November 17, 2014 / 8:13 AM / 5 years ago

コラム:「2期連続マイナス成長で増税延期」は妥当か=岩下真理氏

[東京 17日] - 17日朝発表の7―9月期実質国内総生産(GDP)1次速報値は、前期比年率マイナス1.6%(4―6月期は同マイナス7.3%に下方修正)と、市場予想平均の同プラス2.0%程度から大きくかい離し、衝撃の2四半期連続のマイナスとなった。

市場予想が外れた大きな要因は在庫と設備投資だ。民間在庫品の前期比寄与度はマイナス0.6%と、前期のプラス1.2%という大幅な在庫増の調整が大きく出た。また、関連統計から事前予想でプラスとみられていた設備投資の前期比はマイナス0.2%と、2四半期連続のマイナスになった。

在庫調整は覚悟されていたが、マイナス幅が想定より大きい。好転が期待されていた設備投資の弱さは、内閣府の説明によれば、主因は自動車と電子通信機器の減少とされ、前向きな循環メカニズムが働いているとは言い難い。

一方、個人消費は前期比プラス0.4%と戻りが鈍かった。財・サービス別でみると、耐久消費財(特に自動車やパソコン、白物家電)が前期比マイナスで足を引っ張った格好だ。

ただ、今後の持ち直しを期待できる部分もあった。例えば、生産統計をみると、在庫調整は進展していた。10―12月期の在庫はネガティブにはならないだろう。夏場以降の円安を背景に、企業収益は増加を続けており、今後の設備投資の持ち直しは期待できる。

また、雇用者報酬の前年同期比は、実質マイナス0.6%(4―6月期のマイナス1.9%)、名目プラス2.6%(同プラス1.6%)と共に改善方向にある。所得環境の改善に冬の賞与増加が加わり、さらに天候要因の剥落、耐久消費財の持ち直しも考えれば、10―12月期の消費は二極化(堅調な高額消費、日用品の節約志向)のもとで底堅い動きを続けると、筆者はみている。

基調的なGDPを把握するため、2013年10―12月期から2014年7―9月期の1年間と、その前の2012年10―12月期から2013年7―9月期を比較すると1%程度の伸びはある。消費増税の影響が一巡する10―12月期には、潜在成長率を上回る成長は見込める状況だ。

筆者は増税議論において、足元の4―6月期、7―9月期の景気動向だけに過度に左右されるべきではないと考えている。だが現実には、7―9期の弱さが決め手となって、政治判断として消費再増税の1年半の先送りが発表されることになるのだろう。

<消費統計にはトリックあり>

それにしても、GDP推計に使う消費の需要統計は、4月の消費増税後は供給統計とのかい離が大きい。

需要統計が弱い理由は3つ考えられる。第1に、供給側の統計である商業販売統計には、サービス業となる外食やレジャーは含まれておらず、天候要因の悪影響が及びにくいこと。第2に、総務省「家計調査」のサンプルバイアスの可能性だ。同調査における勤労者世帯の収入データは厚生労働省「毎月勤労統計調査」の現金給与総額と比べて弱く、回答世帯の所得水準が平均よりも低位であると推察される。その結果、収入の弱さを反映した支出の弱さはありそうだ。

第3に、実質化によるマイナス幅の拡大だ。実質化に用いる消費者物価指数(CPI)は「総合」ではなく、「持ち家の帰属家賃を除く総合」である。持ち家の帰属家賃の低下幅が大きいために、それを除いた物価で除すると、総合やコアよりも実質の数字が小さくなってしまうトリックがある。家計調査のサンプルバイアスにより、低所得者層や年金生活者が、日常的に使う食料品(非耐久財)や衣料品(半耐久財)支出において節約志向を強めたことが色濃く反映され、実態よりやや弱い感触になっていると言えそうだ。

筆者は総務省の消費統計研究会(前身は家計調査等改善検討会、2011年11月に開始)の委員を務めており、家計調査の調査方法などの改善を話し合ってきた。実際に見直し(電子家計簿の導入)後の調査が実施されるのは、CPIの2015年基準改定への影響などを考慮して2016年1月以降だ。その後は、実態をより正確に反映できる調査が期待される。しかし今回、日本の消費再増税を決める重要なタイミングで、この統計のサンプルバイアスを指摘せざるを得ないのは、3年前から見直しを考えてきた立場上、非常に残念でならない。

<日銀の三重苦を招く消費増税先送り>

さて、各種報道によれば、安倍首相は18日の有識者点検会合最終回と経済財政諮問会議での議論を踏まえ、同日にも新たな経済対策および2014年度の補正予算編成を指示、消費再増税の1年半先送りの判断と衆議院解散を判断する見込みだ。

今回の解散風の背景には、長期的な経済財政状況よりも、長期政権に向けた「勝てる選挙」の意味合いの方が強く感じられる点が残念だ。消費再増税先送りを決断すれば、目先、いくつかの政策対応を迫られよう。1)消費税を財源とする社会保障関連の予算削減、2)法人実効税率の引き下げ幅、3)補正予算の規模だ。

1点目については2015年度予算で約1.5兆円の消費税収減への対応を迫られる。2点目は、引き下げ幅を小幅にとどめることになろう、3点目は、2013年度決算の剰余金と2014年度の税収上振れ分で3兆円程度にとどめ、「消費刺激」「地方活性化」「災害復旧」を対策の柱とする方向だろう。

