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オピニオン:出口見えない原油安、早期反転は期待薄=芥田知至氏
2015年1月28日 / 04:12 / 3年後

オピニオン:出口見えない原油安、早期反転は期待薄=芥田知至氏

[東京 28日] - 2008年のリーマンショックを挟んで140ドル台から30ドル台まで急落した原油価格はその後、2年程度をかけて100ドル台まで回復した。しかし今回は、需給面や金融政策面などでの様々な環境の違いから、その大台に戻すまでにはさらに長い年月を要するだろうと、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの主任研究員、芥田知至氏は指摘する。

 1月28日、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの主任研究員、芥田知至氏は、原油安基調は最短でも年半ば頃まで継続し、その後の反転ペースは相当緩やかなものになるだろうと予想。提供写真(2015年 ロイター)

同氏の見解は以下の通り。

<前回の反転局面と何が違うのか>

今後の原油相場の見通しについては、一部に早期反転を予想する向きもあるが、私はそうしたシナリオに確信を持てないでいる。

むしろ最短でも5月か6月までは基調としては弱含みか、あるいは底ばいの状態が続き、その後反転したとしても、相当緩やかなペースになる可能性が高いと考えている。

振り返れば2008年9月のリーマンショック後、同年12月に1バレル32ドルまで下げた原油価格(WTI)がその1年後には80ドル台まで戻したことから、今回も早晩同じような軌道をたどるとの見方もある。

しかし、当時は新興国投資ブームがまだ続いており、需要が拡大していくとのシナリオも健在だった。また、世界的な金融危機の克服を目指して米国から緩和マネーがふんだんに供給され、その過剰流動性を背景に、コモディティ投資ブームも続いていた。

しかし、今回の原油安局面では米連邦準備理事会(FRB)がすでにフローから見た量的緩和を終了し、年内の利上げも視野に、金融政策の正常化に向かって動き出している。日欧からの緩和マネー供給は引き続き期待できるものの、新興国経済への資金流入は、米量的緩和局面と比べれば、明らかに細ってくるだろう。加えて、過去の米利上げ局面では、新興国経済は混乱もしくは停滞するケースが多かった点にも注意が必要だ。

原油価格は地政学リスクの高まりなど突発的なイベントで短期に急騰しやすいので、確実なことは言えないが、相場には当面、上方向よりも下方向に圧力がかかりやすいと見るのが妥当ではないだろうか。

<需給改善には相当の時間が必要>

そうした見方をサポートするのが、需給の状況だ。原油価格が高騰を始めた2000年代半ば以降の変化をおさらいすれば、供給面では、北米・南米・アフリカ・中央アジアなどでの増産が特に目立った。リーマンショック直前の2008年7月に147ドルまで届いた原油価格高騰を受けて、資源開発が急ピッチで進み、その後しばらくしてから実際の供給力として大きく現れるようになってきたのだ。

一方、需要については、リーマンショック後、「4兆元」の景気刺激策に乗り出した中国を筆頭に、新興国のエネルギー消費は好調な伸びを示し、原油価格を下支えした。しかし、昨年秋口にかけて、中国経済の勢いに一段と陰りが見え始めると、10月半ば頃を境に、世界景気の減速懸念が急速に強まり、原油需給の先行きにも黄信号が灯った。

後付けの解釈になってしまうが、今思えば、需要がそれほど拡大していない割には、原油価格は高かったのかもしれない。欧州経済がデフレの瀬戸際で喘ぎ、日本経済が消費増税の影響などで4月以降2四半期連続のマイナス成長を続けるなかで、唯一気を吐く先進国経済である米国においても、ガソリン需要は伸び悩んでいた。そうした「ネガティブサプライズ」が都合よく見過ごされていた面はあろう。同様に、シェールオイルの増産が続いていたにもかかわらず、供給増要因としてマーケットは十分に織り込んでいなかったとも言える。

