September 25, 2014 / 5:44 AM / 4 years ago

コラム:米国株、利上げ転換局面は絶好の買い場か=竹中正治氏

[東京 25日] - 高値更新を続ける米国株だが、量的金融緩和後に米連邦準備理事会(FRB)が金利引き上げに転じるタイミング、その後の金利上昇テンポをめぐる思惑で相場は揺れ動いてきた。「これまでの株価上昇は長きにわたった超金融緩和によるバブルだ。超金融緩和の終了に伴い暴落必至」と語る株価ベア(弱気)な論者も少なくない。

そこで今回は金利と株価の関係について考えてみよう。結論から言うと、景気回復過程の金融緩和から利上げへの転換で株価が反落するのはよくあることだ。ただし、下落は一時的で中長期的にはむしろ買いの好機である。悲観論者の見通しは大幅に割り引いて聞いたほうが良いだろう。

<株価と金利の長期的な関係>

まず金利と株価の長期的な関係を確認しておこう。掲載図は1980年以降の10年物国債利回りとS&P500ベースの1株当たりの純利益率を散布図にしたものだ(いずれも年平均値)。1株当たり純利益率とは一般に「益回り」と呼ばれ、1株当たり純利益(EPS)を株価で割ったものである。したがって益回りは株価収益率(PER) の分母と分子が逆になったものであり、逆数の関係にある。

言い換えると益回りは市場株価をベースにした資本利益率(ただしキャピタルゲイン分は含まれない)であり、すう勢的な金利水準が変わればそれに応じて益回りも変化するのは当然だ。実際、図が示す通り、1980年以降、10年物国債の利回りと益回りの間には高い相関関係が見られ、10年物国債利回りのすう勢的な低下に合わせて益回りも低下してきた。

この益回りと10年物国債利回りの関係をそのまま当てはめると、10年物国債利回り1%ポイントの上昇は益回りを0.54%ポイント上昇させる。その場合、1株当たり純利益に変化がなければ、株価が下落する形で益回りが上昇するしかない。現在のS&P500ベースのPERが約20倍弱であることを前提に計算すると、益回り0.54%ポイントの上昇はPERが20から18.05に下がることを意味する。すなわち株価は9.7%下落する。

現在値から10%近い株価の下落は平時ではかなり大きい反落だ。ただし景気回復が続いている以上、1株当たり利益の見通しも増加基調となる。したがって、実際の株価の変化は1株当たり純利益の増加予想と金利上昇予想の綱引きで決まる。

<利上げ転換局面で5―10%の反落は自然>

次にもう少し短期の時間軸で株価と金利の関係を見てみよう。1カ月程度の単位でS&P500(以下「株価指数」)と10年物国債利回り(以下「長期金利」)の前月比変化の関係を見ると、相関関係は全く見られない。つまり長期金利と株価指数が逆に動くケースも、同じ方向に動くケースも、また全く関係性がないケースもあり、安定的なパターンは見られない。短期的な株価指数の変動要因が長期金利だけではないことを考えれば、これは当然のことだ。

しかし、景気の回復過程でそれまでの金融緩和から引き締めに転じた局面に限定すると、利上げへの転換で株価が反落するパターンが見られる。最新のケースは2013年5月の「バーナンキショック」だ。当時のバーナンキFRB議長が、量的緩和終了が視野に入ってきたことを示唆しただけで、それを契機に長期金利は5月初めの1.6%台から9月初めの3.0%手前まで1.4%ポイント跳ね上がった。その過程で株価指数は5月の高値から6月の安値まで7.5%下落した。

また、リーマンショック前の景気循環として、2004年にFRBがITバブル崩壊後の金融緩和を終了して初めて利上げに転じた場合を見てみよう。この時、実際にフェデラルファンド(FF)金利を0.25%引き上げたのは6月末だが、その前からFRBの利上げの示唆を受けて長期金利は3月から5月にかけて1.3%ポンイト上昇した。株価指数は4月の高値から8月の安値まで7.8%下落した。