筆者は以前より、9―11月の指標で天候要因剥落後の消費持ち直しや設備投資、輸出と生産の増加が確認できれば、消費再増税を決断すべきと主張してきた。確かに消費増税後の国内経済は想定より下振れたが、生産、輸出と消費の供給統計は8月を底に9月以降持ち直す過程にある。駆け込み需要の反動減が一巡する10―12月期には潜在成長率を上回る成長は実現可能だ。4―6月期、7―9月期の弱さだけで、日本経済の実力を測るべきではない。

よってこの際、消費税法の景気条項は外すべきだろう。消費増税議論で最も重要なのは、財政の中長期的な持続可能性という視点だ。先送りは、少子高齢化で人数が少なくなる将来世代に、社会保障の負担を大幅に増加させることを意味する。これでは、日本の明るい未来は描けない。政府は長期的な負荷や基礎的財政収支(プライマリーバランス)計画の修正まで考えた上で、当面のデフレ脱却に向けた前進を選択する以上、それなりの覚悟を持って経済運営を進める必要がある。

振り返れば、2013年1月22日発表の「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」(共同声明)では、日銀が早期の物価目標達成、政府が財政健全化の推進を約束していた。しかし、政府が消費再増税の先送りを決断すれば、日銀は梯子(はしご)を外されたことになる。

ましてや、10月31日の追加緩和(ハロウィーン緩和)を好感した株高、国債大量買い入れによる長期金利の低位安定が再増税先送り論を勢いづけたとするならば、日銀にとって不本意な結果と言わざるを得ない。政府サイドに予算膨張を抑制する姿勢、歳出削減の努力がなければ、日銀による財政のマネタイゼーションという批判は避けられないだろう。

その一方で、14日には短期国債のマイナス金利が拡大し、長期国債の買い入れを増額しても短期国債の需給を緩めることはできていない。異次元緩和の枠組みの限界を露呈しており、遠くない将来、長期国債のオペでも執行リスクにさらされるだろう。

他方、日銀の本気度を受けた円安・ドル高進行の裏側で原油価格はまだ下げ止まる気配がみえない。国際エネルギー機関(IEA)は14日発表した11月の石油市場月報で、「供給が減らなければ、2015年前半に下落圧力はさらに強まる」との見解を表明した。日銀はハロウィーン緩和決定時に物価の下押し圧力を強調し過ぎた分、物価の下振れが視野に入れば、市場に追加緩和を催促されよう。

いまさらながら、追加緩和実施の理由について「デフレマインドの転換が遅延するリスク」顕現化の未然防止と説明したのは失敗だったのではないか。仮に消費増税後の景気下振れに対応した追加緩和としていれば、今秋以降の景気持ち直しにより、市場が物価だけに焦点を当てずに済んだように思える。

以上のように考えると、日銀は当面、1)財政のマネタイゼーションという批判、2)国債買い入れオペの執行リスク、3)原油安による物価鈍化という「三重苦」に見舞われよう。

財政再建派の黒田総裁によるハロウィーン緩和を水の泡にしないためにも、政府はまず来年度の賃上げに向けて働きかけることが肝要だ。また、実質所得の減少に対応した軽減税率導入の検討、人手不足解消につながる雇用面での規制緩和、成長産業育成に向けた特区の新たなプランも進めて欲しい。そして、長期政権のメリットは、企業にとっても新たな事業戦略に安心して取り組める環境が整うことだ。経営者も競争力強化に向けて、この機会を逃してはならない。

<エルニーニョ暖冬で米景気腰折れリスクは>

最後に、日本の消費に影響を与えた気象の最新情報をお届けしたい。気象庁は10日発表のエルニーニョ監視速報(2014年10月の実況と2014年11月から2015年5月の見通し)で、「冬にはエルニーニョ現象が発生している可能性がより高い」「今後の状況により、エルニーニョ現象がこの夏から発生していたと判断する可能性もある」との見解を示した。

2014年は3月発表時にエルニーニョ現象発生の可能性が指摘され、7月には「遅れる」、8月には「低い」、11月にはまた「可能性あり」に修正と、経済予測は本当に気象予測に振り回され続けている。それでも鰯(いわし)の行動は教えてくれていたと、筆者には思える。仮に日本が暖冬となった場合、冬物衣料や鍋料理関連の消費、冬スポーツの支出が伸び悩む可能性が考えられるだろう。

ちなみに、エルニーニョ現象発生時の天候の特徴で、筆者が気になるのは世界経済のけん引役である米国だ。冬の間(12月から2月)、北米中部には高温傾向、米国北西部には多雨傾向がある。今年1―3月期の大寒波後、米国景気は天候要因に引っ張られることなく緩やかな回復を続けてきたが、果たしてエルニーニョ暖冬が訪れても、腰折れすることはないのか。来年にかけても引き続き、天候からは目が離せない。

*岩下真理氏は、SMBCフレンド証券のチーフマーケットエコノミスト。三井住友銀行の市場部門で15年間、日本経済、円金利担当のエコノミストを経験。2006年1月から証券会社に出向。大和証券SMBC、SMBC日興証券を経て、13年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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