November 4, 2014 / 4:47 AM / in 6 years

コラム:危機後の金融・財政「実験」が告げる教訓=カレツキー氏

[31日 ロイター] - 2008年の金融危機以降、各国が実行した金融・財政政策の「実験」から我々は何を学んだのか、検討してみるのに適切な時を迎えたようだ。

 10月31日、2008年の金融危機以降、各国が実行した金融・財政政策の「実験」から我々は何を学んだのか、検討してみるのに適切な時を迎えたようだ。ニューヨーク証券取引所前で2月撮影(2014年 ロイター/Brendan McDermid)

一番の教訓は、メディアや市場の注目を集めるゼロ金利や量的緩和といった金融政策上の実験よりも、税と公共支出に関する政府の決定の方が経済活動のけん引役として重要であると判明したことだ。財政赤字、税、公共支出といった財政政策は主に政治的な選択であって、インフレ、成長、雇用などマクロ経済面の影響では金融政策に大きく劣るかのような議論がなされてきた。しかし現実はその逆だった。2008年以来、すべての主要国が本質的に同様の金融政策を行ってきたが、財政政策は国ごとに大きく異なり、それがもたらしたのは大半の政治家や中銀が示唆するのとは正反対の結果だった。特に米国と欧州を比べた場合にそのことが際立つ。

財政赤字削減のために臨時措置を採った国々は、ほとんどが低成長に苦しんだ。2010年から12年にかけての英国、今年の日本、2013年の「財政の崖」をめぐる合意を受けた米国などが好例だ。イタリアやスペインなどもっと極端なケースでは、財政緊縮策によって深い景気後退に逆戻りし、金融危機の深刻化を招いた。一方で、危機後の大半の時期における米国など、財政赤字問題を無視した国や、今年の英国や13年の日本のように政府が財政再建計画を脇に追いやろうと決めた国は、成長と財政の財面で概して良い成績を収めた。大きな例外の一つはドイツで、財政再建と良好な成長が辛うじて両立した。これは主にロシアと中国向けの機械輸出ブームのおかげだったが、そのブームも今は過ぎ去り、ドイツは厳しい財政政策がとっくに示唆していた通り、再び景気後退へと向かっている。

つまり2008年以来の6年間は、時代遅れとされるケインジアン的見方に対し、力強い実証的支持を与えるものとなった。厳しく落ち込んだ経済を刺激して景気後退から引き上げるには、金融政策よりも政府借り入れの方が力を発揮するという見方だ。ある意味では、財政政策のパワーが意外だと受け止められたり、ドイツ政府や米国の草の根保守派運動「ティーパーティー(茶会)」によって全否定され続けているのは奇妙なことだ。財政政策が景気後退時にかくも重要であり、今や金融政策を圧倒した根本的な理由は、議論にもならない単純な算数なのだから。

一般に景気後退は、民間企業と家計が借金を減らしたり貯蓄を増やす目的で、支出を収入水準よりも抑えると決断した時に起こる。危機後に明らかに見られたように、この「デレバレッジ」が民間セクターで起こっている際には、単純計算で分かる通り他の経済セクターが収入を上回る額を支出することでしかバランスを修復できない。そうした支出過剰は、その「別のセクター」が喜んで債務を増やすことによって初めて可能になる。世界全体で見ればゼロサムである輸出入を度外視すれば、バランスを保つというこの決定的役割を果たせる唯一の「他のセクター」候補は政府だ。従って、企業や家計が支出を収入以下に減らして貯蓄を増やすと決めた時、政府が借り入れを増やさなければならないのは数学的必然性である。

議論の余地なきこの算数にも関わらず、金融政策の一挙手一投足をめぐる終わりなき議論とは対照的に、財政政策のマクロ経済的インパクトには驚くほど関心が払われてこなかった。その理由は危機後の標準的経済モデルとして支配的地位を占めたマネタリスト理論と、それに関連する制度変化に潜んでいる。この変化により、セントラルバンカーは経済政策の最高権威者として、財務相を凌ぐ地位にのし上がった。

1930年代から70年代まで支配的だったケインジアン的財政コンセンサスを、マネタリズムは経済モデルにたった一つの単純な想定を持ち込むことによって覆した。民間投資を刺激し、民間貯蓄を思いとどまらせて成長を回復する上で、金利はいつでも十分なだけ引き下げられると主張することで、深刻な景気後退時におけるケインジアン的財政刺激の必要性は否定された。この結果、民間セクターが全体として支出不足に長く苦しむことは決してないし、従って民間の需要不足を補うために政府が借金をする必要は皆無だ、ということになった。

こうした想定の結果、中銀の金利決定はマクロ経済運営において唯一の有効な手段となり、財政政策はミクロ経済的な補助的役割に格下げされた。税制や公共支出の水準は、インセンティブや資源配分に影響を与える供給サイドの問題と見なされるようになり、政府借り入れによる需要面への影響はほぼ無視された。政府借り入れが増えようが減ろうが、金利が上下してケインジアン的需要への影響を相殺するだろう。独立したセントラルバンカーが金融政策によってマクロ経済的需要を管理するので、政府は政治的、あるいは供給サイド的目的を達成するために税制や支出計画を定めるだけで済むとされた。

マネタリズムが登場した高インフレ期には、民間の経済活動を回復させるのに十分なだけ金利をいつでも引き下げられるという考え方に妥当性があった。結局のところ、インフレ率が5%の時、1%の金利は実質ベースでマイナス4%に相当し、貯蓄者に莫大な税金を課して民間投資家に大きな補助金を与えることになる。しかしユーロ圏や日本のようにインフレ率がほぼ無視できるほどの水準やゼロになったりした際、この論理は完全に破綻する。

つまり皮肉にも、マネタリズムと中銀によるインフレ征服の成功こそが、マネタリズム支配の時代の終焉を意味するようになったわけだ。ケインジアン的な財政の考え方が勝利を収め、財務相が再びセントラルバンカーよりも重要になった。彼らの大半はこのことにまだ気付いていない。金利がゼロに達した途端、伝統的な金融政策運営は経済に追加的な刺激を与える能力を失った。そして中銀が「フォワードガイダンス」によって超低金利を何年も続けると約束している今、財政の緩みを相殺して需要を抑える能力もまた失われた。

金融政策の魅力があせると、財政政策が自動的に力を増した。金利がゼロかゼロ近傍に下がったことで、さらなる利下げにより民間需要を刺激することは不可能になり、このことは金融緩和がもはや財政引き締めを相殺できなくなったことを意味する。この結果、あらゆる財政赤字削減は紛れもないデフレ要因になった。ドイツが発案したユーロ圏の財政規律策の実行に、フランスとイタリアが抵抗しているのはこの意味で正しい。反対に、財政拡大は今や、誰はばかることなく景気を刺激できる。今後1、2年、そして恐らくは2010年代末に至るまで、金利が大幅に上昇するリスクはないのだから。要するに、世界は1950年代や60年代のような「フィスカル・ドミナンス(財政による支配)」の局面に戻ったということだ。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*アナトール・カレツキー氏は受賞歴のあるジャーナリスト兼金融エコノミスト。1976年から英エコノミスト誌、英フィナンシャル・タイムズ紙、英タイムズ紙などで執筆した後、ロイターに所属した。2008年の世界金融危機を経たグローバルな資本主義の変革に関する近著「資本主義4.0」は、BBCの「サミュエル・ジョンソン賞」候補となり、中国語、韓国語、ドイツ語、ポルトガル語に翻訳された。世界の投資機関800社に投資分析を提供する香港のグループ、GaveKal Dragonomicsのチーフエコノミストも務める。

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