June 3, 2015 / 2:58 AM / 3 years ago

コラム:実質GNIが示す日本経済の高成長=竹中正治氏

[東京 3日] - 毎度メディアの報道は国内総生産(GDP)に集中するが、同時に内閣府から公表されている国内総所得(GDI)、国民総所得(GNI)も合わせて見ると、現下の日本経済の順風と回復基調をより鮮明に理解することができる。

結論から言うと、2014年4月の消費税率引き上げ後の短期的な景気低迷から抜け出した日本経済にはGDPの変化で見る以上の順風が吹いており、目下の国内要因には特段の悪材料は見当たらない。海外経済の急変がない限り、景気の回復は中期的に持続するだろう。

行き過ぎた円安の悪影響を懸念する声もある。確かに120円台のドル円相場はインフレ調整後の実質で見ると、1980年代前半のレンジとほぼ同じ程度の円安方向へのオーバーシュートであり、長期的には揺り戻しが必至だろう。しかし後述するように、それが日本の交易条件を目立って悪化させているわけではない。

<実質GNIは2四半期連続の高成長>

まず以下の点を理解していただきたい。実質GDPは1年間に国内で生産される付加価値の実質総額だ。これに対して、実質GDIはGDPから交易条件の変化で生じる交易利得(あるいは損失)を加減したものであり、実質GNIはそのGDIに対外的な所得(主に配当と利息)の受取と支払の差額である国際収支上の所得収支を加えたものである(昔はこれがGNPと呼ばれていた)。

交易条件は「輸出物価指数/輸入物価指数」で示される。輸出物価の輸入物価に対する相対的な上昇は交易利得をもたらし、逆の場合は交易損失を生じる。

大括りに言うと、2000年代以降の国際経済環境は、原油をはじめとするエネルギー・天然資源価格の騰勢、製造業製品の価格低下のトレンドをたどった。エネルギー・天然資源は中国を中心にした途上国経済の「資源爆食」という需要に支えられ高騰する一方、各種工業製品は途上国や中進国のキャッチアップによる世界的な供給力の増加で価格下落圧力にさらされてきた。これが日本の交易条件の長期にわたる低下傾向をもたらした。

事実、日本の交易利得は2005年を基準点にして計算すると、2000年代を通じてじわじわと悪化のトレンドをたどった。2008年のリーマンショック後の世界不況による国際資源エネルギー価格の急落で2009年には一時的に改善したが、すぐにまた悪化傾向に転じ、2011年以降では年間20兆円前後の交易損失を記録してきた。

その交易損失の拡大が昨年暮れからの原油価格の急落で目立って減少に転じた。中国の経済成長の急速な鈍化と歩調を合わせて他の天然資源価格も下落傾向が顕著になった。代表的な国際商品指数であるトムソン・ロイター/コアコモディティーCRB指数も昨年6月の水準から足もとまで30%近く下落している。この傾向がどの程度の期間持続するかわからないが、国際商品市場アナリストの多くは、価格の騰勢傾向がすぐに復活するとは予想していないようだ。

また、日本の貿易収支は2011年以降赤字に転じたが、経常収支では黒字なので、依然として日本の対外純資産は増加を続け、367兆円(2014年末時点)と世界最大である。その結果、利息や配当の受払いの差額である所得収支の黒字は、円安効果も加わり、年間ベースで20兆円前後の黒字を維持している。

このように実質GDPに含まれない交易利得・損失の変化や所得収支を加えた実質GNIの伸び率を見ると、実質GDPだけを見ていたのではわからない順風が日本経済に吹いていることがわかる。図が示す通り、2014年10―12月期の実質GNIは前期比年率でプラス6.1%(実質GDPはプラス1.1%)、2015年1―3月期は同プラス3.7%(実質GDPはプラス2.4%)と2期連続の高成長だ。

実質GNIをGDP以上に押し上げた要因は、2014年10―12月は期末要因と一段の円安が重なって所得収支が5.6兆円増えたこと、2015年1―3月期については所得収支黒字が前期比4.2兆円減少したものの、交易損失が5.9兆円と大幅に減少したことだ(いずれも実額は年換算ベース)。

<「円安=交易条件悪化」の誤解>

また、アベノミクス下での円安が交易条件を大きく悪化させてきたと思い込んでいる方も多いが、そうではないことを指摘しておこう。もしそれが正しいならば、「円安(円高)=交易条件の低下(上昇)」という相関関係が計測できるはずだ。

ところが、2005年から2015年の期間について、交易条件の変化とドル円相場の変化(いずれも前年同月比)の相関関係を計測すると、相関係数はほぼゼロとなる(両者の関係性がないことを意味する)。主要国通貨と円相場の加重平均で計算された実効円相場で同様の計測をしても相関係数は0.22と極めて低い。意外に思われるかもしれないが、2000年代以前はもう少し高い相関関係があったものの、現在では両者の関係はとても希薄だ。

その一方、交易条件と国際的な資源エネルギー価格指数との相関性は高い。なぜか。輸出も輸入も全て外貨建てと想定して説明しよう。円安は外貨建て輸出輸入双方の円貨額を増やすので、円換算で計算される交易条件(輸出物価/輸入物価)は変わらない。円安で交易条件が低下するのは、輸出企業が外貨建て価格を引き下げる場合だ。1990年代までの日本の輸出企業は量的拡大志向が強かったので、その結果、円安になると外貨建て価格の引き下げ、交易条件低下を伴った輸出数量の増加が起こった。

