November 27, 2014 / 8:58 AM / 6 years ago

コラム:ドル高エンジン停止、弱まる円安の推進力=亀岡裕次氏

[東京 27日] - 今年7月以降、商品総合指数は低下を続けてきた。先進国に主要新興国を加えた景気先行指数は長期トレンド上にほぼ位置しており、世界の需要が減退しているわけではないのに、なぜだろうか。

景気回復が比較的順調な米国の量的緩和からの出口政策を織り込みつつドル高が進行し、ドル建て中心の商品相場を押し下げる方向に作用してきたことが主な理由と考えられる。ただし、ドル高と商品安は米国のインフレ期待の低下要因となり、ドル高は米景気減速要因になる一方で、米国以外の国・地域の景気回復要因になる。米国経済・金利動向の相対的優位性に基づくドル高が商品安を引き起こす連鎖は軽減していきやすいだろう。

<原油安がドル高を招いた一面も>

また、世界の需要が減退していないのに商品相場が下落してきた理由に、エネルギー供給の増加期待もあったのではないだろうか。

商品指数を分野別にみると、7月以降に下落が続いてきたのはエネルギーと貴金属であり、産業用メタルと農畜産物は10月以降にやや上昇している。金などの貴金属は、通貨の代替物としてドル高の影響を受けて価格下落(ドル安なら価格上昇)しやすい一方、エネルギーは、米国を中心としたシェールガス・オイルなどの生産増加見通しが価格下落に影響した可能性が大きい。

米国のシェールガス・オイル生産の増加は近年に始まったわけではないが、6月下旬に米政府が自国産超軽質原油に限定して輸出を解禁するとしたことが、近い将来の原油輸出全面解禁を想起させ、生産増加見通しを強める契機になったのではないか。米原油輸出が増えるだけなら、需要増で米国産原油の価格を上昇させる一方、米国以外の原油価格を下落させる効果があり、価格に与えるマイナス効果がプラス効果に勝るとは一概には言えない。しかし、原油輸出が生産増加を促進するのであれば、原油価格に与えるマイナス効果が大きくなる。

サウジアラビアは、天然ガスなどのエネルギーコストが安い米国での原油シェアを回復させるために米国向け原油価格を引き下げた。石油輸出国機構(OPEC)は、米国産シェールオイルの供給増により加盟国産原油への需要が2018年度に14年度より15%減少するとの見通しを示すなど、供給過剰を懸念しているが、減産によって原油安をくい止めようという姿勢は示していない。米国がシェールオイルの生産を増やし続けるうちは原油安が止まりにくく、OPECが減産すればそのシェアが低下するだけだからだ。

米中間選挙の結果、共和党が上下両院で過半数を占めたため、エネルギー企業に有利な石油・ガスパイプライン建設や原油輸出全面解禁に向けて法案審議が進展するとの期待は強まった。12月11日には、下院委員会で原油輸出禁止措置に関する公聴会が開かれる。米国の原油輸出が解禁されてシェールオイル生産が増え続けるのであれば、原油価格は下落を続け、ドル高に作用することになろう。

しかし、原油価格の下落によりシェールオイル生産の採算が悪化している。米国では天然ガス価格が低位にあるため、開発事業者が採算の悪いシェールガスから採算の良いシェールオイルにシフトし、稼動するオイルリグ数はガスリグ数を圧倒する状況にある。今後は、原油価格の下落による採算悪化がシェールオイルの生産抑制に働く可能性が高い。供給過剰で価格が下がると、供給が抑制されて供給過剰は解消に向かい、価格下落が止まることになる。原油安がドル高を招く連鎖も弱まることになるだろう。

米国ではシェールガス・オイルの生産が増えたため、エネルギーの自給率が上昇し、輸入依存度が低下してきた。原油輸出が解禁されても、採算悪化により需要増ほどには供給が増えないことになれば、自給率上昇や輸入依存度低下が止まる可能性もある。原油安によりシェールオイル生産が抑制されるようになると、米貿易収支改善への期待によるドル高効果も後退するだろう。

