February 17, 2015 / 4:33 AM / 5 years ago

コラム:勝者不在の緩和ドミノ、日銀は耐え切れるか=斉藤洋二氏

[東京 17日] - 黒田日銀の量的・質的金融緩和(QQE)が今年4月に導入から2年を迎えるが、3月には欧州中央銀行(ECB)も19カ月にわたる総額1兆1400億ユーロ規模の量的緩和に乗り出す。

一方、カナダ、オーストラリア、中国など多くの国々においても低インフレ・低成長の克服に向け金融緩和が進められていることから世界的に低金利が定着し、主要国の10年物国債利回りは日本0.4%台、ドイツ0.3%台、フランス0.6%台、イタリア1.6%台、スペイン1.5%台、利上げが議論されている米国でも2.0%台にとどまる(2月17日東京時間午前11時現在)。

さらに、日本国債は1月に一時6年債までマイナス金利になったほか、ドイツ国債に至っては本稿執筆時点でも6年債まで利回りがマイナス圏で推移している。

マイナス金利とは、お金を貸した方が利息を支払い、お金を借りた方が利息を受け取ることであり、このような金融論の常識が覆ってしまった世界が中期債にまで広がることなど、資本主義の歴史をひも解いても、寡聞にして知らない。

超低金利の理由は、経済成長力が減速し資金需要が落ち込む一方で、株式などリスク性資産がすでに相当程度値上がりしていることを嫌気した緩和マネーが安全資産へと流れ込んでいるせいである。

また、償還以前に高値で売却できるとの相場先高観が市場に根付いているためだ。したがって、債券市場が内包するバブルが拡大しつつあることは否定しがたく、我々は「バブル崩壊」と隣り合わせにいることを心に留め置く必要があると言えよう。

<世界的な通貨安競争に突入>

超金融緩和が進む中で懸念すべき副作用は2つある。一つは、各国金融当局が政策段階で意図したか否かを問わず世界的な通貨安競争が進んでいることである。

通貨切り下げは対外競争力を高め、輸出増加による国民所得の拡大を目指す上で簡便な手法と言える。一方、貿易相手国にとっては自国通貨の切り上げとなり対外競争力を失って輸出鈍化そして雇用の減少がもたらされる。これは近隣窮乏化政策と言われ、1930年代の米英独仏などの間で行われた通貨戦争にその原型が求められる。

当時の通貨戦争は金本位制のもとで起こった大恐慌からの脱出を目指して演じられ、各国は保護貿易そしてブロック経済を推進した。この時期は英国から米国へと通貨覇権が移行するいわば国際金融界の権力の空白期間にあたり、通貨安競争が結果的に1940年代の第2次世界大戦につながったともされる。

一方、現代の通貨安競争はリーマンショック後の低成長から脱することを目的としている。変動相場制下で金融政策を梃子(てこ)として行われていることや、米国が国際金融の盟主として存在感を維持している点が往時と異なる。

目下、米国はドル高を許容しつつも近隣窮乏化的な通貨安競争をけん制しており、主要各国の行動もおのずから歯止めがかかることになるだろう。しかし、どの国も成長減速と財政悪化に苦しむなか、金融緩和に伴う通貨安競争が一層激化していく懸念を拭えない。主要各国が、1930年代の教訓を生かして金融政策の運営において対外的な均衡も図る節度を持ち続けることができるのか注目されるところだ。

このような環境下、日本において金融政策および財政政策のフル稼働によりデフレ不況脱出が図られたことから、円相場は対ドルで50%下落する一方で株価は2倍に上昇した。これは1930年前後の昭和恐慌時において、金本位制への復帰、再離脱を経て実質的な通貨切り下げで不況を脱したことを思い起こさせる。

実際この間に、中韓はじめアジア各国から円の切り下げに対し非難の声が上がってきたが、米国など国際金融界においてはおおむね許容範囲と受け止められている。とはいえ、今後については国内産業界からの声を背に、米国から円安けん制の発言が飛び出せば、市場は混乱する可能性があることには注意を要しよう。

<日銀の実質債務超過リスク>

超金融緩和によりもたらされる第2の副作用は中央銀行の経営の不安定化だ。中央銀行は何よりも政府からの独立性を堅持することを優先させ金融を担っているとはいえ、財政の悪化そして破綻懸念が高まれば物価安定に専念することはできなくなる。

つまり、財政的な配慮が求められるのは現代の中央銀行にとっては避けて通れない事実である。その例が2012年7月、南欧諸国の財政不安に伴い発生したユーロ危機に際してのドラギECB総裁の「(ユーロ防衛のために)何でもする」との発言だ。

実際、リーマンショック以降、米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和を行い非伝統的な資産購入を進める過程でバランスシートを膨らませたが、中央銀行の中でも日銀の増加は凄まじく、総資産残高は国内総生産(GDP)比で見た場合、6割と突出している。

日銀はこの間、長期国債を年間50―80兆円の規模で買い進んできたが、2月10日時点でバランスシートは313兆円に達し、資産サイドに国債(263兆円)が積み上がり、負債サイドでは当座預金(178兆円)が発行銀行券(88兆円)を大きく上回っている。

日銀は、買い入れ国債の平均残存期間について7―10年程度を目標としている。実際、報道によれば、2月1―10日に買い入れを行った国債の平均残存期間は7.9年程度だったという。日銀による長期国債の購入額も毎月の新規発行額を上回る規模に達している。

国債市場における日銀はまさに「池の中の鯨」の様相を呈し、多くの池の住人たちは巨鯨の成長に自由度を失い、市場原理に基づいた価格形成は難しくなった。

一方、「池の中の鯨」の存在に慣れきってしまえば逆に「池の中の鯨」がいなくなってからのことが気になるのも人の世の習いだ。これまでデフレ脱却が最優先として語ることがはばかられてきた出口戦略だが、国債購入の停止に始まり保有国債の処理・売却に向けての概要が示されても良い時が来ているのではないだろうか。

2006年3月に日銀は量的緩和を停止し、わずか1年で保有短期国債が順次償還を迎えて金利を正常化させた。しかし、量的緩和の1年での解消は、「失われた10年」の傷をさらに大きくすることとなった。

つまり、日銀が今後取り組むべき出口戦略の規模と終了するまでの期間の長さを考慮すれば、現在のバランスシートを健全な範囲内に圧縮することは時間もかかり、その間日銀のポートフォリオはマーケットの変動にさらされ続けることとなる。

さらに、日銀は国債のみならず上場投資信託(ETF)や上場不動産投資信託(REIT)などリスク性資産もポートフォリオに組み入れているが、日銀の資本金はわずか1億円であり、法定準備金2.9兆円、そして債券や外国為替等の取引に関わる損失引当金3.8兆円を含めても、総資産に対する比率は2%強しかない。

市場環境の悪化で保有資産がその比率を超えて毀損(きそん)した際には、実質債務超過となる恐れが高まる。中銀の場合、債務超過=破綻というわけではないが、このような状態に陥った場合、日銀券の信認が低下することを肝に銘じておく必要があるだろう。

これまで述べたように今後日本は超金融緩和の副作用である通貨安競争に巻き込まれ、さらに日銀のバランスシート拡大に対する市場の目が一段と厳しくなると仮定すれば、円安基調が当面持続すると考えても良いのではないだろうか。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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