ただし、無理もないところはあった。イランの核開発問題、「アラブの春」以降のリビアの供給障害、あるいは昨年初めのウクライナ情勢の緊迫化、そして「イスラム国」の台頭といった地政学リスクの高まりが相次いだからだ。これらは、時間が経つにつれて、実際の原油需給の引き締めにつながらないことが分かってきた。それが昨年の後半だ。加えて、その時点で石油輸出国機構(OPEC)が協調減産に動かないという衝撃もあった。

そして今、弛んだ需給構造が急速に引き締まる状況にはない。2008年末以降の前回の反転局面では2年と数カ月程度で100ドル台(2011年第1四半期)に戻したが、今回は供給側の絞り込みがよほど急ピッチに進まない限り、大台の回復は期待薄だろう。

<かく乱要因はシェールの減産ペース>

では、原油価格は逆に底なし沼のように沈んでいくのだろうか。確かに、チャート上は抵抗線と呼べるところがなくなっている。次の参照価格は、先ほど述べた2008年12月の安値32ドル近辺となろう。そこまで落ちる可能性がゼロとは言えない状況だ。

ただし、一部に言われているように、30ドルを切って、20ドル台、そして10ドル台に下落していく、あるいは20ドル台で定着するというようなシナリオの蓋然性は低いように思える。過去20年余りを振り返れば、1990年代後半に10ドル台を割ったこともあるが、当時とは需給の構造もプレーヤーも異なる。

確かに、中東の巨大油田はトータルコストで見た損益分岐点が10ドル程度、オペレーションコストが数ドルと言われており、今の価格水準でも十分持ちこたえられる。だが、高騰した価格を前提に、2000年代半ば以降に開発された北米のシェールオイルをはじめとする他の油田は、損益分岐点がその何倍も高い。原油価格が20ドル台へ下落する前に、供給に急ブレーキがかかって、相場を下支えすると思う。

特にシェールだ。総コストから見た採算ラインは、低いものでは20ドルだとしても、大半は60ドルから80ドルだろう。従来10―20ドル程度と見られていたオペレーションコストは、原油安を背景に操業に必要なエネルギーコストが下がっているので、それよりもかなり低くなっているはずだが、いずれにせよ現在の価格だと、総コストを賄えず、新規開発にブレーキがかかり、稼働する掘削機は今後減っていく可能性が高い。

また、ロシア、ベネズエラといった、経済ファンダメンタルズの脆弱なエネルギー資源国は、現水準の原油安が続けば、経済危機に見舞われる可能性が高まる。そうした危機が供給障害という形で現れるならば、これもまた原油価格の下支え材料となろう。 

加えて、11月の総会で協調減産を見送ったOPECにしても、先に白旗を掲げるわけにはいかないが、北米のシェール減産が進めば、市場シェアを落とさない程度の生産削減ならばあると思える。いずれにせよ、需要面で大きな改善を見込みにくい2015年は、このように供給面でのゆっくりとした変化が価格形成に影響を与えていくことになろう。

ただ、私のシナリオに誤差が生じるとすれば、それは前述したシェール事業者の減産判断の程度だ。従来の油田・ガス田プロジェクトは調査から探鉱・開発、そして生産開始にこぎつけるまでに気の遠くなるような時間を要し、投資の回収期間も長期にわたった。しかし、シェールプロジェクトの一連のプロセスは対照的に、より短期で済み、投資の回収期間も短い。事業者のマインドは、従来のプレーヤーとはかなり異なる。

彼らが、思いのほか、耐え忍べば、価格にはさらに下落圧力がかかる。逆に、生産調整が前倒しで進むならば、価格反転圧力は、私が予想しているよりも、早く強く出る可能性がある。シェールは引き続き原油価格の行方を大きく左右する要因となりそうだ。

*本稿は、芥田知至氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて構成されています。

*芥田知至氏は、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの主任研究員。専門分野は、国際商品市況、原油価格、金属価格、為替、内外経済。1992年、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、山一證券入社。1998年、三和総合研究所(現在は三菱UFJリサーチ&コンサルティング)入社。2006年より現職。2002年に青山学院大学国際政治経済学研究科修了。

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