たすことが、世界経済正常化と金融市場の安定をもたらすだろう。

ところで最後に、1月15日にスイス国立銀行(中央銀行)が発表したスイスフランの対ユーロ上限撤廃について言い添えれば、同中銀による予想外の政策対応は、ECBの金融緩和強化によってユーロ安が長期化する可能性が高くなる中で、金融政策の自立性を保つことを優先させたと筆者は解釈している。ただ、デフレに陥っている同国の現状を踏まえれば、スイス中銀の対応が妥当であるかは議論が分かれるところだろう。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタインのマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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