October 16, 2014 / 2:27 AM / 5 years ago

コラム:景気後退は本当か、日本経済悲観論の真否=岩下真理氏

[東京 16日] - 7日発表の国際通貨基金(IMF)経済見通しでは、3カ月前と比べて下方修正幅が先進国で最も大きかったのは日本だった。しかし、結論から言えば、過度に悲観する必要はないと考える。

確かに消費増税後の国内経済は事前想定より下振れたが、先行きの方向性は足元で弱い指標発表が続くドイツよりは明るい。筆者は9月30日発表の8月生産統計の弱さを踏まえて、生産が直近のピークをつけた1月もしくは3月が「景気の山」となる可能性を唱えたが、9月以降の持ち直しにより、ミニ景気後退にとどまるとみている。

生産は消費増税後の自動車需要の見誤りが大きく影響し、消費は消費増税による実質所得の減少に加えて天候要因が大きく足を引っ張った。だが、9月分の一部数字に変化が出ている。

今月1日発表の9月新車販売台数は前年比マイナス0.8%と3カ月連続の減少となったが、軽自動車では同プラス2.5%と9月として過去最高を記録した。当社の季節調整値では、9月の普通車が前月比プラス8.0%、軽自動車は特に同プラス20.1%と急増、合計でもプラス7.5%(8月マイナス4.0%)と8カ月ぶりのプラスに転じた。

また、8日発表の9月上中旬の貿易統計では、輸出が前年比プラス7.5%(8月上中旬の同マイナス3.3%)まで急回復したのは朗報だ。製造工業生産予測指数では、9月は前月比プラス6.0%と大幅増産の見込み。これまでの実現率の下方修正から、29日発表の9月速報値でプラス幅は小さくなりそうだが、それでも持ち直し方向を確認できるとみている。

10月の日銀金融経済月報では、企業の聞き取り調査に基づく鉱工業生産の見通しは、「7―9月は全体としては減少する見込み」「10―12月は不確実性はなお大きいが、全体して緩やかに持ち直すとの感触」と説明されていた。繰り返すが、過度の悲観は不要だ。

<天候要因も重なった「陰の極」>

もともと、2014年4月の消費増税という17年ぶりの制度変更が、実質所得の減少による購買力の低下をもたらし、物価上昇に対して賃金の上昇が遅れることは事前に想定されていたはずだ。

当然ながら、その悪影響は弱い部分に大きな負担を強いる形になる。そこに9月から10月にかけての急速な円安進行が重なり、円安の恩恵を受けやすい大企業とコスト高に苦しむ中小企業との乖(かい)離、人の集まる都心と地方での温度差がより顕著になってしまった。

それでも、日銀短観9月調査の中小企業の業況判断DIは製造業、非製造業ともにゼロ近傍にあり、前回1997年9月時のマイナス20近傍に比べればかなり水準は高い。

また、地域別の百貨店の動向をみると、関東、近畿に比べて中国、四国では駆け込み需要が大きく出た分、その後の反動減が大きく出ているのがわかる。統計を詳細にみると、単純に弱いと決めつけられない要因が潜んでいるように思われる。

そもそも、8月の消費の弱さも、天候要因が重なった「陰の極」だ。9月の首都圏では土日と祝日にほとんど雨が降っておらず、行楽需要と買い物意欲は満たされている。

もちろん、10月に入り、台風が10年ぶりに2週連続で上陸し、生産や消費に悪影響を与えた可能性は高い(やはり今年の気象は、日本経済予測を狂わすワイルドカードだった)。

また、耐久消費財の一部は昨年度後半から駆け込み需要が顕在化しており、今後は前年比ベースでの大きな伸びは期待できない。このような状況下、当面は季節調整をかけた前月比ベースでの足元の変化を見守る必要があろう。現時点で把握できるのは、8月のボトムから9月は持ち直すが、10月は弱含みというイメージだ。

その一方で、10月から訪日外国客の免税対象品が拡大されたことは明るい材料だ。新たに飲食料品、化粧品などの消耗品が加わり、新規対象品目については1人1日1店舗あたり「5000円超50万円以下の購入」が免税対象となった。都市部の百貨店や家電量販店などでは、開始1週間で訪日外国客の来店が増えて、免税対象品の売上高が前年比で3倍から5倍になっていると報道された。この動きは今後、一部の販売統計の押し上げに寄与することになろう。 

筆者は以前、円安でも輸出が伸び悩む構造要因として、1)海外競争力の低下、2)海外生産比率の上昇、3)契約通貨建て輸出価格の維持、の3つを挙げた。その一方で円安進行と制度変更を背景とした訪日外国客数の増加、それに伴う小売業と観光業での収益増加は重要な円安メリットである。

