April 22, 2015 / 9:28 AM / 4 years ago

コラム:ドル円上昇を阻むハードルの正体=内田稔氏

[東京 22日] - 日米金融政策の方向性の違いをテーマに、ドル円の上昇期待が根強い。また、日本の投資家による対外証券投資も、こうした期待を高める一因だ。

実際、財務省の「対外及び対内証券売買契約等の状況」によれば、日本の投資家は年初来、株式・投資ファンド持分と中長期債を合わせ、ネットで9.4兆円も買い越している。加えて、M&Aといった対外直接投資も1―2月にネットで2.6兆円(国際収支ベース)の実行超と過去最高を記録。合計で年初から10兆円を大幅に上回る対外投資が行われた計算だ。

しかし、為替市場で円安が進んだかと言えばそうではない。ドル円こそドル高に支えられ、年初来の横ばい圏を維持したが、他の主要通貨に対してはスイス円を除き円は全面高となっている。

広い通貨に対してドル高が進んだ上、これだけの対外投資があったにもかかわらず、ドル円の上昇が阻まれた背景としては、以下のような日本側からの要因が挙げられる。

<円売りを伴わない対外証券投資が増加>

まず、経常収支が顕著に改善している。3月分の貿易統計が2012年6月以来の黒字を記録したように、貿易赤字の縮小により、今年の経常収支は大幅な黒字増となる可能性が高い。また、対外証券投資は、中長期債の多くが為替ヘッジ付きとなっており、実際には円売りを伴っていない可能性が高い。

さらに、多くの中央銀行が金融緩和度合いを強めた結果、相対的にみた円金利の魅力も高まった。この第1四半期、中長期債と短期債を合わせると、5兆円を超える非居住者の国内証券の取得がみられている。ドル金利の上昇が限定的となり、円安が進まない時間帯が長引くほど、今後とも円売りを伴う為替ヘッジなしの対外証券投資は盛り上がりを欠くだろう。

特に公的年金の外国債券のベンチマーク収益率は、今年に入ってマイナスに陥った公算が大きい。今後、外国証券投資を進めるにせよ、相応の為替ヘッジを行うとみられ、円安のけん引役とはならないだろう。

<125円に到達しても定着は困難>

このように円安が行き詰まる中、浜田宏一内閣官房参与がテレビ番組やインタビューなどで、購買力平価からするとドル円は「105円くらいが妥当」であり、「120円はかなり円安」と発言。「125円、130円となると購買力平価からの差がはっきりしてくる」ため、「投機筋に仕掛けられる可能性がある」と一段の円安に対する警戒感をにじませた。

経済協力開発機構(OECD)算出の相対的購買力平価は、昨年12月時点で104.13円を指す。120円近辺の足元のドル円は、すでに約15%もドル高円安方向に乖(かい)離している計算だ。

もちろん、為替相場は購買力平価から常にかい離するものであり、1980年代半ばにかけて、2割程度もドル高円安方向にかい離が生じたこともある。足元の購買力平価104.13円で考えると、125円程度までドル円が上昇した計算だ。しかし、1980年台前半から半ばと言えば、当時のポール・ボルカー米連邦準備理事会(FRB)議長がインフレ対策として金融引き締めを行った影響から、米国では金利が急上昇し、それが大幅な資本流入とドル高を招いた時期だ。そのドル高が一因となり、米国の貿易収支は大幅に悪化。結果的に1985年のプラザ合意によるドル押し下げの協調介入へと至っている。

つまり、購買力平価からみた、かい離幅に照らせば、ドル円が125円程度へ到達することはあっても、定着はしなかったことになる。ましてや、それを超える一段のドル高円安ともなると、日米にとって未体験の領域を意味し、持続性は疑わしい。

こうした中、日本側からみた円安材料として、日銀追加緩和への関心は高い。黒田東彦総裁は、これまで物価上昇の基調は崩れていないと強気の姿勢をみせており、追加緩和はあっても10月以降となるだろう(サプライズを演出してきた日銀だけに、早ければ4月30日の決定を見込む向きもあり、予断は許さないが)。

追加緩和による円安への波及効果は徐々に弱まると考えられる。追加緩和を講じること自体、これまでの異次元緩和の限界を自ら示すことになる。また、4月の追加緩和となれば、政策の逐次投入と取られ、異次元ぶりは衰えかねない。さらに、今年に入って多くの通貨に対して円高が進んだことは、マネタリーベースの拡大が機械的に円安をもたらすわけではないことを物語っている。

加えて、忘れてはならないのが、昨年10月末の追加緩和だけで、ドル円が10円以上も上昇したわけではない点だ。当時、追加緩和後に決まった消費再増税の延期と衆院の解散・総選挙がまずは株式相場を押し上げ、それに連動する形で、ドル円が続伸したと言える。今後、追加緩和があったとしても、ドル円が改めて10円も跳ね上がるとは考えにくい。

<ドル高と円高が併走する可能性>

為替市場では、利上げ期待からドルが堅調に推移しており、ドル円はそう簡単には崩れそうにない。ただ、そのドル高を支える利上げ観測は、米国経済が必ずしも盤石とは言えない足元においては、米国株式相場の不安定化を招きかねない。

加えて、米国にとっては正常化であっても、ドル金利の上昇は、世界経済に対して引き締めの効果を招く恐れがあり、特に新興国では市場が不安定化する可能性も低くない。そうなれば、リスク回避の円買いと称し、ドル高と円高とが併走。ドル円という通貨ペアだけは、上昇を阻まれる年初来の相場の繰り返しとなるだろう。

ここまでのドル高は、外需の悪化や物価上昇圧力の鈍化、企業業績の下押しなど、複数の経路を通じて、米国経済への重石になりつつあると考えられる。つまり、利上げを意識したドル高により、かえって利上げをしにくくなるという循環が働いているということだ。米国の利上げ期待に市場のリスクオンがタイミングよくかみ合えば、ドル円は最高で125円程度まで上昇する場面もみられようが、続伸や定着は容易ではないだろう。

120円程度で始まった2015年のドル円相場が、今年も上昇して終われば、変動相場制突入以来初となる4年連続の上昇となる。しかし、今年の円は、それを容易に許すほど弱くはない。むしろ、ドル円の支えとなっている米国経済への期待や利上げシナリオに狂いが生じた場合の反落にも、相応の警戒が必要とみている。

*内田稔氏は、三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。1993年、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、国内外で一貫して外国為替業務に携わる。J-money誌の東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では2013年、14年と個人ランキング1位。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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