May 31, 2013 / 7:03 AM / in 6 years

コラム:株式市場は何を恐れているのか=カレツキー氏

アナトール・カレツキー

5月30日、世界経済と金融市場では今週、奇妙なことが起きている。写真は都内で、同日撮影(2013年 ロイター/Yuya Shino)

[30日 ロイター] 世界経済と金融市場では今週、奇妙なことが起きている。冒頭の一文は世界金融危機以降の5年間、ほぼいつの時点についても利用可能な言い回しだが、今週の奇妙さは特殊な形態を取っており、それによって生じた混乱よりも、明白になった部分の方が大きい。

最近の経済関連のニュースはほぼすべて良い内容か、少なくとも予想を上回っている。米国では住宅価格が2006年以来で最大の上昇を示し、失業は減り、消費者信頼感指数は金融危機前の水準に戻った。

日本は近年では最も良好な成長を享受しており、消費の高まりと賃金上昇の兆しが増している。欧州ですら、政策が財政引き締めから成長重視に転換し、欧州委員会が各国に財政赤字目標の押し付けを止めたことで、見通しが改善しているようだ。一方、欧州中央銀行(ECB)は中銀預金金利のマイナス化など、非伝統的な景気刺激策をさらに講じる可能性を示唆している。

それなのに金融市場ではボラティリティが急上昇して年初来で最高となり、パニック状態にすら陥った。

米国株は28日にいったん過去最高値を付けたものの、その後はすぐに急落。日本株は2011年の東日本大震災時以来で最大の下げ幅を記録した。最も重要なのは世界各地で起きた債券相場の下落であり、米国や日本、欧州の大半の国では長期金利が1年強ぶりの水準に上昇した。

何が起きているのだろうか。

手掛かりとなるのは金利と債券の市場で発生した直近の混乱だ。株価は日米欧の債券利回りと何がしかの相関関係を持つため、債券価格の急落は株式投資家を怖気づかせた。金利のボラティリティの高まりや株式市場の乱高下に対する恐怖感は、金融以外の分野でも消費者や企業経営陣にすぐに伝染する可能性がある。

こうした恐怖感は3つの疑問を呼び起こす。金融市場に突然の不安を引き起こした原因は何か。懸念は正当化できるのか。政策当局者は市場を鎮静化させるため、もしくは金融市場の混乱と消費や企業投資、雇用など非金融分野の連動を絶つため、手を打つべきか否かということだ。

意外なことに、これらの疑問に対する答えは明快だ。ボラティリティの急上昇がFRB、特にバーナンキFRB議長の22日の議会証言とその数時間後に公表された連邦公開市場委員会(FOMC)議事録によって引き起こされたという主張にはほとんど異論はない。

私は先週のこのコラムでこう論じた。バーナンキ議長は証言で何も目新しいことは述べておらず、FRBは失業率が6.5%に低下するまで景気刺激を継続するという方針を繰り返しただけだと。しかし市場はまったく異なる受け止め方をし、FRBが早ければ6月の実施に向けて資産買い入れ縮小を準備していると考えた。

市場の考え方に確実な証拠はなく、実際のところバーナンキ議長は他の複数のFRB当局者同様に、景気回復の勢いが確固たるものとなる前に資産買い入れを撤収する危険性を強調したのだ。

しかし多くの投資家やメディアのアナリストは、先週私が論じた社会心理学的な理由などにより、納得しなかった。そしてさらに重要なことに、今週に入ってさらに別の心理学的な要因が加わった。バーナンキ議長発言後の債券市場の乱高下自体が、議長発言には重大な新しい情報が含まれているに違いないと投資家に信じ込ませたのだ。相場の変動が大きくなればなるほど、議長の言葉からはそんなことはまったく読み取れないのに、市場はFRBの意図について「何か知っているに違いない」と思い込む投資家が増えた。

こうしたフィードバックはジョージ・ソロスの言う「再帰性」、つまり正当化され得るかどうかにかかわらず、市場の期待が経済の現実を変え、期待通りの現実を成立せしめる能力の模範例だ。

ここから私の2つ目の問いが持ち上がる。金融面の景気刺激策が近い将来に縮小されたり、撤回されると信じる理由があるかという問いだ。2つの大きな理由から、それは疑わしい。1つ目は、バーナンキ議長や他のFRB当局者は、資産買い入れ縮小の検討は成長の勢いや雇用創出に確信が持てるようになってからだと繰り返し表明している。こうした判断に至るには、少なくとも6カ月間にわたる力強い雇用の増加か、2四半期連続の国内総生産(GDP)の堅調な伸びが必要となる。3月分と4月分の統計がまちまちだったことを考えると、今年第4・四半期前にこうした継続的な強い数字が得られるのは文字通り不可能だ。

2つ目に、日本と欧州はどちらも緊縮財政モードを転換したばかりで、FRBが資産買い入れの縮小に着手した後も景気刺激を継続するのは確実だ。日米欧の中央銀行の取り組みを合わせて考えると、世界の金融環境が少なくとも今後1年程度、引き締まるのではなく緩和するのはほぼ間違いない。

つまりほぼ確実に、金融引き締めに対する市場の恐怖には正当な根拠がなく、少なくとも時期尚早だ。そうであるなら、最近の株式・債券市場の波乱について、ましてや市場沈静化について気に掛ける必要などがあるのだろうか。

残念ながら答えは「イエス」。金融市場と現実の経済を結ぶ「再帰性」の相互作用があるからだ。世界経済は回復の勢いを増しているが、まだ足元が固まっておらず、重篤な金融ショックには耐えられない。もし数カ月以内に株価が急激に下落したり長期金利が一段と大幅に上昇すれば、消費者信頼感や設備投資、住宅などはいずれも打撃を受け、財政赤字は再び拡大し始めるだろう。要するに金融ショックが世界経済に影響を与え、実体経済が悪化し、当初の金融ショックが正当化されるような事態になり得るということだ。

こうした自己実現的な下方スパイラルを回避するため、すべての主要国の中央銀行や政府は、金融環境が引き締まらないことを明確に伝える必要がある。そして投資家に対し、長期金利のゆっくりとした上昇は世界経済の正常化に伴う健全な動きだと告げる一方で、中銀はいざとなれば金利の過度の変動や金融市場の急激なボラティリティ上昇から経済を守るべく、無限の資金供給力を備えていることを思い起こさせるべきだ。

*アナトール・カレツキー氏は受賞歴のあるジャーナリスト兼金融エコノミスト。1976年から英エコノミスト誌、英フィナンシャル・タイムズ紙、英タイムズ紙などで執筆した後、ロイターに所属した。2008年の世界金融危機を経たグローバルな資本主義の変革に関する近著「資本主義4.0」は、BBCの「サミュエル・ジョンソン賞」候補となり、中国語、韓国語、ドイツ語、ポルトガル語に翻訳された。世界の投資機関800社に投資分析を提供する香港のグループ、GaveKal Dragonomicsのチーフエコノミストも務める。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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