ところが、2000年代以降、日本の輸出企業の行動は量的な拡張から採算重視にシフトしたようであり、円安が外貨建て価格の引き下げをもたらす度合いはかなり低下したようだ。一方、輸入サイドの資源エネルギー価格については、国際市場にてドル建てで価格が形成されており、円安になってもドル建て価格が円安を理由に引き下げられることは起こらない。こういう事情で「円安=交易条件の低下」という関係性は極めて弱くなったのだ。

もっとも、今回の円安局面で外貨建て価格の引き下げが全くないわけではない。ただ、国際市場でのドル建てのエネルギー資源価格の変動の方が、日本の交易条件の変化にはるかに大きな影響力を持っているということだ。

<実質賃金の上昇が始まる>

2015年の日本経済のもうひとつの順風は、実質賃金の上昇が始まることだ。昨年までは名目賃金の伸びが消費税率引き上げ後の消費者物価上昇率に及ばず、実質賃金は低下したとアベノミクス批判の材料として強調された。

しかし、今年は原油をはじめ資源・エネルギー価格の下落と消費税率引き上げ効果の剥落で、4月の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は前年同月比0.3%に低下した。今後しばらく0%近傍の水準となるだろう。一方、名目賃金はベースアップ、ボーナスともに上昇する見込みなので、実質賃金は目立って上昇に転じるはずだ。実際、6月2日に公表された現金給与総額(4月速報値)は前年比0.9%なので、上記の消費者物価指数を差し引くと実質給与の伸びは0.6%となる。

もっとも、消費者は実質賃金の変化に「対前年同月比」で反応するわけではない。もっと短期の時間感覚で反応するものだろう。この点で内閣府の消費者態度指数の変化を見ると、同指数全体も、また各構成項目もほとんど昨年4月を底に反転し、穏やかに上昇している。

直近時点の今年4月には「暮らし向き」の項目が38.4と4.4ポイント上昇(前年4月比、以下同様)、「収入の増え方」の項目は39.3と2.3ポイント上昇、各項目を総合した消費者態度指数は41.5で4.5ポイント上昇している。単月での振れはあるものの、今後消費も改善基調をたどるだろう。

<在庫調整はほぼ終了>

最後に2015年1―3月のGDP(5月20日公表速報値)について一点指摘しておこう。データ公表直後のメディアでは、成長率としては予想平均(プラス1.5%前後)を上回る数字だったが、在庫の増加が大きく(寄与度でプラス2.0%)、内容的に良くないというエコノミストらのコメントが目立っていた。しかし、在庫数変化を実数の推移で見ると、そのような判断は理解に苦しむ。

在庫の増加はGDPにプラスに寄与するが、それが意図せざる在庫の積み上がりならば、確かに景気の悪化を示唆する。2014年1―3月は消費税率引き上げ前の売り上げの伸びで在庫は5.1兆円減少、しかし4―6月には1兆円の増加となり、これは売上減少、景気悪化による在庫増だった。その後、在庫の圧縮が起こり、2.1兆円減少、3.2兆円減少と続き、2015年1―3月に減少幅は0.97兆円に減った。

GDPに与える変化としては「在庫減少額の減少=在庫の増加」であり、GDPにプラスに寄与している。しかし、それは2014年4月以降に生じた意図せざる在庫増とは反対で、在庫の圧縮が進み、在庫減少額が小さくなった結果として生じている。

つまり、この在庫変化のデータが正しい限り、景気判断的にはむしろ良い変化を示唆していると考えるのが妥当だろう(もっともGDP1次速報値の在庫が改訂値でどう変更されるか、不確実な面は残っている)。

原発停止要因も加わり2011年以降赤字に転じた貿易収支も赤字幅は2014年がピークで、それ以降は輸入の鈍化、輸出の伸びの回復で赤字幅は縮小、今年3月は6714億円の黒字に転換した。まだ単月の動きなので黒字転換が定着したと言うのは早計だが、赤字幅縮小のトレンドは疑いがないところだろう。

不確実性が高いのは設備投資の動向だろう。今年3月の日銀短観では企業の設備投資意欲の不冴えが目立った。直近の調査報道では、大手製造業企業の2015年度の国内設備投資計画が前年比17.9%増と見込まれている(日経設備投資動向調査、4月末時点、日本経済新聞2015年5月31日掲載)。ただし、この調査は実際の設備投資(固定資本形成)との乖(かい)離が著しい傾向があり、近年では調査の上振れ(実績の下振れ)が目につく。

以上総括すると、多少の不確実性をはらみながらも、日本経済は2015年に順風局面に入り、実質GDP成長率は通年で1.5%前後でも実質GNIでは3%前後の高成長が期待できる。

*竹中正治氏は龍谷大学経済学部教授。1979年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、為替資金部次長、調査部次長、ワシントンDC駐在員事務所長、国際通貨研究所チーフエコノミストを経て、2009年4月より現職、経済学博士(京都大学)。最新著作「稼ぐ経済学 黄金の波に乗る知の技法」(光文社、2013年5月)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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