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コラム:黒田日銀の「バズーカ3」はあるか=村田雅志氏
2014年11月13日 / 02:37 / 3年後

コラム:黒田日銀の「バズーカ3」はあるか=村田雅志氏

[東京 13日] - 10月31日の日銀による予想外の追加緩和は、日本株とドル円を大きく上昇させたこともあり、一見、成功したかのようにみえる。しかし筆者は、今回の追加緩和をもってしても、来年半ばでの2%物価目標達成は非常に難しく、日銀は来年早々にも3回目の緩和に踏み切らざるを得ないだろうと考えている。

また、2回目の緩和が僅差での決定だったこともあり、3回目の緩和が反対多数で見送られる可能性も念頭に入れておくべきだ。この場合、日銀緩和をあてにした日本株買いと円売りの動きが大きく後退すると予想される。

日銀の追加緩和を受け、日経平均株価は追加緩和発表直前の1万5900円台から1万7300円台に上昇し、2007年10月以来の高値を記録。ドル円は109円台前半から一時116円ちょうど近辺へと大きく上昇した。日本株の上昇は資産効果を通じ、個人消費を刺激するだろう。また、円安の進展は、短期的には輸入物価の上昇に直結する。いずれの点も日銀の2%物価目標への追い風となるわけで、追加緩和は成功といえなくもない。

そもそも「バズーカ2」や「ハロウィーン緩和」と形容される今回の追加緩和に市場が大きく反応した理由の一つは、市場関係者の多くが10月31日の会合での決定を予期していなかった点にある。日銀の黒田東彦総裁は、会合直前にあたる10月28日の参議院財政金融委員会で、これまでと同じ内容の説明を繰り返していた。具体的には、消費税率引き上げの直接的な影響と生鮮食品を除いたベースでみた消費者物価(以下コアCPI)はしばらくの間、1%台前半で推移したあと、本年度後半から再び上昇傾向をたどり、2014年度から16年度までの見通し期間の中盤頃に、物価安定の目標である2%程度に達する可能性が高いとの見方を示していた。このため、市場関係者に追加緩和の可能性は低いとの印象を植え付けたのだ。

日銀の追加緩和が、米連邦公開市場委員会(FOMC)が量的金融緩和第3弾(QE3)の終了を正式に決めた直後だったことも市場の反応を大きくした。FOMC声明文では、労働市場のスラック(弛み)が徐々に縮小しつつあると指摘。QE3終了後も「相当の期間」事実上のゼロ金利政策が維持されることが適切とされたものの、米国が利上げに乗り出すとの見方を強める内容となった。一方で日銀は追加緩和に踏み切ったわけで、日米の金融政策の方向性の違いがより鮮明となった。ドル円の上昇ムードが高まったのは自然といえる。

ただ、今回の日銀追加緩和が、黒田総裁の言うように2%物価目標の早期実現を確かなものにしたとは言い難い。日本株は9月以降大きく上昇したが、筆者の試算では、日本の家計に発生する株の含み益は7―9月期で4.5兆円程度となる見込みだ。年末時点で日経平均株価が1万7500円程度まで上昇したと仮定すると、10―12月期には約5.2兆円、今年後半で10兆円弱の含み益が生ずることになるが、昨年下期に発生した含み益(約12.2兆円)を下回る。

昨年下期は消費税率引き上げを控え、年末にかけて駆け込み的な消費増もあったが、今年は消費者マインドが低迷したまま。日本株の上昇で、個人消費が秋口以降、持ち直す可能性は否定できないものの、株価が現状水準の上昇でとどまるようだと、前年比でみた物価押し上げ効果は限定的なものと思われる。

円安進展による物価押し上げ効果も限定的となりそうだ。筆者の試算では、仮にドル円が115円台で定着したとしても、エネルギーを除くコアCPIの押し上げ効果は前年比0.3%程度。一方、エネルギー物価は、円安進展により下げ幅が縮まる見込みだが、原油価格が足元の水準(1バレル78ドル)で推移すると、コアCPI全体を前年比で0.1%程度押し下げると見込まれる。トータルでみれば、円安によるコアCPI全体の押し上げ効果は、1ドル115円の場合、前年比0.2%程度にとどまる。

これまでコアCPIを前年比で0.2―0.3%程度押し上げてきた耐久消費財の物価が、11月以降、コアCPIの押し上げにほとんど寄与せず、場合によっては押し下げる可能性すらあることも忘れてはならない。鉱工業生産統計によると、耐久消費財の在庫調整はようやく始まったばかり。消費税率引き上げ前の駆け込み消費で耐久財ストックが積み上がったところに消費者マインドの低迷も加わり、耐久消費財価格が再び下落に向かう可能性もある。

前年比でみた場合、日本株上昇による物価押し上げ効果は限定的で、円安による同効果はトータルで0.2%程度。これまで物価を押し上げてきた耐久消費財は伸び一巡で、場合によっては物価を押し下げる方向に推移する可能性すらある。9月のコアCPIが前年比1.0%まで鈍化したことを考えると、日銀の追加緩和があったとしても11月、12月のコアCPIは、黒田総裁が見込む1%台前半ではなく、1%ちょうどに近い水準で伸び悩むことになる。

