[東京/大阪 7日 ロイター] - キーエンス6861.Tの変わらない投資家への情報発信(IR)姿勢に、市場では期待外れの声が出ている。好調な業績は予想通りだが、株主還元や広報体制の強化に向けた新たな動きはなく、「第二のファナック6954.T」との期待は肩透かしとなった。株主還元が現在の市場の大きなテーマだけに、今後2社の株価は明暗が分かれそうだとの見方も出ている。
<配当は実質据え置き>
7日の決算会見でキーエンスの山本晃則社長は、株主との対話のあり方について「従来より個別に対応しており、特に大きな変化があるわけではない」と述べた。株式分割の方針についても「今後、株主の声を反映させながら、どういったことをすれば一番企業価値を高めることにつながるのか検討していきたい」としたものの、具体的な方針は示さなかった。
配当方針についても「安定した配当を継続していくことが基本方針だ。配当性向がいくらという考え方は持っていない」と、中期的な目標の設定には否定的な考えを示した。15年6月期は3カ月の変則決算となるが、配当予想は50円と、年換算では15年3月期(12カ月)の200円を据え置く形となった。
ファナックは今回の決算発表に合わせ、連結配当性向を従来の2倍の60%に引き上げたほか、今後5年間の配当金と自己株取得の合計額が当期純利益の最大80%の範囲内で自己株を取得することも併せて決めた。さらに消極的と言われていた広報体制の強化も発表。IR専門部門を設置するとしている。
市場がキーエンスに期待していたのはファナックと同様に、株主還元や広報体制の強化を今回の決算発表で打ち出してくれるとの期待だった。だが、いちよしアセットマネジメントの執行役員運用部長・秋野充成氏は「少しは姿勢に変化があるかと見ていたが期待外れとなった」と指摘。株価について「ファナックがIRを重視する姿勢を続ければ、明暗が分かれてくる」との見方を示した。
<業績は好調>
業績は依然好調だ。7日に発表した2015年3月期の連結業績は売上高が前年比26.0%増の3340億円、営業利益は同34.5%増の1757億円となった。工場自動化(FA)用のセンサーの販売が堅調に推移。営業利益率は52.6%と国内企業のなかでも群を抜く水準だ。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の小宮知希アナリストは決算について「コンセンサスを超える営業利益だった。海外比率が50%を超えてきているにもかかわらず、営業利益率が50%を超えているというのはかなりポジティブだ」と評価する。
しかし、今後の業績予想は従来通り非公表。市場からは「実績だけでいえば文句はないが、情報開示が不十分のまま。3カ月の変則決算となればさらに投資判断も難しい」(高木証券・企業調査部長の藤井知明氏)との声が聞かれる。
手元資金も15年3月20日時点で約6400億円となり、1年間で約1580億円増加した。同社は4月1日以降の事業開始年度に適用される法人税率引き下げのメリットを早期に享受するため、事業年度を15年4─6月期と同年7─16年3月期に二分する変則決算の形をとる。
「大がかりな設備投資を必要としないファブレス企業。配当には積み上げ余地がある」(SBI証券の藤本誠之シニアマーケットアナリスト)と、市場の期待は大きいが、潤沢な手元資金の活用使途は今回示されなかった。
<依然強い割高感>
キーエンス株は「第二のファナック」として、期待先行で上昇してきた。前年末からの株価の上昇率は17.3%。ファナックの28.5%に比べると見劣りはするものの、日経平均.N225の上昇率10.6%を大きく上回る。
FA関連銘柄では、ミスミグループ本社9962.Tが13.8%高、安川電機6506.Tが4.6%高、オムロン6645.Tが1.7%安となるなかで、ファナックとキーエンス株の堅調ぶりが際立っている。
みずほ証券は7日付のレポートで、キーエンスの決算自体はサプライズはないとする一方、同社株の7日終値は、ファナックの株主還元やIR姿勢改善に関する一部報道前の水準にまで下落したと指摘。IR姿勢の改善に対する「期待はほぼはく落したと判断され、ネガティブ視は不要」とし、短期的に株価がネガティブな反応を示すようならば押し目買いの好機となるの見解を示している。
ただ、足元で株価がやや調整したといっても、予想PER(株価収益率)は33倍台後半。5月に入り18倍台で推移してきた東証1部全体と比較しても、株価は割高な水準にある。
同社のIR姿勢については「競合他社に自社の強みを分析されることを防いでいる」(国内証券)と好意的に受け取る声もある。しかし、株主還元やコーポレート・ガバナンスが大きなテーマとなっている今のマーケットではネガティブ視されやすい。特に調整色が強まってきた足元の相場では注意が必要だろう。
長田善行、取材協力:志田義寧 編集:伊賀大記
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