June 5, 2013 / 7:37 AM / 6 years ago

焦点:トルコ強権首相が踏みこむ「タブー」、国民の怒りは頂点に

[イスタンブール 2日 ロイター] - トルコで発生したここ数十年最悪とも言われる一連の暴動の発端は、イスタンブールにある小さな公園の再開発計画だった。当初は再開発に反対する4人だけの小さなデモだったが、やがてそれは強権的なエルドアン首相に対する抗議運動となり、全国へ広がっていった。

6月2日、トルコで発生したここ数十年最悪とも言われる一連の暴動の発端は、イスタンブールにある小さな公園の再開発計画だった。写真はエルドアン首相。アンカラで2010年撮影(2013年 ロイター/Umit Bektas)

10年以上権力の座に居座るエルドアン首相率いる与党・公正発展党は、選挙のたびに得票数を伸ばし、かつてない安定的な政権運営と、欧州で最も早いペースの経済成長を遂げてきた。

最後の任期に入った首相は、憲法改正や古くからのイスタンブールの町並みを一新する大規模プロジェクトに着手するなど、自らの功績を残そうと躍起だ。

その一方で反対派は首相がメディアに圧力をかけたり、政教分離を定めた憲法に反してイスラム化を進めるなど、強権的な色彩を強めているとして批判している。

<4人から全国規模のデモへ>

デモの発端はイスタンブール市内にあるタクシム広場に隣接するゲジ公園の取り壊しが決まったことだった。政府は公園を取り壊し、19世紀のオスマントルコ時代の兵舎を模した建築物を建設する再開発計画を立てた。首相によると1階にはショッピングセンターか博物館を入れ、上階は高級共同住宅にするという。

しかしイスタンブールは公園の面積が少なく、「ワールド・シティーズ・カルチャー・レポート」によると、市内全域の1.5%を占めるに過ぎない。ゲジ公園は市内に残された、わずかな緑地である。

道路拡張のため樹木が伐採されそうになると、たった4人のグループが抗議の声を上げた。それが先週、ついに全国規模のデモに拡大した。ボスポラス大学のBetul Tanbay教授は「公園の存廃についてさえ市民に相談がないのでは、もはやこの国は民主主義国家とはいえない」と批判する。

ほかにもトルコ政府は30億ドル(約3000億円)の予算を投じてボスポラス海峡に橋をかけたり、100億ドルを投じてイスタンブール市内に大規模な運河を建設を計画するなど、さまざまな開発事業を進めている。首相に批判的なグループは、多数の大規模開発は国内の諸問題から目をそらすためだとしている。

<タクシム広場はトルコ史の象徴>

とりわけタクシム広場はトルコ国民にとって特別な意味合いを持つ場所である。イスタンブール市内にあるほかの広場がオスマントルコ帝国の神々しさを漂わせているのに対して、タクシムは1923年に共和制に移行し、政教分離が取り入れられたことへの敬意が示されている。また1977年には、メーデーの集会中におよそ40人の左派メンバーが虐殺された事件の現場ともなった。

「タクシム広場には様々な階層にとって重要な意味を持つ」と話すのは建築士協議会のEyup Muhcu氏。デモ発生前に行われたインタビューでMuhcu氏は「社会の合意形成なしにタクシム広場にブルドーザーを入れることは、イスタンブールだけではなく、トルコ全体にとって重要な場所を傷つけるものだ」と指摘した。

抗議活動が勢いを増すにつれ、首相の態度は硬化していった。判事がより多くの証言を集める間、再開発計画を差し止める処分を裁判所が出したにもかかわらず、これを公然と無視する対応に出た。首相は現在のトルコ共和国建国の父であるムスタファ・ケマル・アタチュルクに捧げられた公会堂を取り壊し、代わりにモスクを建設することを発表したのだ。

タクシム広場にモスクを建設する計画は40年ほど前から持ち上がっていたが、十分な支持を得られず、ずっと宙に浮いたままの状態だった。首相は「有権者が私に投票した時点で許可は得られている」として、反対派の了解を取り付ける必要はないという姿勢を示した。

モスク建設は10年前であれば夢想だにしなかったことであろう。自らを世俗主義の擁護者と位置づけるトルコ軍は、これまで3度のクーデターを起こすなど、度々、時の政権に介入してきた。

ところが首相は高い支持率を追い風に、過去の政権や自身に対するクーデターの容疑で、軍の高官を次々と訴追、投獄していった。その結果、首相は宗教色をより強く打ち出すことができるようになり、それがトルコ国内に広く反映されていった。

<宗教保守色を強めるトルコ>

世俗主義を掲げるトルコが、より宗教色を濃くしている。トルコの議会はアルコールの販売を規制する法案を成立させた。首相は法律の主旨がイスラム教の教えに基づくものであることを認めている。また著名なピアニストと作家が、ツイッターで「神を冒涜する発言」を行ったとして有罪判決が言い渡された。先月には、首都アンカラで、イスラム教の教えに基づく道徳観の押し付けに反対する200人の男女がキスをするというイベントが行われたが、ナイフを持ったイスラム主義の集団に襲撃され、1人が刺される惨事となった。

デモに参加した25歳の女性は、首相の好きなようにさせていたら、自分は頭にスカーフを巻かなくてはならなくなるだろうと、イスラム色の強い首相に警戒感をにじませた。さらにこの女性は「(首相と)異なる意見は無視されている。だからデモに参加している」と語った。

一連のデモはエルドアン政権に大きな衝撃を与えていることだろう。与党・公正発展党は過去数十年にわたり、選挙で最大得票を手にしている。

任期の最初の半分は、欧州連合(EU)加盟を目指して政治改革に取り組んだ。クルド人に権利を与え、少数派の宗派に自由を与え、公の議論は盛んになった。

反政府デモが広がっているにもかかわらず、首相はトルコで最も高い支持を誇る政治家だ。与党にも野党にも首相の対抗馬となりえる人物が見当たらないためだ。

2008年頃から、政府に異を唱える数千人もの人々が投獄された。投獄されたのは、大学生や学者、弁護士、クルド人活動家、軍高官、そして極右団体のリーダーなど、多岐にわたる政治的階層が含まれる。

首相はデモ参加者を扇動しているとして野党の共和人民党を非難している。だが実際には環境保護主義やナショナリスト、さらには極左勢力まで幅広い政治勢力がデモに参加している。

そして首相は憲法を改正し、現在は名誉職の色彩が濃い大統領に強大な権限を与えようとしている。

新聞のコラムニストKadri Gursel氏は、権力の均衡を保つ反対派もなく、メディアの抑制もない政権のたがが外れるのはたやすいことだ、と指摘する。Gursel氏は「権力の抑制と均衡なしに、穏健なイスラム主義と民主主義の両立はありえるのか。トルコでの実験は、その問いに答えを出した」と述べた。

反対派を次々と投獄してきた首相だが、自らもイスタンブール市長だった1990年代、詠んだ詩が「イスラム的だ」として短期の服役刑を言い渡された過去を持つ。

自らを敬虔(けいけん)なイスラム教徒だと話す30代の男性も、デモに参加した1人だ。自らも圧政に苦しんだ経験を持つエルドアン氏なら、抑圧されている人たちを救うことができると思い、かつては首相を支持していたという。しかし権力に就いて首相は圧制者になってしまった、とこの男性は嘆く。「首相は私たちの宗教心を食い物にしているだけだ。首相は傲慢という罪を犯したのだ」

(原文執筆:Ayla Jean Yackley記者、翻訳:新倉由久、編集:梅川崇)

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