[東京 23日] - 「保育園落ちた日本死ね」の匿名ブログをきっかけに、認可保育所などに入れない待機児童の問題が、国会でも論戦になるなど、社会的な関心を集めている。この問題に取り組み、都内各地で小規模認可保育所を運営するNPO法人フローレンスの駒崎弘樹代表理事(36)は、「日本は乳幼児の子育て支出が少なすぎる」と指摘する。
同氏の見解は以下の通り。
<国際的に低い少子化支出>
待機児童の問題は非常にシンプルで、少子化社会対策における日本の公費負担が低い点が大きい。2011年の北欧スウェーデンにおける家族関係社会支出は対GDP(国民総生産)比で3.46%に達しており、フランスは2.85%だが、日本は1.36%とフランスの半分以下だ。
2012年のフランスの出生率は2.0、スウェーデンは1.9となり、少子問題を克服している。2015年の出生率が1.46に過ぎない日本で、政府が「希望出生率1.8」を打ち出しながら、公費負担が対GDP比で1.36%に限られているのは、まさに過少投資だ。
社会保障給付費(2014年度当初予算ベース)は年金56兆円、医療37兆円、介護が10兆円に及んでいる一方で、子育ては5、6兆円にとどまっている。 子育てを充実させるには、何十兆円も必要ではない。2、3兆円上乗せするだけでも相当効果がある。低所得の高齢者1000万人超を対象に1人3万円といったバラマキ政策をやっている場合ではない。
<税制優遇や規制緩和の必要性>
ネットやテレビで話題になった杉並区の公園に保育園設置する問題をめぐっては、基本的に土地を確保することがいかに難しいかという話を自分のブログで書いてきた。廃校を使えばよいとの意見もあるが、そんなに簡単な話ではなく、固定資産税などの税制改正が必要だ。小規模住宅用地をアパートに転用した場合には、課税標準が6分の1になるのに、保育所では軽減措置がないのはいかがなものか。保育所は公的施設なので、税制優遇をすべきではないか。
また、国の認可する保育所よりも設置しやすい小規模保育の設置を推進していく必要がある。ただ、小規模保育はゼロ歳から2歳までの制限があるため、3歳から5歳までの保育もできるように規制緩和するだけでも効果が見込まれる。
<保育士の処遇改善を>
保育士不足も深刻だ。保育士の給与は全国平均で月額22万円と、全産業平均より11万円も低い。全産業平均程度まで引き上げるべきだ。現在保育所で働いている保育士の数は約35万人。一方で保育士資格を持ちながらも働いていない人が約70万人もいる。働かないのは、処遇が悪いからだ。
人手不足のため、保育士が夜遅くまで働かざるを得ない悪循環に陥っている。現在給与問題に直面する私立保育園において、人件費を上げ、保育士の数が増えれば、仕事はずっと楽になるだろう。
東京都では、特に昨年11月の保育士の有効求人倍率は66倍にも達しており、保育士を探すのが困難な状況となっている。日本全体の人口は縮んでいるが、渋谷区や世田谷区など東京の一部は例外的に流入が多く人口が増えており、待機児童問題は長期化する可能性がある。
長期的には子どもの数が減ることで、待機児童数も減る。しかし、働き始める女性の増加によって、この問題は顕在化している。超長期的に考えれば、一部を介護施設にする必要も出てくるだろう。将来的に保育と介護が乗り合いができるように規制を見直す対応が必要だ。
(聞き手:高橋浩祐)
*本稿は、駒崎弘樹氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。
*駒崎弘樹氏は、1979年東京生まれ。慶応大総合政策学部卒業後、2004年、病児保育向け保育サービスを提供するNPO法人フローレンスを設立。12年に認定NPO法人に。内閣府「子ども・子育て会議」の委員や厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長を務める。
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