<米税制改革のドル高効果は限定的か>

ところで、オバマ米大統領が11月4日に「海外利益の本国送還を含む税制改革」に言及したこともあり、共和党勝利を受けて、米国への資金還流を促す企業減税に対する期待が浮上している。

ブッシュ政権下で実施された本国投資法(HIA)は、海外留保利益の本国送還時の法人税率を1年間に限り35%から5.25%に引き下げるもので、2005年を中心に3000億ドル程度の資金還流を誘発し、ドル高を引き起こしたとされる(ドル円は04年末102.68円から05年末117.88円へ上昇)。今回も本国投資法第2弾によるドル高への期待がある。

確かに、米国への資金還流が増えればドル高要因になる。ただし、2005年と同様にドル高が進むと考えるのは早計であろう。第一に、税制改革の一環として恒久減税となるかわりに、減税は小幅となる可能性が高い。本国送還時の税率35%を20―27%に引き下げる案が有力とも言われる。時限減税で減税幅が大きいと駆け込み需要が発生し、その間の資金還流とドル高の効果が高まりやすいが、恒久減税で減税幅が小さいとそうはならない。

また、減税幅が小幅だと資金還流はドル相場に左右されやすく、ドル高なら資金還流を遅らせようという意向が働きやすくなる。ちなみに、本国投資法が成立した2004年10月から12月にかけては、資金還流が手控えられて、むしろドル安が進んだ(減税幅が小さければ、そうした効果も小さいだろうが)。

第二に、2005年は米金利の大幅上昇がドル高に作用したが、今回はそうなりにくい。当時はドル高でも世界景気が強いために商品高が進み、米インフレ期待は2.5%超の高水準が続いて金利上昇を促したが、足元ではドル高・商品安を背景にインフレ期待は1.5%程度と低水準にとどまる。05年のように米金利上昇とドル高が進むと考えるべきではないだろう。

<ドル高はすでに一服>

ドル円は、11月20日に一時118.98円まで上昇するなど、7月から上昇を続けてきたが、その動向には変化の兆しもみられる。ドル、円、その他主要15通貨の関係でみると、11月7日までは15通貨に対するドル高と円安が同時進行しながらドル円が上昇していた。

ところが、それ以降は15通貨に対するドル高が止まり、円安だけが進行している。つまり、為替市場全体でみると、すでにドル高は止まっており、ドル円の上昇は円安によりもたらされている。

ドル高は10月3日までにそのほとんどが進行しており、世界的に景気回復が鈍くリスクオンが強まらないなかで米国経済が比較的好調で、米2年国債金利などが高めに推移していたことが、ドル高の主因であった。11月4日の米中間選挙で共和党が勝利したことによる「米国企業に優しい政策」への期待がもたらすドル高効果は小さい。米国のインフレ期待が低下したことから米金利上昇が抑制されるようになったために、ドル高が進みにくくなったとみられる。

IMM通貨先物の非商業部門におけるドル買い越しポジションは、個別通貨ペアの積み上げでは拡大した。11月18日時点のユーロ、円、ポンドなど主要7通貨に対するドルのポジションをドル金額に換算して合計すると、465億ドル程度の買い越しとなり、過去最高を更新した。円、ポンド、ユーロ、NZドルに対するドル買い越しが、前週に比べ拡大したことが寄与した。

ただし、主要6通貨に対するICEドル指数の先物は、9月23日の5万6990枚をピークにドルの買い越しが3万9356枚まで縮小している(1枚=ドル指数×1000ドル)。ドル指数が上昇するなかでの買い越しの縮小は、ドル高に対する警戒感を示しているだろう。過去、ドル指数のポジションは個別通貨ペアの積み上げによるドル・ポジションに対し、同時か、やや先行して基調転換していることから、個別通貨ペアでもドル買い越しが縮小に転ずる可能性が高い。

ドル円を上昇させてきた「ドル高」と「円安」の2つのエンジンのうち、「ドル高」エンジンが停止することで、ドル円上昇の推進力が弱まることになりそうだ。

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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