March 17, 2015 / 9:58 AM / 5 years ago

コラム:ハト派の日銀とタカ派のFRB、帰結はドル安か=佐々木融氏

[東京 17日] - 17日の日銀金融政策決定会合では予想通り金融政策が据え置かれ、黒田総裁会見も従来の主張を繰り返すにとどまった。そのため、市場の反応も限定的なものとなった。

日銀がこれまでも繰り返しているように、今後2%程度の物価上昇率を持続的かつ安定的に維持するためには、賃金も同様に一定程度の上昇率を維持する必要がある。その意味で、18日に迎える春闘の集中回答の中身、またその結果として全体の賃金がどの程度上昇するかを、日銀は見極めたいところだろう。ちなみに、3日に発表された1月の毎月勤労統計では、「決まって支給する給与」は前年比プラス0.9%と2000年3月以来の大きな伸びとなった。

さらに、今年に入ってから日本株の堅調さが目立つ。年初来の上昇率(3月16日時点)を見ると、米S&P500株価指数の1.1%に対して、東証株価指数(TOPIX)は10.7%に達する。また、何より注目すべきは、ドルベースで見ても、TOPIXの上昇率が9.3%と、S&P500を大きく上回っていることだ。

これは何を意味しているのか。例えば、2014年のTOPIXは8.1%上昇したが、ドルベースでは5.0%下落している。つまり、昨年1年間の株価指数上昇は、建値である円の価値が下落したことにより、世界の投資家が保有ポートフォリオに占める日本株の比率を一定にするために追加投資を行ったことに拠る部分が大きい。換言すれば、ドルベースで見ている海外投資家からすれば、日本の株価は実質的には下落していたのだ。

しかし、今年は円相場がさほど大きく動いていない中での株価上昇であるため、前述の通り、ドルベースでもTOPIXは9.3%上昇している。これは、ようやく日本の株価が通貨安ではなく、企業収益の増加期待によって買われ始めているためと考えられる。

ちなみに、独DAX株価指数は年初来24%上昇しているが、ドルベースでは8.4%しか上昇していない。今年の独DAX株価指数の強さは、昨年までの日本株と同じように建値である通貨の下落に拠るところが大きいのである。

今年は日本経済にとってかなり良い年になる可能性がある。輸出物価を輸入物価で割った交易条件は昨年10月以降急速に改善している。日本国を一つの会社に例えれば、販売価格が上昇している中、仕入れ価格が下落している状況だ。過去4カ月間について見れば、リーマンショック時の特殊な時期を除くと1991年以来の急速な改善ペースを示している。

こうした環境下、日銀のバランスシート規模は対名目国内総生産(GDP)比で66%まで拡大している。そして、このまま日銀が約束しているペースで資産購入を続ければ、76%に達する見通しだ。

米連邦準備理事会(FRB)の同比率は26%、欧州中央銀行(ECB)は今年末までの量的緩和(QE)分を考慮に入れても28%程度である。経済のファンダメンタルズが急速に改善し、株価も他国をアウトパフォーム、さらには対名目GDP比でFRB、ECBの倍以上のバランスシート規模になりながら、再度の追加緩和も辞さない日銀の姿勢(JPモルガンは今年7月の追加緩和を予想)は、他の主要国に比べて、かなりハト派的と言えるだろう。

<タカ派的過ぎるFRB>

一方、FRBは対照的に、相当タカ派的な中銀となっている。18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文からは、金融政策正常化までのフォワードガイダンスであった「忍耐強くいられる(patient)」との文言が削除されると予想されている。

利上げについては今後の経済指標次第と強調するだろうが、市場はすでに9月の利上げを織り込み、また年末までにもう一度利上げがあることを織り込んでいる(JPモルガンは6月に最初の利上げが行われ、年内に3回利上げがあると予想)。同時に発表される経済見通しについては、実質成長率、インフレ率、失業率いずれも前回12月公表分から、やや下方修正されると見ている。

