October 1, 2014 / 10:08 AM / 5 years ago

コラム:景気後退でも消費再増税を決断できるか=熊野英生氏

[東京 1日] - 8月の鉱工業生産統計をみる限り、日本の生産活動は停滞期に入っている。内閣府の「景気動向指数」を使うと、CI(コンポジット・インデックス)一致指数が今年1月ないし3月にピークアウトして、景気後退期に入ったと判定される可能性も十分にある。

ただし、この判定は、ずっと後になってから行われるため、12月初めの消費税増税の最終判断をするときには材料視されないだろう。エコノミストの間では、4月の消費税増税後に景気後退に陥ったにもかかわらず、安倍政権が財政再建を優先させるとすれば驚きをもって受け止められるだろう。なぜならば、これまでは消費税増税の景気条項がハードルになると考えられてきたからだ。

ここで、消費税判断の景気条項について確認しておこう。2012年6月の3党合意のときには、「経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」となっていた。

この文章と照らし合わせて、今の景気後退リスクをどう理解すべきなのだろうか。いくつかの思考実験を行って、消費税増税と景気後退リスクの関係を整理してみたい。

(問1)景気後退だと消費税を上げてはいけないのか。

消費税率を10%に引き上げるのは2015年10月である。これは1年後のことだ。その手前に、現在の生産低迷、消費不振が脱却できれば、1年後の増税を過度に不安視することはない。

2012年4―11月にみられた前回の景気後退は8カ月間のミニ調整だった。14年1月から景気後退期入りしたと仮定して、15年10月までに景気拡大期に戻る可能性は十分にある。景気後退だから、すべてを白紙撤回するのは過剰反応に思える。

(問2)消費税増税を中止したならば景気は安泰か。

2015年10月の消費税増税を先送りしたからと言って、足元の景気不振が改善されることにはならない。今回の消費税のダメージが大きいから増税はダメだという理屈であれば、いつの時点でも消費税増税は実施できないということになる。

(問3)4月の消費税率引き上げの教訓として何をすべきか。

筆者は、増税で消費が低迷した背景には賃上げを通じて家計の購買力が十分に増えなかったことがあると考える。だから、賃上げによって消費税増税への耐久力をつけることが一番望ましい。

2015年10月に向けて、15年4月以降のベースアップを上積みして、15年12月の冬のボーナスを十分に増やすことは、15年10―12月に予想される反動減への備えになると考えられる。

(問4)2015年10月の計画を最終判断したならば何をすべきか。

筆者は、2015年10月の消費税増税の日程を先送りしても、いずれ必要とされる消費税増税を実施する上で、プラスは何もなく、文字通り問題の先送りだと考える。必要なのは、成長加速である。

財政支出をある程度上積みすることを認めてでも、1年後に迫った消費税増税のタイミングでの家計所得の積み増しを進めることだ。もちろん、成長戦略のさらなる加速とその成果を追求することもやらなくてはいけない。

以上、考え方を整理すると、景気後退リスクは短期的な問題であり、財政再建はより長期的な課題という捉え方ができる。短期の景気変動に過敏になって、長期的課題を先送りすることは好ましくない。短期的な変動に対しては、短期的に効果の見込める経済対策を打てばよい。

おそらく、今回、消費税を2015年10月に引き上げないという決断をしたとしても、未来永劫、増税を封印するということにはならない。消費税を10%にするタイミングをどこに置くのが最適かという別の難題に取り組まなくてはいけない。だから、景気悪化を助長しないように消費税増税のタイミングを見直すとしても、それほど大きな計画変更はできないはずである。

<財政再建の命綱>

消費税増税のメリットは何かと問われれば、それは財政リスクの軽減である。これは目に見えないメリットであり、人によっては実感しないかもしれない。最近、筆者は、財政リスクを過度に不安視する人々に対しては、「そうは言っても消費税を上げたから緩和されたのではないか」と話すことが多い。

おそらく、消費税増税を計画通りに進めているから2020年に基礎的財政収支を黒字化する目途が立つし、日本国債の安定消化にも貢献しているのだろう。だから、消費税増税のスケジュールを15年10月から安易に動かすと、目に見えないメリットを破壊することになりかねない。財政再建の可能性をつなぎとめるロープを安易に切ってはいけない。

最後に為替市場への影響について言及しておきたい。財政リスクが封印されていると、日本の長期金利は安定化して、日米金利差拡大を通じて、ドル高円安に寄与する。リスクを管理することは安定的な企業収益の拡大による株価上昇にもつながる。

12月に消費税先送りを決断すれば、円高・株安のショックを生み出すと直感する人も少なくないだろう。財政再建を粛々と進めるからこそ、株式市場はアベノミクスの成長戦略に好感し、その成果を前向きに評価するのだろう。

仮に今の景気が、万一、2015年10月の手前で、リーマンショックの再来のような大打撃を受けたならば、安倍政権は12月の判断とは別に、消費税増税を先送りすればよい。本当に緊急事態が起きれば、消費税増税の計画を見直ししても、財政再建論者から異論は出ないと思う。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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