<次回緩和の主役はETFか>

もちろん相場に絶対はなく、日本株やドル円が今後、足元の水準を大きく上回る可能性は否定できない。足元では、安倍政権が2015年10月に予定されていた消費税率の再引き上げを延期し、解散・総選挙に打って出るとの思惑もあって、日本株買い・円売りの動きが過熱気味となっている。

あくまで筆者の試算でしかないが、日経平均株価が1万8000円まで上昇(初来10.5%の上昇)すれば、今年下期も昨年下期と同額(約12.2兆円)の含み益が日本の家計に生ずることになり、個人消費の伸びをサポートすることが期待される。また、ドル円が年内に120円に到達すれば、エネルギーを除くコアCPIは前年比で0.4%押し上げられるほか、エネルギー価格も原油価格の下落をカバーし前年比で0.3%程度押し上げ、合計でコアCPIは前年比0.7%程度押し上げられることになる。耐久消費財の価格が下落したとしても、コアCPIは年末にかけて再び1%台前半の伸びを回復することになる。

ただ、相場は上に行くこともあれば下に行くこともある。足元での市場の過熱感が一服し、日本株やドル円の上昇が現状水準で推移する場合も考えてみよう。

黒田総裁は、追加緩和決定後の会見で、短期的とはいえ(需要面の弱めの動きや原油価格の下落による)現在の物価下押し圧力が残存する場合、これまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延するリスクもある、との考えを示した。追加緩和の数日前まで、このような考えを微塵も示さなかっただけに、今後も同じ考えが続けられるか定かではないが、仮に黒田総裁の考えが変わらず、さらに日本株やドル円の上昇が現状水準で一服し、コアCPIの伸びが前年比1%ちょうど前後で推移するようであれば、黒田総裁は3度目の緩和を検討すると考えるのが自然だ。

3度目の緩和で買い入れのメインターゲットとなるのは、日本国債ではなく上場投資信託(ETF)と思われる。日銀は今回の追加緩和で毎月8―12兆円の利付国債を買い入れることになるが、これは政府による新規発行額(毎月10兆円強)とほぼ同額。銀行や生命保険の国債での運用難に拍車がかかるほか、中銀による財政ファイナンスの批判がさらに強まることも予想され、日銀が国債の買い増しを拡大するのは現実的と思えない。

一方で、日銀が買い入れるETFは追加緩和後でも年間3兆円。東京証券取引所での国内ETF売買高が月間2―3兆円程度あることを考えると、日銀がETF買い入れ額を増やすことは技術的には問題がない。また、日経平均株価の株価収益率(PER)は、追加緩和後も20倍台後半と昨年末の23倍台半ばを下回っており、株高の過熱感は高いとは言い難い。日銀によるETF買い入れ額の増加は、たとえ日本企業の収益増に何の影響を与えなくても、日本株需給のひっ迫を通じ日本株の一段高を促すと期待される。

日銀による3回目の緩和は、日本株の上昇だけでなく円安の動きも後押しするだろう。米連邦準備理事会(FRB)がQE3を終了させ、利上げの準備を進めているなか、日銀が緩和姿勢を強めることは、市場のリスク選好姿勢をサポートし、円売りの動きを刺激すると考えられる。

日銀によるETF買い入れ額の拡大は、日本株の上昇による資産効果(消費増効果)や、円売り進展による輸入物価の上昇を通じ、2%物価目標を2015年半ばあたりに手堅く達成させる効果的な手法といえる。さらなる国債買い入れが現実的でなくなっていることもあり、日銀の追加緩和はETFが主役になると考えるべきだろう。

<「バズーカ3」の否決リスク>

しかし注意すべきは、今回の追加緩和は賛成5反対4の僅差で決定したということだ。黒田総裁が3度目の緩和に踏み切ろうとしても、政策委員会の金融政策決定会合で、さらなる緩和を懸念する声が強まり、前述した通り、反対多数で否決される可能性も念頭に入れておくべきだ。

すでに現時点でも日銀の追加緩和に対する批判は強まっている。2016年末に日銀が保有する長期国債は360兆円程度と、国債発行残高の4割を超える。黒田総裁は依然として出口戦略について具体的な言及を避けているが、2%物価目標の達成が近づけば近づくほど、日銀の国債購入の減額が懸念され、円債利回りのボラティリティが大きく拡大するとの見方が強まるだろう。

また、日銀のETF保有額は追加緩和によって2016年末時点には9.8兆円まで拡大する。国債と異なりETFはほぼ永遠に償還されないため、売却をしなければ日銀は株価変動リスクを永遠に抱え込むことになる。理屈上は日銀がいずれETFを売却することになるのだろうが、政治的な圧力を考慮すると実現は非常に難しい。何らかのイベントショックで日本株が急落すれば、日銀の自己資本が大きく毀損されることになる。

黒田総裁が3度目の緩和を提案しても、反対多数で否決された場合、市場は今回の追加緩和とは逆の反応を示すだろう。特に日本株は、日銀緩和による需給引き締まり期待が強まれば強まるほど大きく下落することが予想される。一方、円相場も円買いの動きが強まるだろう。

むろん、FRBが利上げに向けて準備を着々と進める状況に大きな変化はないことから、ドル円の下げは日本株に比べれば小幅で済むかもしれない。しかし、追加緩和後にドル円は7円近く上昇しただけに、少なくとも2―3円の下落は覚悟しておくべきだろう。

*村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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