いわゆる「ドット」で示される政策金利見通しは、2015年末を中心に下方修正されるだろう。前回の12月時点では、FOMC参加者17名中6名が2015年末の政策金利見通しを1.5%以上としていた。2016年末については13名が2%以上を予想していた。

また、長期的な中立金利は加重平均値で12月時点では3.78%だったが、これが下方修正されるかどうかも注目される。市場が今後の利上げペースにも注目し始める中、2016年末時点の予想や中立金利に対する見方のほうが、米金利に影響を与える可能性が高いだろう。

イエレンFRB議長の記者会見では、再び原油価格が下落基調を始め、WTI先物価格が約6年ぶりの低水準となっていることの米インフレ率への影響、歴史的なペースで急騰しているドルの米企業収益に与える影響などについて質問が出ることが予想され、これにどう答えるかが注目される。

市場は利上げの有無よりも、利上げのペースに注目している。しかし、最近の米経済指標は弱さが目立つ。小売売上高は2月まで3カ月連続の前月比マイナスとなっている。悪天候などの特殊要因も影響しているが、それだけでは説明できない弱さがある。2月のコア生産者物価指数は前月比0.5%減と予想外の大幅なマイナスとなった。製造業の生産は2月まで3カ月連続で前月比マイナスとなり、ドル高の影響が表れている可能性を示唆している。

確かに非農業部門雇用者数や失業率には著しい改善が見られるが、その他の経済指標は先行きを不安視させるものが多い。雇用関連指標についても、いわゆる「イエレン・ダッシュボート」と呼ばれる9つの指標で、リセッション入りした2007年12月以前の水準を超えて改善しているものは、非農業部門雇用者数、求人率、解雇率の3つしかない。

さらに、FRBが重視しているはずのコア個人消費支出(PCE)価格指数は1月の数字が前年比1.3%と目標の2%を大きく下回ったままだ。ちなみに、同指標を小数点第2位までで比べると、昨年11月以降3カ月連続で低下基調を辿っている。

<1980年代前半との類似点>

このように、日銀は足元のマクロ経済環境に比してハト派的過ぎるように見え、一方のFRBはタカ派的過ぎるように見える。そして、こうした姿勢の違いがドル円相場にも反映していると考えられる。

現在のドル円相場は、1980年以降で見て、フェアバリューから最も円安方向にかい離していた1982年10月時点の水準に近付いている。当時のピークは277円台で、足元でこれと同水準は128円という計算になる。

1982年のピークに至った主因は、当時のボルカーFRB議長による強烈な金融引き締め政策の影響などを受けたドルの急上昇であったが、一方で日銀による金融緩和と日本の財政赤字に対する海外からの懸念、日本人投資家による対外証券投資の増加を受けた円安という要因も貢献していた。細かく見れば異なる点もあるが、大まかな意味では現在と似た構図だったと言える。

その後のドル円相場はどのような運命を辿ったのだろうか。実は277円台の高値を付けた後、1985年までは220―260円台のレンジ内で推移した。実効レートベースでのドルの上昇は続いたが、円安の流れが止まり、やや反転し始めたため、レンジ相場が続いた。つまり、「ドル高・円高」である。これも今年に入ってからの動きと似ていて興味深い。

当時円安が止まった理由はいくつかあるが、貿易黒字が1983年に入って急速に改善し、経常黒字が前年の3倍に急増したことも大きく影響したと考えられる。ちなみに、2015年の経常黒字は昨年の8倍程度に拡大するとJPモルガンでは予想している。

その後の展開はよく知られている。1985年9月22日のプラザ合意をきっかけにドルは急落。ドル円相場は240円から約1年間で152円まで急落した。

果たして、現在のドル円相場が急騰途上の1982年半ばにあるのか、それとも1984―85年前半までのレンジ相場期の入り口にあるのか、現時点で明確な答えを出すのは難しい。しかし、個人的な意見ではあるが、日銀が超ハト派の旗を降ろすより、FRBが超タカ派の旗を降ろすほうが早いように感じる。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の債券為替調査部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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