June 17, 2013 / 9:18 AM / 7 years ago

インタビュー:「京」後継機で世界トップ級のスパコン必要=理研・井上氏

[神戸 17日 ロイター] - スーパーコンピューター「京」の開発キーマン、理化学研究所計算科学研究機構の井上愛一郎・統括役はロイターのインタビューに応じ、「地球温暖化などいろいろな問題が起きている中で、人類が地球上で生き延びるために、スパコンはなくてはならない道具だ」と語り、開発継続の意義を強調した。

毎秒1京(1兆の1万倍)回の演算能力を持つ京は、2011年6月と同11月に世界一を達成したが、その後、世界3位に後退。17日には中国の「天河2号」の世界一が発表され、京は4位に順位を下げた。日本政府は、京の100倍の性能を持つ後継機を20年をめどに稼働させることを目指す方針で、理研は開発候補に挙がっている。

井上氏は後継機について、「世界トップクラスを目指さないと、最先端のアプリケーションの成果が期待できない。(世界から遅れると)スパコンの、ではなく産業競争力に影響する」などと語り、世界のトップ集団に留まるよう官民で注力すべきとした。同氏はまた、日本のスパコン開発は、軍事目的がある米国や中国とは一線を画して、平和利用に存在意義があるとの考えを示した。

インタビューの主な内容は次の通り。

──京の開発では、事業仕分けで民主党の蓮舫参議院議員による「2位じゃだめなのか」という問いかけが有名になった。どれだけ低コストで作るのかというのも性能の一つでは。

「京の開発費は、2006年から12年6月までの足掛け7年で1111億円。定常的な予算(邦貨で年間1500億円程度)を計上するアメリカに比べ、1年間にならすと日本の投資額は小さい。アメリカにおける継続的な取り組みに比べると、(日本は)どうしても弱さが出る」

「CPU(中央演算処理装置)からOS(基本ソフト)、ミドルウエア、アプリケーションまで含めて国産でできるのは日本とアメリカだけ。中国は、自国で全て開発するマシーンと、アメリカから(部品を)買ってきたものを並べるマシンを両方、開発していて、純国産でできるようにしたいと思っているようだ。米中では(スパコン開発は)国家安全保障の領域。日本だと(政治家や国民の)賛同を得ないと国のカネも出ない」

──NEC(6701.T)と日立製作所(6501.T)が2009年に京の開発から離脱したが、当時は両社とも経営状況が良くなかった。(富士通(6702.T)を含む)日本のスパコン開発を担ってきた3社で事業の「選択と集中」が続く中で、研究開発投資は国が負担すべきか、民間がもっと頑張るべきか。

「スパコンは常に新しい概念が出てくる。5年後、10年後にどうなるかわからない。企業に1000億円規模の莫大な投資ができるかといったら、今後も無理だと思う。ただ、ある程度の将来像を描いて、(官民で)一緒に本来もっと進めていくべきではないか。やがては民需として市場が活性化され、京を開発した富士通(理研と共同開発)にも還元されていくような形になれば理想的だが、そうしたサイクルに入れていないのが実情だ」

──スパコンで世界一を達成することも大事かもしれないが、それを使い尽くすことも重要だ。京はどれくらい使われているのか。

「システム全体が動いている稼働率は97%くらい。(全体で約9万個ある)CPUが実際に動いている時間の割合は7―8割になる。24時間稼働の中でCPUの使用率が高い状態で、大規模なシステムが安定して動いているということ、これはインフラに求められる条件といえる」

──京ではないとできない計算とは。

「(京活用の)戦略5分野というのがある。医療・創薬もその中の一つ。よく引き合いに出すのが『心臓シミュレーター』。人間の心臓を再現するようなシミュレーションを京の上で実行して、新しい知見を見つけるというもので、最適な手術を個人ごとに準備することができる。これは臨床応用に向かって進みつつある」

──政府は、2020年稼働を目指して京の100倍の演算能力を持つスパコン次世代機を開発する方向だ。

「まだ(正式な)オーソライズの手前の段階だが、ポスト京のマシーンを開発する候補として理研が挙がっているのは確か。20年に1エクサ(10の18乗=100京)というのは、いまのトレンドを伸ばしていけば見えている。このトレンドから外れると、間違いなく(日本の)地位は低下する。トップクラスを目指さないなら、最先端のアプリケーションの成果は期待できない。5年後、10年後に普及したときに、スパコンの、ではなく産業競争力に影響する」

「(後継機の開発で)トップクラスと言っているのは、アプリケーションでの成果に重点を置いた上でのはなし。世界一の成果を出せるインフラにしたい。地球温暖化などいろいろな問題が起きている中で、スパコンしか解く道具はない。人類が永らく生き延びるためには、スパコンはなくてはならない道具になる」

──将棋の現役プロ棋士がコンピューターとの対局で敗れたニュースが話題になった。そう遠くない将来に、人工知能が人類の能力を抜かすだろうと主張する声も聞かれる。

「人間には到底達成しえないような冷静、的確な判断はコンピューターのほうが遙かに上になる。それを実証したのが将棋の例だ。いろいろな定石をコンピューターに覚えさせて大局的な判断ができるようになった。分野を特定すればコンピューターのほうが能力が上だ」

「(核兵器の管理用にも使わる米スパコンの)セコイアは、核のカーテンの向こうに消えていたと言われている。京の利用は、(誓約書を求める)平和利用だ。日本では超高齢化が進み、経済力、産業競争力の凋落がすさまじい。これをもう一度持ち上げるための道具、インフラとしてスパコンのニーズがあるという点で、日本は最右翼になる。世界がびっくりするような成果を出して広げていきたい」

井上愛一郎氏:1980年東大工学部船用機械工学科卒、1983年富士通入社。2008年に同社次世代テクニカルコンピューティング開発本部長に就任、同社と理化学研究所が共同開発した「京」の開発を指揮。12年富士通フェローを経て、13年から現職。今春、紫綬褒章を受賞。

(インタビュアー:浜田健太郎 インタビューは6月14日)

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