April 2, 2015 / 10:09 AM / 4 years ago

コラム:中国主導「AIIB」不参加は良策か失策か=熊野英生氏

[東京 2日] - 中国が主導して設立するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバーになる申請期日が3月31日に到来した。結局、日本は申請をしなかった。台湾、韓国など約50カ国・地域が申請、または意向を示した。

この構想への参加が、まるで環太平洋連携協定(TPP)参加と同じような感覚で「船に乗り遅れる」と議論されることに違和感を覚える。TPPは貿易連携に関する共通のルールづくりをしようとしているので、船に乗り遅れるのは大きなマイナスだ。TPP加盟国の中での輸出入の拡大にはメリットが大きい。

一方、AIIBへの参加は、まず、透明性の高いルールづくりの中に参画できるかどうかが不透明だ。日本が参加した場合には、他の参加表明国に比べると、そのプレゼンスの大きさから考えて、出資金額は膨らむだろう。当然、欧州諸国などよりも利害関係は大きくなる。だからこそ、透明性が担保されていないと、日本が享受できるメリットは甚だしく読みにくく、費用対効果が低くなる可能性もある。

アジアの投資案件に対する融資に関しても、創設メンバーとして活動した方がメリットが大きいのか、今後、アジア開発銀行(ADB)の融資との協調を模索することができるのか、という点を検討することが重要だ。

筆者は、今後のAIIBにおける運営が不透明な中で、拙速な判断をしなかったことは妥当だと考える。実際にAIIBのスキームが固まってきてから、ADBなどを通じた協調を推進しても遅くない。

<欧州と新興国がAIIBに関心を持つ理由>

今回、AIIBへの参加が話題になったことで振り返ってみたいのは、従来の国際金融の枠組みが良かったかどうかである。日本や日本企業が果たして多くのメリットを享受できてきたかという点の再検証である。

かつて1997年のアジア通貨危機後に、宮沢蔵相(当時)がアジア通貨基金構想を提示したが、米国、中国、そして国際通貨基金(IMF)が反対して、その構想が頓挫した経験を思い出す。このときは、既存の通貨体制、すなわちブレトンウッズ体制に挑戦するような芽は、やはり摘まれてしまうのかと残念に感じた。

あれから時代は移り変わって、2008年には20カ国・地域(G20)金融サミットが開催されるようになり、リーマンショック後の体制を議論する場が設けられた。欧州からは、以前よりブレトンウッズ体制に替わる仕組みづくりを推進する意見が出されていたので、AIIBに欧州諸国が参画する動きをみせたことも、後から考えるとうなずける。

本質的なことは、日本にとって、米国が中心のドル体制が本当に使い勝手の良いものであるかどうかという点である。円の国際化という最近話題にならなくなったテーマを再検討することだろう。新興国にとっても、G20などを含めて米国中心のドル体制の中での発言力は以前から相対的に小さかったわけで、AIIBに惹かれる動機はあったと考えられる。

<大切なのは為替レートの安定化>

日本では、黒田日銀総裁の強烈な量的・質的金融緩和が実施されて、超円高から円安局面へと軌道修正が行われた。為替に関する議論は、もっぱら円高ではなく円安が良いのか、あるいは円安が進むと輸入物価の上昇で痛みがある、といった点に傾きやすかった。

しかし、本筋は、円の取引量が増えることで、為替の過度な変動が起こりにくくなることである。為替レートは不安定でなく、安定していることが理想だ。そのためには、海外向けに円建ての融資を増やすと同時に、非居住者による円建ての直接・証券投資も増えることが都合が良い。

一方、現状のような日銀の超低金利がずっと継続していると、先行き円キャリートレードが活発化して、一時的に大幅な円安が進み、その後、ポジションが解消されて逆転円高が起こるという懸念も根強くある。投機マネーによるかく乱は、為替レートが安定化する理想像とは正反対の状態である。

中国には、AIIBを主導してドル偏重の外貨準備の運用先を多様化したいという思惑がある。この課題は、日本と共通する。アジアのインフラ投資向けに資金を振り向けて、為替変動リスクにさらされにくい運用をしたいという気持ちもあるだろう。中国との間で、共通する利害はまだ多く存在するはずだ。

国際金融の未来図を考えるとき、日本政府は、中国などアジア諸国との間で、共通利益を追求する構想を提示していくことが課題だろう。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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