さらにその前の景気循環では1994年だ。2月にFRBはそれまでの実質ゼロ金利政策(3%インフレの下でのFF金利3%)を終了し、0.25%利上げした。この局面の利上げは翌95年2月の6.0%まで続くのだが、長期金利は94年1月から7月まで1.9%ポイント足早に上昇した(その後も緩やかな上昇が続いた)。株価指数は1月の高値から4月の安値まで9.7%下落した。

実はこの時に深刻だったのは株価の反落以上に金利の上昇である。FRBの金利引き上げへの転換が急速だったため、多くの金融機関や機関投資家が、金利の上昇に備えたポジション転換ができず多額の損失を抱えた。これが教訓になったのだろう。当時のグリースパンFRB議長はその後「市場との対話」をより入念に行うようになった。

そして、超ど級の下げは1987年10月のブラックマンデーだ。この時は景気回復過程での最初の利上げではないが、インフレ率の上昇などを背景に9月に0.5%の利上げが行われ、長期金利は6月から10月にかけて2.0%ポイント跳ね上がった。株価は8月の高値から12月の安値まで34.5%も暴落した。とりわけ10月19日の月曜日から28日までの下落幅は20%と凄まじく、「ブラックマンデー」と呼ばれていることはご承知の通りだ。

ブラックマンデーについては様々な調査・研究がなされてきたが、経済のファンダメンタルズ面で株価暴落が必然化するほどの要因は特定できていない。当時は米国の膨張した経常収支赤字と財政赤字、1985年のプラザ合意後の止まらないドル相場の下落など一種の「ドル不安」の雰囲気が背景にあった。そこに金融政策の変化などを契機に、機関投資家の株式ポートフォリオのヘッジ手法として当時広がり始めていた「ポートフォリオ・インシュアランス・プログラム」などが一斉に米株売りに動き、さらに債券売り、ドル売りのトリプル安を招いたという叙述的な解説がなされてきた。

そういう意味ではブラックマンデーは上記3つのケースとは異なり、四半世紀に1度あるかないかの特殊なケースと考えて良いのだろう。以上の通り、過去を参考にすれば、来年からいよいよ始まる米国の利上げへの転換局面でも直近高値から5―10%程度の反落局面が起こっても、むしろそれは自然なことだと言えるだろう。

<高リターンで報われた暴落時の株買い>

9月17日の米連邦公開市場委員会(FOMC)声明とイエレンFRB議長の記者会見で、量的緩和第三弾(QE3)は来月10月に終了することがほぼ確実になった。問題は最初の利上げの時期とその後の金利引き上げのテンポだが、利上げの時期は来年中頃かその前後であまり大きな変更は見込まれていない。

利上げのテンポについてはFF金利先物(9月19日引値)を見る限り、2015年12月時点で0.78%の水準を織り込んでいる。ところが、17日に発表されたFOMCメンバー17人の15年末時点のFF金利の予想は、0.125%(引き上げなしは2人)から最高2.875%まで実にばらついている。最も予想分布の多いレンジでも、0.875%から1.875%の1%幅に13人の予想が分布している。16年末時点の金利予想の分布幅はさらに広い。

この点についてイエレン議長は、時間の経過に伴って予想の分布も次第に収れんすると会見でコメントしているが、要するに利上げのテンポについてコンセンサスはないのだ。

FF金利の引き上げ経路が高めコースとなるか、低めコースとなるかで、来年以降の長期金利の水準もかなり違ったものになる。とりわけ高めコースをたどる場合は、それは現在の相場には織り込まれておらず、長期債利回りのジャンプアップと株価のやや大きめの反落の可能性がある。

ただし重要なことは、景気回復過程での金融政策の引き締めへの転換によって生じる株価の反落局面は、過去の例を振り返る限り買いの好機だ。株価は金利見通しが金利上昇方向にシフトすることによって一時的に反落するが、企業業績の回復は継続する。その結果、1株当たり純利益の増加が株価を引き上げる効果が最終的に勝る。そして、株価は短期で底打ちし高値を更新する。

