April 16, 2015 / 2:22 AM / 5 years ago

コラム:近づくギリシャの「Xデー」=田中理氏

[東京 16日] - 財政資金の枯渇や支援提供国との改革案をめぐる合意期限が刻一刻と迫るなか、ギリシャ情勢が再び緊迫の度合いを増している。

13日付けの英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は、「我々の命運は尽きた。(4月末までに)欧州諸国が救済資金を拠出しなければ、ギリシャはデフォルト(債務不履行)を宣言する以外にない」とする与党・政府関係者の発言を伝えた。

こうした発言は、月内合意に向けた交渉が大詰めを迎えるなか、支援提供国から最大限の譲歩を勝ち取ることを狙ったギリシャのお決まりの交渉戦術と見る向きもある。だが、これまでの交渉過程で、ギリシャの新政権と支援提供国との関係は、かつてないほどに冷え込んでしまっている。デフォルトの可能性をちらつかせたところで、支援提供国側の態度が一変する望みは薄い。

ギリシャの改革案はすでに二度にわたって支援提供国から突き返されており、15日に再開したユーロ圏の財務次官級会合では、再修正案の協議が続けられている模様だ。24日のユーロ圏財務相会合での合意を目指すならば、今週中にも妥協点を見出す必要がある。

だが、最低賃金の引き上げ、団体賃金交渉の導入、貧困層への年金支給増額、税捕捉強化に依存した代替財源の捻出方法などをめぐって、両者の主張は平行線をたどっている。報道によれば、ドイツのショイブレ財務相は15日、「来週中に改革合意が実現すると考える者は誰もいない」と発言した。月内合意のハードルは高い。

どうにか改革合意にたどり着いたとしても、支援提供国のギリシャへの不信感はすでに相当なものだ。もはや口約束では不十分として、ギリシャが改革関連の法案を議会で可決するまでは融資を再開しない姿勢を強めている。新政権が緊縮見直し路線を軌道修正するとなれば、与党の分裂や連立政権の崩壊など、政治リスクが噴出する恐れが高い。昨夏以来中断している総額72億ユーロの次回融資分の早期実行は難しい情勢だ。

<予想される負のシナリオ>

政府の財政資金は枯渇寸前と言われて久しいが、社会保障基金や政府関係機関からの一時的な借り入れ、一部の納入業者への支払い延期などで、これまで何とか資金をやり繰りしてきた。5月の対外債務の支払いは、国内銀行による借り換えが見込まれる総額28億ユーロの政府短期証券の償還を除けば、12日に国際通貨基金(IMF)向けに7.7億ユーロの融資返済を控えているだけだ。このまま月内に改革合意ができなくても、さらなる埋蔵金の捻出などで財政破綻を回避できる可能性も残されている。

だが、危機再燃による経済活動の停滞や税滞納の増加などを受け、年明け以降、税収の下振れが続いている。このままでは昨年ようやく黒字化した基礎的財政収支(プライマリーバランス)が再び赤字に転落する可能性がある。国債利回りの再上昇で市場調達に復帰する道も完全に閉ざされており、追加の資金支援を受けない限り、財政資金が枯渇するのは時間の問題と言える。

格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は15日、5月中旬までに融資再開で合意できなければ、ギリシャは対外債務の履行ができなくなるとし、同国の国債格付けを投資不適格の「CCCプラス」に引き下げた。ギリシャに残された時間は少ない。

このまま支援融資が再開されないまま、埋蔵金を含めた財政資金が枯渇した場合、ギリシャ政府は月々の税収など限られた財政資金の使い道を取捨選択する必要に迫られる。この時、国内向けの支払いを優先し、対外債務の支払いを停止すれば、30日間の猶予期間を経て、ギリシャは2012年の債務交換時以来のデフォルトに陥ることになる。支援提供国の通例として、返済が滞っている間は財政支援を再開することはない。次回融資の再開どころか、7月以降の新たな支援プログラムの策定も暗礁に乗り上げる。

また、デフォルトと認定された場合、欧州中央銀行(ECB)がギリシャの銀行に供給している緊急流動性支援(ELA)を打ち切ることが予想される。ELAは返済能力のある銀行への一時的な流動性供給策であり、デフォルトした国債を大量に保有するギリシャの銀行はもはや健全な銀行と見なすことができなくなるためだ。ECBの資金供給に資金繰りを完全に依存するギリシャの銀行破綻は避けられない。

ギリシャの銀行監督の一端を担うECBとしては、ELAを打ち切るのと同時に、銀行の預金封鎖、海外送金の停止などの資本規制の導入、銀行の資本増強などを行う必要がある。ここで問題となるのは、日々の財政資金に窮するギリシャ政府がどのように銀行の資本増強資金を捻出するかだ。

実はギリシャの支援プログラムには、銀行支援を目的とした総額109億ユーロの予備資金が残っている。だが、ギリシャ政府が銀行救済の予備資金を財政資金に充当することを警戒した支援提供国は、2月末に支援プログラムを延長するに当たって、この予備費をギリシャ政府の管理下から資金の拠出元である欧州金融安定ファシリティー(EFSF)に移管している。

当該資金は銀行の資本増強や破綻処理など銀行救済のみに利用可能で、大手行の監督権限を持つECBからの要請に基づき、ユーロ圏の財務相による全会一致の同意と、ドイツなど一部のユーロ圏諸国の議会承認が必要となる。つまり、改革合意を履行しない限り、ギリシャが銀行救済費用を受け取ることはできない。

<米加州と同じ危機回避策が浮上>

このようにギリシャは、財政支援の打ち切りや銀行破綻とそれに伴う経済混乱という代償を覚悟しない限り、デフォルトすることも許されない。こうして考えると、財政資金の枯渇後もギリシャ政府は対外債務の支払いを続ける必要がある。

その際、公務員の給与や年金など国内向けの支払いを完全に停止する事態となれば、ギリシャ国民の新政権に対する信頼は失墜する可能性が高い。新政権にとっては、緊縮受け入れへの方針転換以上に困難な選択となろう。

そこで考えられる手段として、国内向けの財政上の支払いに充てるため、政府が借用証書(IOU)を発行する案が一部で浮上している。財政危機に見舞われた米カリフォルニア州政府は2009年、予算成立までの暫定措置として、総額26億ドルの期間3カ月のIOUを発行し、税還付や納入業者への支払いに充てたことがある。予算が成立した後、満期より1カ月前に年率3.75%の利息とともに全額返済された。

ただ、カリフォルニア州のIOUの場合、予算成立までの暫定措置としての性格が強かったのに対し、ギリシャがIOUを発行する場合、将来の財政上の裏づけが必ずしも明確でない。満期時までに支援融資が受け取れなければ、IOUの発行が常態化し、事実上の独自通貨としてギリシャ国内で流通し始める可能性もある。

となれば、単一通貨圏に2つの通貨が並存することとなり、ユーロ離脱への第一歩となりかねない。どのシナリオを想定しても、混乱なしにギリシャ問題が終息する可能性は低い。

*田中理氏は第一生命経済研究所の主席エコノミスト。1997年慶應義塾大学卒。日本総合研究所、モルガン・スタンレー証券(現在はモルガン・スタンレーMUFG証券)などで日米欧のマクロ経済調査業務に従事。2009年11月より現職。欧米経済担当。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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