<消費再増税に十分な成長確保へ>

以上のような分析から、筆者は現時点で11月17日発表の7―9月期実質国内総生産(GDP、1次速報)は、前期比年率プラス3.2%(4―6月期は同マイナス7.1%)になると予想している。9日発表のESPフォーキャストの10月調査(回答締切2日)によれば、フォーキャスターの平均値は同プラス3.66%だった。

1日の経済財政諮問会議に提出された内閣府試算によれば、今夏の天候不順が7―9月期の個人消費に与える影響は、マイナス0.2兆円からマイナス0.7兆円程度、7―9月期GDP全体で前期比0.2―0.6%ポイントの押し下げとなるようだ。このマイナス要因を考慮すれば、4―6月期の大きな落ち込みから、それなりに戻す(4%程度)という解は得られる。12月上旬の消費再増税の判断に向けて、用意周到な試算が早めに出されたと筆者には感じられた。

足元で世界経済の下振れ懸念が強まり、株安・円高進行というリスクオフな相場が繰り広げられ、消費再増税の先送りを主張する意見が強まっている。しかし、9―11月の指標で天候要因剥落後の消費持ち直しや設備投資、輸出と生産の増加が確認できれば、社会保障の持続可能性の確保と財政再建に取り組む強い姿勢を示すべく、消費再増税を決断すべきと筆者は考える。その場合、政策パッケージとして税制の一体改革、バラマキではない補正予算(5兆円以下)編成と成長戦略の具体化で、景気をサポートすることが望ましい。

また、あえて格差問題を意識して考えるなら、その解消は金融政策ではかなわず、やはり政策パッケージが必要であり、その中心的な役割は第三の矢(成長戦略)の具体化である。まずは、企業の稼ぐ力を高める法人実効税率引き下げで、具体的な引き下げ幅とスケジュールが待たれる。実質所得の減少に対応した軽減税率の導入も一部日用品は検討すべきだろう。

加えて、人手不足解消につながる雇用面での規制緩和、成長産業育成に向けた特区の新たなプランも進めて欲しい。さらには、補正予算の用途には、地域振興に通じる内需喚起策や中小企業の金融支援が必要と思われる。

金融政策について触れておけば、日銀は10月展望レポート発表時に、2014年度の成長率見通しの数字(大勢見通し中央値)を7月時点のプラス1.0%から同0.5―0.6%程度に下方修正せざるを得ないだろう。その一方で物価見通しは、従来の数字の据え置きが見込まれ、引続き景気情勢を見極める姿勢を示すと思われる。

円安にはプラスとマイナス両面の要素はあるが、輸出と訪日外国客数の増加による景気プラス要因と中期的な物価押し上げ要因、雇用・所得環境の改善継続から、今は強気にみえる黒田日銀総裁のシナリオに沿って、日本は緩やかに回復に向かう力を持っていると筆者は考えている。

7日の黒田総裁定例会見では、量的質的緩和はカレンダーベース(期間限定)ではないと表現した。これまでも「必要な時点まで、2年程度の期間を念頭にできるだけ早期に」と説明してきたが、いよいよ2014年末が近付き、新たなバランスシート見通しは出さなくても終わらないことを、遠回しに訴えている印象を受けた。

次回31日の会見でも、来年も現状の国債買い入れペースを維持(緩和の延長)するなら、明確なメッセージを市場に伝える努力を期待したい。

<吉野家、ユニクロにみる日本経済の針路>

最後に、筆者が足元の経済指標以外で注目している点を言い添えておきたい。それは、2000年代初頭、低価格戦略でデフレの象徴的な存在だった吉野家、ユニクロの動向だ。

前者は4月から牛丼の値上げに踏み切り、7月までは昨年実施した値下げの反動で苦戦が続いていたが、吉野家ホールディングス(9861.T)が発表した3―8月期の連結決算では客単価の上昇と広告費抑制が寄与し、純利益が前年同期比約4.4倍となった。結局、春から夏の牛丼戦争は値上げに軍配が上がったと言えよう。

その一方で、ユニクロは8月に初の値上げを実施した。大半が値上げした商品に切り替わった9月の国内既存店売上高は前年同月比プラス19.7%と好調だった。巷で消費低迷と言われる状況下、これは商品力と価格支配力のある企業が強いという証左だろう。今後は機能性を高めた品揃えなどの工夫で、底上げを図っていく考えらしい。

商品力という視点では、高額家電である4Kテレビやロボット掃除機の販売が足元で堅調なことは成功事例であり、年末商戦でもけん引役としての期待が高い。

なお、ユニクロのファーストリテイリング(9983.T)と言えば、6月に人事制度を変更し、限定正社員を登用した雇用改革のリーディングカンパニーでもある。日本経済が進むべき道を示しているように思える。

*岩下真理氏は、SMBCフレンド証券のチーフマーケットエコノミスト。三井住友銀行の市場部門で15年間、日本経済、円金利担当のエコノミストを経験。2006年1月から証券会社に出向。大和証券SMBC、SMBC日興証券を経て、13年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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