May 22, 2013 / 10:43 AM / 6 years ago

コラム:黒田緩和の困難な道のり、信認が高める金利上昇圧力

田巻一彦

5月22日、「黒田緩和」への市場の信認が高まるほど、長期金利に上昇圧力がかかりやすくなるという構図を前に、多くの市場関係者が思案している。写真は記者会見する黒田総裁(2013年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 22日 ロイター] 2年間で2%の物価目標を達成するという「黒田緩和」への市場の信認が高まるほど、長期金利に上昇圧力がかかりやすくなるという構図を前に、多くの市場関係者が思案している。

22日の会見で日銀の黒田東彦総裁は、強力なオペでリスクプレミアムを圧縮させ、長期金利の急上昇はないと強調した。だが、物価の上昇が明確になれば、長期金利の上昇幅も大きくなるだろう。市場が混乱しないゆっくりとした金利上昇と平穏な均衡点への到達は、日銀にとって細い尾根道を行くような困難との遭遇になると予想する。

<巨額国債購入でプレミアム圧縮>

黒田総裁はこの日の会見で、長期金利の構成要素について言及し、経済物価情勢に対する見通しにリスクプレミアムが加わって形成されていると指摘。日銀の巨額国債購入で「このリスクプレミアムを圧縮する効果がある」と指摘。その結果として「長期金利が跳ね上がることは予測していない」との見解を示した。

確かにリスクプレミアムが圧縮されることで、長期金利には短期的に低下圧力がかかるだろう。しかし、経済物価情勢に対する見通しが、その低下圧力を上回って強くなれば、長期金利にはかなりの上昇圧力がかかり出すだろう。

<高まる期待背景に円安/株高進む>

実際、「黒田緩和」の実施を起点にした期待の変化は、まず、外為市場で円安進展として鮮明になり、22日の欧州市場の取引時間帯に103円目前まで円安が進んでいる。円安の効果を期待した市場関係者は日本株にマネーを流入させ、同日の日経平均.N225は1万5627円26銭まで上昇して取引を終了。資産価格の増大ルートで、個人消費が堅調さを強めている。

足元の消費者物価指数は前年比でマイナスとなっているが、日銀は国内需要が底堅く推移し、海外経済の成長率が次第に高まっていくことなどを背景に、「当面、マイナス幅を縮小したあと、次第にプラスに転じていく」との見通しを示している。

<変わる円債市場のムード>

株式市場とは対照的に、円債市場には4月4日の「黒田緩和」発表前までは、2年間で2%の物価上昇が現実になると予想している参加者は、かなり少数にとどまっていたと思われる。日銀による強力な国債購入で長期金利が一時、0.315%まで低下したのは、そう簡単にCPIが2%にならないと見ていた参加者が多かった反映だと考える。

ところが、円安と株高の進展でムードが劇的に変わりつつある。そのことが国債を大量に保有している国内銀行勢にとって、大きな課題となってのしかかってきているのではないか。2%に物価が接近した時のドル/円と日経平均は、どの水準にあるのか、その時の長期金利はどこまで上がっているのか、という問題だ。

<経済活性化が生む長期金利上昇、銀行勢は経営上の問題に>

黒田総裁がこの日の会見で指摘したように、2%の物価上昇が達成された時は、賃金が上がり雇用が増え、生産/所得/支出の好循環が実現しているはずだ。日経平均が1万8000円を突破し、2万円に接近している可能性もあるだろう。

その時に長期金利が1%から1%前半で推移している可能性はかなり低いと予想できる。2%に接近しているか2%を超えて上昇している可能性があるのではないか。その蓋然性が高いと予想できるなら、銀行は保有国債の残高をどこかで低下させないと、大幅な含み損を発生させることになる。

この難問をどう解決していくのか──。メガバンクに限らず、地銀などの地域金融機関にとっては、経営上の最大の問題点に浮上すると予想する。

<横並び売却がリスク、有効な1年超の固定金利オペ>

CPIが前年比でプラスに転じ、その上昇テンポが誰の目にも加速していると映り出した時、銀行に限らず国債を大量に保有している主体は、その適正な保有規模を見直す動きに乗り出すだろう。

その際の売却ペースが市場を混乱させない程度であれば、問題はないはずだ。だが、横並び意識の強い日本の金融界で多くの金融機関が足並みを揃えて国際売却に動けば、長期金利が跳ね上がることになりかねない。

そのような展開になる前に、日銀が柔軟なオペで売り圧力をコントロールするのがベストシナリオだろうが、事態はそう簡単に進展しない可能性がある。

黒田総裁は、この日の会見で明言を避けたが、1年超の固定金利オペを有効に活用し、銀行勢の売り圧力を適切にコントロールする手段は、かなりの有効性を発揮するのではないかと予想する。

<消費増税延期、リスクプレミアム上昇させる懸念>

ただ、この努力も政府が消費税率の引き上げ延期を決め、リスクプレミアムが急上昇するような展開になれば、水泡に帰す運命が待っていると指摘したい。黒田総裁も、政府の財政健全化の取り組みに対する懸念が生じれば、リスクプレアムが拡大する方向に動くとの見方を示し、財政健全化の重要性を強調した。

このように長期金利が緩やかなテンポで上昇し、日本経済の回復が鮮明になって物価が2年間で2%に上昇するというシナリオは、滑落しそうな尾根道を重いリュックを背負って歩くようにリスクが大きい。予想外の横風にあおられて足元がおぼつかなくなる危険性もある。

こうした状況の下では、黒田総裁が「出口論」を封印しても、市場の有力な参加者は独自にシミュレーションし、対応策を検討するだろう。CPIがプラス転化した際の市場反応は、その後の動向を予測する上で極めて重要になると提言したい。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています

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