January 20, 2015 / 4:27 AM / 4 years ago

視点:日本経済の創造的破壊を阻む3つの壁=カッツ氏

同氏の見解は以下の通り。

<「創造的破壊」を担う企業の不在>

日本経済の持続的成長にとって最も重要なのは、1人当たり国内総生産(GDP)の伸びを加速させるべく、アベノミクスの「第3の矢(成長戦略)」を単なるスローガンや耳に心地いい目標ではなく、労働や資本の生産性を上げるための実際の行動に変えることである。

金融・財政の刺激策は、構造改革という外科手術のための麻酔として使うべきだ。労働および資本の生産性を上げる鍵となるのは、競争の活発化であり、「創造的破壊」の促進だ。日本で新参企業が既得権益層に取って代わるのは、他の先進国に比べてはるかに難しい。

かつての花形産業だった電機産業が陥っている苦境に目を向けてみよう。以前のソニーのように何十年にもわたって超優良企業としてあり続けるというのは、どんな会社であれ非常に難しいことだ。だからこそ、ある企業が傾いてきた時には、新しい企業と入れ替わるという産業の新陳代謝が必要になる。

米国では、新たな技術は通常、古い技術に金銭的・感情的なしがらみが何もない新しい企業によって促進される。現在の米国の大手電機メーカー21社のうち、8社は1970年にはまだ存在さえしていなかった。また、6社はわずか十数年前でさえ、規模が小さすぎて米経済誌フォーチュンが選ぶトップ500社に入っていなかった。

対照的に、日本では過去何十年間も、電機産業のトップに新規参入企業は現れていない。新たな技術が生まれると、パナソニックやソニー、富士通、NECなどが新たな部門を立ち上げるのが常だ。それゆえに、こうした企業は過去と未来の間で方向感が定まらず、創造的破壊が遅れがちになる。

日本は先進国中、企業の開業率も廃業率も最低水準にある。創造的破壊を推進するどころか、経済産業省は「大きいことは良いことだ」とばかりに、半導体分野などで事業統合を促した。鉄鋼業や石油精製業など他の産業でも同じことが繰り返されてきた。

<保護されるべきは転職を選ぶ労働者>

創造的破壊を促すには、日本には労働改革が必要だ。現在、労働改革や労働の柔軟性と呼ばれているものは、単なる賃下げに過ぎない。非正規雇用は正規雇用に比べて賃金が大幅に低い。非正規雇用者は研修やトレーニングの機会も極めて限られているため、正規雇用へのチャンスも低く、新たな技術を吸収する土台となるスキルの成長も遅くなる。日本もオランダのように、同一労働同一賃金を法制化する必要がある。

加えて、労働の柔軟性には、強固な公的セーフティーネットの整備が求められる。現時点では、労働者のセーフティーネットは事実上、現在働いている会社の現在の仕事に限られている。日本には、北欧諸国などが採用している「フレキシキュリティ」のような仕組みが必要だ。

フレキシキュリティは、雇用の柔軟性と労働者保護を両立する。保護されるのは特定の仕事ではなく、転職をする労働者だ。日本的なシステムでは転職を繰り返す労働者は不利益を被りがちだが、フレキシキュリティにはしっかりとした失業補償のシステムが存在する。ある研究によれば、実質的な失業給付の所得代替率は経済協力開発機構(OECD)の平均で見れば30%だが、日本では典型的な失業者の場合、10%と極めて低い水準になっている。

スウェーデンやデンマーク、オランダは毎年、労働者の転職を支援する「積極的労働市場プログラム」に国内総生産(GDP)の約1.5%を投じている。デンマークでは常時、失業者の30─40%が、技能訓練校や企業での補助金付きトレーニングに参加したり、従来の仕事で新しい職を見つけられない場合は再訓練を受けたりしている。低スキルの長期失業者を雇用する企業に対しては一時的に補助金が支払われたりもしている。また厳しい規則により、こうしたプログラムによって雇用されている労働者が正規雇用者より安い賃金で働くことが未然に防がれている。

歳出削減の必要がある日本に(デンマークのような)プログラムを導入する余裕がないと言うなら、それは「安物買いの銭失い」だ。生産性の向上で成長が高まれば、税収の増加につながるからだ。

<TPPは国内改革の触媒として有効>

中国からポーランドやスウェーデンに至るまで、改革が成功した経験のある国ではほぼ例外なく、「グローバル化」の高まりがその一翼を担ってきた。国際貿易が増えれば、競争は強まる。外国直接投資が増えれば、競争のみならず技術の移転も起こり、そこでは新たな考え方も輸入される。日本の自動車産業が米国に「移植」されたことで、デトロイトの米自動車大手3社には効率性がもたらされた。

しかし日本はまだ、GDPに対する輸出入の比率が主要国の中で最も低い国の1つである。多くの産業は依然として輸入を締め出す方法を模索している。例えば鉄鋼製品は、多くの製品で日本国内の価格より世界価格の方が安いにもかかわらず、輸入品の市場シェアはまだ低い。

独占禁止法の「不当な取引制限」の条項も、積極的に運用されているとは言えない。

さらに、海外からの対日直接投資は非常に低い水準のままだが、身売りを望んでいない日本企業を外資系企業(日本企業でさえ)が買収することが極めて難しいのも大きな要因だ。本物の「企業支配権市場」は、経営者に業績改善を迫ったり、退陣を求めたりするものである。

環太平洋連携協定(TPP)のような自由貿易協定は、国内改革のための触媒として使うべきだ。ただ残念ながら、安倍政権は、そうは見ていないようだ。

*リチャード・カッツ氏は、オリエンタル・エコノミスト・レポート&アラート代表(編集長)。ニューヨーク大学スターンビジネススクール助教授、米外交問題協議会特別委員会委員などを歴任し、現職。日本に関する著作が多く、日米関係や日本の金融危機について米国議会で証言も。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの特集「2015年の視点」に掲載されたものです。(here

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below