実際、上記の1990年代以降の3ケースではいずれも株価の下落は短期で終わり、その後高値を更新している。大暴落となった87年10月のブラックマンデーの時でさえ、景気後退にはならなかった結果、89年7月には株価指数はブラックマンデー前の高値を更新している。わずか2年弱辛抱すれば、暴落時の株買いは高いリターンで報われたのだ。これが90年代以降、長いデフレ環境に陥った日本株とマイルドインフレが持続している米国株の最大の違いだろう。

<米国の景気回復は持続する>

もちろん、こうしたことが言えるのは米国の景気回復が持続することを前提にしている。「景気回復が頓挫、景気後退に戻る可能性はないのか」と思う人もいるだろう。将来予想に絶対はないし、景気は循環するものだ。現在の景気回復局面もいずれ終了する時が来る。

しかし、5月28日付の本コラム「量的緩和、最後で最大のリスクは中銀の巨額損失」で述べた通り、ベビーブーマー世代の引退が始まったという人口動態上の要因で、すう勢的な経済成長率が過去の3%強よりも0.6%ポイント程度減速していることを除けば、米国経済に目先、景気後退に陥る内生的な要因はない。リーマンショック後の景気後退を経て家計や金融機関のバランスシート調整はとっくに終了している。

「米国で進行している所得格差の拡大が経済成長率を低下させている」という憶測もよく語られている。高所得者は消費性向が低い(=貯蓄率が高い)ので、高所得者層の所得シェアが増えると消費需要全体の伸びが低下するからだと言う。米国の所得格差の拡大が社会的・政治的に重大な問題であることは筆者も大いに賛同する点だ。しかし、それが全体の消費性向を押し下げる効果を生んでいるのなら、家計貯蓄率のすう勢的な上昇が観測されるはずである。

ところが、事実はそうなっていない。米商務省が公表している家計貯蓄率によると、1980―89年の平均値は9.3%、1990―99年は同6.7%、2000―09年は同4.3%、2010年から現在は同5.8%である。ご覧の通り現在の米国家計貯蓄率は80年代や90年代より低いのだ。ただし、2000年代よりは高い水準にある。

2000年代は2007年まで住宅バブルの資産効果で家計貯蓄率が著しく低下し、国内の貯蓄・投資バランス全体も貯蓄不足・投資超過に大きく傾いた。その結果、米国の経常収支赤字が持続不可能な水準まで膨張した。すなわち低すぎる貯蓄率が問題になった期間だった。2010年以降の平均5%台の家計貯蓄率は経常収支赤字を大幅に縮小させながら、持続的な成長を可能にする観点からおおよそ望ましい水準だと言えるだろう。

以上のような経済と株価の見通しに立った場合、長期投資としてどのようなポートフォリオ操作が望ましいだろうか。私自身はリーマンショック後に買った米国株式(S&P500連動ETF)は2013年前半のドル相場上昇を伴った上げ局面で利益を確定して手仕舞った。

現在まで維持している持高はやはりS&P500連動ETFだが、中核的持高として長年維持してきた部分だ。これは持値が低いので10%ぐらい株価指数が下がってもなんともないのだが、目立った反落局面があれば、そこは損失(評価損)をセーブしながら買い増したいというせこい思惑もある。そこでダウ平均が1万7000の大台に絡み始めた今年夏からダウ平均指数の先物売りを組み込んだETN(東証上場銘柄)を買って、現物株式の25%程度をヘッジすることにした。 

来年にかけて直近高値から5―10%程度の反落場面があれば、このヘッジ持高を手仕舞い、ヘッジ益を稼ぐつもりだ。もし幸運にもブラックマンデーのように30%も下落するような大暴落に遭遇したら、その時は手持ちのキャッシュをぶち込んで盛大になんぴんしようか。

*竹中正治氏は龍谷大学経済学部教授。1979年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、為替資金部次長、調査部次長、ワシントンDC駐在員事務所長、国際通貨研究所チーフエコノミストを経て、2009年4月より現職。経済学博士(京都大学)。最新著作「稼ぐ経済学 黄金の波に乗る知の技法」(光文社、2013年5月)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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