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オピニオン:原油相場に波乱再び、6月下落か=柴田明夫氏
2015年5月27日 / 05:29 / 2年後

オピニオン:原油相場に波乱再び、6月下落か=柴田明夫氏

[東京 27日] - 米シェールオイルの生産減速などを受けて、原油相場は底を打ったとの見方が増えている。新たな均衡点は1バレル70ドル近辺になる見通しだが、落ち着くまでには下値方向にまだ波乱が起きそうだと、資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表は指摘する。

 5月27日、資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表は、原油価格は今後70ドルを目指す可能性が高いが、そこに至るまでには特に下値方向で、まだ波乱がありそうだと指摘。提供写真(2015年 ロイター)

同氏の見解は以下の通り。

<6月のOPECとイラン核協議期限に要注意>

今年3月に1バレル40ドル台前半まで下がった原油価格(WTI)がその後、じりじりと上昇し、下値を切り上げている。方向としては70ドルを目指す可能性が高いが、そこに至るまでには特に下値方向で、ひと波乱もふた波乱もありそうな気配だ。

目先で注目されるのは、6月5日にオーストリアのウィーンで開催される石油輸出国機構(OPEC)通常総会と、同月末に最終的な包括合意の期限を迎えるイラン核問題協議の行方だ。

OPECについては、前回の通常総会(昨年11月27日)では、折からの原油安を受けてイランやベネズエラなどが減産を提案したものの、最大の産油国であるサウジアラビアの意向が貫かれて、日量3000万バレルというOPEC生産枠は維持された。総会前に高まっていた市場の減産予想を裏切ったことで、年末から年初にかけて原油安に拍車がかかったことは記憶に新しい。

では、今回はどうか。報道によれば、イランのジャバディ副石油相が18日、6月総会での減産決定の可能性を聞かれて、「そうは思わない」と回答したほか、サウジからも生産枠維持に向けた固い意思が伝わってきている。減産決定は今回もないだろう。

昨年12月にサウジのヌアイミ石油相が「1バレル20ドルまで落ちてもOPECは減産しない」と公言したことからも明らかなように、同国は今後2―3年については相当な原油安になっても良いと腹をくくっている感がある。実際、3月と4月のサウジの原油生産量は日量約1000万バレルと、統計で比較可能な1980年代以降で過去最高に近い水準にあり、かなり意図的に増やしている様子がうかがえる。

こうしたサウジの動きの背景には、核開発問題を抱えるイラン、非OPEC最大の産油国であるロシアに対するけん制など複数の理由があろうが、OPEC全体で共有されている減産回避の最大の理由は、やはり「シェールつぶし」ではないだろうか。

米国では、技術革新により、地下深くのシェール層に含まれている非在来型石油の増産が進んでおり、米エネルギー情報局(EIA)によれば、このシェールオイルを含む原油の生産は2010年の日量550万バレル水準から2014年には同860万バレル水準まで急増している。2013年5月には、国際エネルギー機関(IEA)が「拡大する米国のシェールオイル生産によって今後5年の世界での石油需要増加分は、世界景気が加速しても、ほとんど賄うことができる」との予想まで発表している。

恐らくサウジは、原油安の継続でコスト割れ生産に追い込まれた米国のシェールオイル事業者がもっと早く音を上げると期待していただろう。確かに、米国のシェールオイル生産は減速し始めているが、EIAによれば、主要鉱区の5月の生産量見通し(5月11日時点)は日量約564万バレルと依然高水準だ。

北米のリグ(掘削装置)稼働数は昨年ピーク時の6割まで減っているので、今後は減産傾向がさらに強まると予想されるが、ここでOPECが減産に動けば、原油相場が上値を一気に切り上げていく可能性があり、北米リグの多くがまた採算に乗ってしまう。当面は、チキンレースの消耗戦を仕掛け続けるのではないだろうか。

もうひとつの波乱要因は、イランの原油輸出だ。周知の通り、イランと欧米など6カ国は4月、イラン核問題の包括的解決に向けた枠組みで合意に達した。ただ、イラン側も6カ国側も詳細に関しては引き続き交渉が必要としており、最終合意が得られるまでは対イラン制裁は解除されない。その交渉期限が6月末に迫っている。

仮に交渉がうまく行き最終合意となれば、制裁は解除され、3000万バレルともいわれるイランの備蓄原油が輸出に向かうことになる。しかも、イランは日量70万バレルの増産余力を有している。現在の生産量は280万バレル。つまり、350万バレルというイラク並みの産油国が市場に復帰することになる。

このように考えると、地政学リスクの突発的な高まりによる上値方向の波乱に引き続き注意が必要だとしても、当面はむしろ下値方向に大きな波乱が起きる可能性が高いのではないだろうか。

<将来的には100ドル回帰も>

ただし、現在の50―60ドルという低い原油価格が、需給面で見て、長期的に持続可能だとは思えない。

2030年代に向けて、世界の石油需要は曲がりなりにも増えていく。主役は、圧倒的に輸送用の燃料(ガソリン、軽油、ジェット燃料など)だ。電気自動車や燃料電池車、天然ガス自動車といった次世代車の普及が進むとしても、10億台を超える既存のガソリン車がすべて移行してしまうわけではない。新興国を巻き込みモータリゼーションが継続する中で、輸送用燃料の需要はこれからも伸びていくことが期待できる。

一方で、1バレルあたり4―5ドル程度と生産コストが極めて安い中東産などの在来型石油は、全体の埋蔵量から言えば、半分ぐらいはすでに掘ってしまっている。「チープオイル」「イージーオイル」の供給は限界に来ている。

こうした状況下、拡大する需要に対して供給を増やそうとすれば当然、シェールオイルなどの非在来型石油の増産が必要になってくる。つまり、こうした新しいエネルギー源の限界生産コストが、長期的には問われていくことになる。

振り返れば、原油相場は2011年から昨年秋口まで4年近くにわたって、おおむね90ドル台から110ドル台の間で推移してきた。むろん、成長の勢いを欠く世界経済の現状に鑑みれば、地政学リスクが深刻化しないかぎりは、100ドル到達は当面難しいだろう。

ただ、40ドル台や50ドル台は、シェールオイルなど非在来型石油の生産コストに照らすと、安すぎる。上値を決める基準の1つは、世界経済の成長を妨げる原油価格の「グラスシーリング(ガラスの天井)」はどこかということだが、その天井が経済の復調によって持ち上げられていけば、おのずと原油価格も100ドル水準に再び向かっていくのではないだろうか。

*本稿は、柴田明夫氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて構成されています。

*柴田明夫氏は、資源・食糧問題研究所代表。1976年東京大学農学部農業経済学科卒業後、丸紅入社。鉄鋼第一本部、調査部などを経て、2006年に丸紅経済研究所所長、2010年に同代表。2011年に資源・食糧問題研究所を開設し、代表に就任。「資源インフレ」「食糧争奪」「シェール革命の夢と現実」など著書多数。

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