[東京 21日 ロイター] - 日銀の黒田東彦総裁は21日の記者会見で、金融緩和の主たる目安を従来の量から金利にシフトしたことで、これまで年間80兆円を維持してきた国債買い入れ額が「上下する」と指摘した。
同時に「テーパリング(緩和縮小)ではない」とも述べ、金融緩和後退との疑念をけん制した。
市場関係者の見方は以下の通り。
●追加緩和、すぐに動かない
<SMBCフレンド証券 チーフマーケットエコノミスト 岩下真理氏>
これから毎回会合で短期金利と長期金利の2つの起点について、明確に示すことが明らかになった。また、国債買い入れ額について増減することがあるとして調整において量が変動する可能性があるということを総裁の言葉として導き出されたことは注目される。
事前の各種報道がマイナス金利政策が軸としていたので、「長期金利ターゲット」まで踏み込むと思っていなかった。中央銀行が本当に長期金利をコントロールできるのかという点に関しては、「十分できる」と総裁は力強く発言したが、新たに強化したイールドカーブ・コントロールがうまく機能し、着地させるには時間がかかりそうだ。
また、総裁から「物価見通しと政策変更は機械的にリンクしていない」との発言があった。追加緩和には、すぐに動かないのではないか。
「オーバーシュート型コミットメント」でかなり強力な緩和の長期化を示しているので、11月1日の展望リポートでは2017年度の物価見通しを下げると思われるが、下げたからといって追加緩和を実施するということにならないほどパワーアップして新たな枠組みを示したので、当面、様子を見ていくことになるのではないか。
●買い入れ減額可能な状態にシフト
<松井証券 シニアマーケットアナリスト 窪田朋一郎氏>
黒田総裁は今回の新たな枠組みについてテーパリングとの解釈を明確に否定したが、これまで固定していた買い入れの量を減額できる状態にシフトさせたとの印象が強い。やはり年間80兆円を買い続けるのは限界にきているため、ターゲットを変更せざるを得なかったというのが本音ではないか。
きょうの市場は、日銀の金融政策の持続可能性や金融機関に対する悪影響の緩和などを評価したが、個人的にはやや違和感がある。これまで無理やり国債を買い入れ、株式市場に資金を押し出していたが、新たな枠組みではここが変化する可能性がある。今晩の米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果とともに今後の推移を見極める必要があるだろう。
●市場がテーパリングと見なすか否かが生命線
<野村証券 チーフ為替ストラテジスト 池田雄之輔氏>
今回、黒田総裁は、市場にテーパリングであるとの解釈を与えないように万全の注意を払いながら、80兆円の国債買い入れのペース目標を、事実上、有名無実化した。
金融市場で良好な初期反応を得ることは非常に重要だったはずで、株高、ドル高の反応には安どしたはずだ。
前回7月の緩和に続いて総裁が重視したのは、金融機関に対してマイナスになるような政策をしないことであり、枠組みの変更をしつつ、マイナス金利の深掘りを急がなかったので、銀行株の上昇につながった。
今回の決定は、とりあえず金融市場のリスクセンチメントにプラスだったが、この反応に持続性があるかどうか疑わしい。市場が今回の決定を事実上のテーパリングへの道を開くものだと評価するのは時間の問題だとみられる。
今回の政策変更は、日銀がいつかは着手しなければならないことだったが、黒田総裁の任期中に実現したことは評価すべきだろう。
*内容を追加して再送します。
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