October 17, 2014 / 5:18 AM / 5 years ago

コラム:「ドル115円予想」維持の根拠

鈴木健吾 みずほ証券 チーフFXストラテジスト

 10月16日、みずほ証券・チーフFXストラテジストの鈴木健吾氏は、1ドル=105円台への下押しは「よくある調整」の範囲内であり、中長期的なドル高円安見通しに変更の必要はないと分析。提供写真(2014年 ロイター)

[東京 16日]10月1日に110円台を達成したドル円相場は、その後109円近辺でのもみ合いを経て下落基調に転じ、15日には約1カ月ぶりとなる105円台前半まで一時急落するなど、絵に描いたようなスピード調整局面を迎えている。

ちなみに、調整的な動きをみせているのはドル円相場だけではない。株式市場では9月に直近の高値を更新した日経平均株価が16日にかけて1割を超える下落幅を記録。NYダウも15日時点で同約9%、英FTSEや独DAX指数も同10%を上回る下落となるなど、世界の株価指数も軒並み下落している。

また、金利市場では日米英の10年債利回りがそれぞれ昨年以来の水準まで低下。独10年債に至っては、史上最低利回りを更新する動き(いずれも債券買い)をみせた。商品市場でもロイター/ジェフリーズCRB指数が約2年4カ月ぶりの低水準まで下落した一方、10月序盤まで下落していた金価格が反発に転じるなど、市場はリスク回避姿勢を強める状況となっている。

<「米国の変化」に警戒感も>

金融市場が全般的にリスク回避姿勢を強めたきっかけは、いくつかある。たとえば、7日に国際通貨基金(IMF)が世界経済の成長見通しを引き下げたことや、8日に公表された9月開催分の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録で、世界経済に対する懸念が表明されたことなどだ。

IMFは2014年の世界経済成長見通しを7月時点の前年比プラス3.4%から3.3%に、2015年についても4.0%から3.8%に下方修正した。また、FOMC議事録は「ユーロ圏の成長率やインフレ率の継続的な低下」「日本や中国の景気減速や、中東やウクライナにおける予期しないイベント」に警戒感を示すとともに、世界経済の減速が為替市場で相対的にドルを押し上げ、その結果、米国の輸出産業や物価に対して悪影響を与えることについて懸念を表明した。

さらに、「米国の変化」に対する警戒感も市場に動揺を与えた材料となっている。変化の一つは金融政策だ。米連邦準備理事会(FRB)はこれまで議事録などを通じ、見通しに相当の変更がない限り、量的緩和の段階的縮小(テーパリング)は今月28―29日に開催予定のFOMCで終了する方針を示している。

これは、2007年のサブプライム問題以降、約7年にわたり続けてきた景気刺激的(緩和的な)金融政策がついに今月終わりを告げ、その金融政策の方向性が来年に向けていよいよ切り替わっていくという、ある意味で歴史的な転換点だ。基本的には景気刺激が必要ないほど米国経済が回復してきたことを示しており、良いことではあるものの、約7年も続いた景気刺激的な金融政策が終わること自体や、それが経済・金融市場に引き起こす影響に対する警戒感が強まっている。

もう一つの「米国の変化」は景気回復への懸念だ。前述の通り9月のFOMC議事録に、米国経済に悪影響を及ぼす事項が記載されたことに加え、夏場にかけて全般的に好調だった経済指標の一部(15日発表の9月小売売上高など)に息切れがみられることに対しても懸念が強まった。金融市場はこれらに反応し、為替相場のみならず、株式、金利、商品などにおいてリスク回避的な動意を強めたようだ。

<不可避だった調整局面>

つまり、1)世界の株価指数が9月にかけて記録的な水準へ上昇し、ドル円も急激なドル高円安を記録するなど、すでに調整入りのタイミングを待っている状況だったところに、2)IMFやFRBなどから世界経済に対する慎重な見方が相次ぎ、3)約7年続いた米国の緩和的金融政策が転換点を迎えることや米経済指標に対する警戒感とも相まって、金融市場に動揺が走った、というのが今回の一連の動きであると考えている。

では、これが中長期的なドル円相場の下落につながっていくのかといえば、そうはならないだろう。まず、ドル円相場は8月の101円台から約1カ月半の間に110円近辺まで、1割近い大幅な上昇を演じており、その後の105円台への下押しはテクニカル的にいうところのまさに半値押し。ある意味「よくある調整」の範囲は出ていない。

ドル円相場が1割上昇すれば原油などドル建てのモノが円からみて1割値上がりするわけで、これが日本経済に与える影響を確認する時間も必要だし、積み上がったポジションの調整も必要となるだろう。

FRBがドルの上昇に対する懸念を示したことは一定のサプライズではあったが、一方でルー米財務長官は「強いドルは国益」との認識を繰り返し示している。そもそも、ドル高を過度にけん制すれば海外投資家の売りによって米国資産価格の急落を招く可能性がある。また、バブル突入を回避するためにもFRBの来年に向けた金融政策転換姿勢は、微修正はあっても方向としては変わらないだろう。したがって、ドルの急激な下落が続くとは考えづらい。

対照的に日本には景気減速懸念(IMFは7日に日本の成長見通しも引き下げている)もあり追加緩和期待がくすぶる状況であることや、貿易収支などのフローからも中長期的な円安見通しに変わりはない。

また、IMFが成長率見通しを引き下げ、FRBが強い懸念を示した欧州経済に関しても、経済指標はすでに相当前から悪化傾向を示しており、これに対応する形で欧州中央銀行(ECB)は6月と9月に追加緩和に踏み切っている。つまり、「以前より市場で強く懸念されており、当局もその対応に乗り出している」ことであって、世界経済に対するリスクのひとつではあるものの、ここにきて「びっくり」するほどの材料ではない。

さらに、FRBの政策転換は確かにそれが引き起こす不透明要素をはらんでいるが、基本的には前述の通り緩和的金融政策という景気刺激策の拡大が必要なくなったことを慎重に確認したうえで転換に向かうわけで、これに対する警戒は理解できなくはないが、現状は過剰な警戒姿勢ではないかとみている。

米国の景気動向に対しても、そう心配はしていない。米経済指標は、今年序盤に大寒波の影響もあり、大きく落ち込んだ。しかし結局、落ち込みは一時的でその反動から夏場にかけての経済指標は非常に良好なものが続いた。さすがに9月頃以降の「リバウンドからの非常に強い経済指標」はピークアウト感があるが、ならしてみれば米国の緩やかな景気回復は続いているとみている。

総じて、前述の通り「調整入りのきっかけ待ち」だったところにいくつかの材料が出た結果、損失確定の取引などを巻き込んで各金融市場が「思ったよりも激しい値動きを示現してしまった」というのが実際のところではないか。

ドル円相場で言えば、日米景況感格差や金融政策の方向性、貿易収支などのフローからみても中長期的なドル高円安見通しを大幅に変更する必要は今のところないと考えている。来年には1ドル=115円を超える水準を目指すだろう。

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。明治大学経営学修士。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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