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コラム:米経済は尻上がりに改善、ドル再び100円も=竹中正治氏
2013年6月20日 / 09:28 / 4年後

コラム:米経済は尻上がりに改善、ドル再び100円も=竹中正治氏

世界の投資マネーは乱気流局面に入っているようだ。BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)は経済成長率が低下し、株価動向も冴えない。とりわけ中国は官民の各層で膨張した不良・不稼働資産と過剰債務の両建ての累積に苦しむことになるだろう。

ユーロ圏は不況で失業率が上昇トレンドを辿っている。日本は実体経済の回復が持続しているが、株価と円相場が不安定だ。こうしたなか、実体経済の回復と資産価格(株価と住宅)の上昇基調が唯一続いているのが米国である。

おそらく来年にかけて米国経済は尻上がりに良くなる。そうした変化を反映して、19日の連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文とバーナンキ連邦準備理事会(FRB)議長の記者会見では、「経済活動が穏やかに改善している」というこれまでの基調判断に「景気と労働市場の下振れリスクは昨年秋以降減少してきた」との一文が加わった。

もしも米国経済が今年失速すれば、世界経済全体に再び暗雲がたれ込むことになる。そのようなリスクはゼロではないが、杞憂に終わる公算が高い。これまでの様々な悲観論の流布にもかかわらず、リーマンショック後に米国経済が辿っている軌跡は、1990年以降の日本のそれとは明らかに違う。そうした事情を以下に確認してみよう。

<米国の再バブル突入は現状では杞憂>

まず家計のバランスシートのマクロ的な改善に注目しよう。家計(含むNPO)の総資産から負債を引いた純資産は2013年3月末で70.3兆ドルとなり、08年の危機前のピークである07年末の66.9兆ドルを3.4兆ドルほど上回った。

家計純資産はリーマンショック後の08年末には54.2兆ドルと07年末のピークから12兆ドル余りもへこみ、これが家計のバランスシート調整、つまり貯蓄率の上昇(消費性向の低下)を起こしたわけだが、そうした状況はすでに過去のものとなっている。また負債に注目しても、家計負債の可処分所得に対する比率は1.13倍まで低下した(ピークは07年1.37倍)。これは住宅バブル前の02年の水準(1.09)に近い。

こうした家計のバランスシート改善は、家計の貯蓄(含む債務返済)や負債の清算(金融機関の貸倒償却)に加え、株式と住宅を中心にした資産価格の上昇に支えられたものである。「米国はすでに再バブルへの道を歩んでいるのでは」と思う方もいるだろうが、以下の理由で現状では杞憂だろう。

まず住宅価格のバブル度は、住宅価格を家賃で割った指数(筆者はPrice Rent Ratio、略してPRRと呼んでいる)で判断できる。PRRの上昇は住宅価格の割高方向への変化であり、下落はその逆である。米国の主要都市部の住宅価格動向をカバーするS&P/ケース・シラー指数を家賃指数(消費者物価指数の一部)で割ったPRRは06年にバブル的なピークをつけた後、大幅に下落し、現在は87年以来の平均値とほぼ同じ水準、つまり割高でも割安でもない中立的な水準にある。

今年3月末のS&P/ケース・シラー指数(10都市部対象)は、前年同月比10.2%上昇した。この上昇速度は高過ぎであり、今後は鈍化しよう。ただし、米国は年間約300万人も人口が増える人口逓増経済(増加率で年率1%弱)である。08年以降住宅投資が大幅に落ち込んでいた結果、需給関係は好転し、今後当面は住宅投資、価格ともに堅調に推移するだろう。また、株価についてはS&P500の平均株価収益率(PER)は18.8倍であり、これは80年以降の平均値20.5よりも低い。

13年の米国経済の見通しについては、「財政の崖」に関する議会合意に伴う増税(給与税減税の失効と高所得層の所得税率引き上げ)と強制歳出削減の結果、政府部門が実質国内総生産(GDP)成長率の寄与度で見て大きくマイナスになる。このため13年についてはこれまで2%以下の成長率を見込む予想が主流だった。実際、今年第1四半期の実質GDP成長率2.4%(年率換算)の内訳で見ると、政府部門の寄与度はマイナス1.0%に及んでいる。

財政赤字の縮小のために増税と歳出削減はいずれにせよ不可避であるが、資産価格の堅調な伸びに支えられた個人消費の押し上げ効果(プラスの資産効果)で、政府部門のマイナス寄与度は第2四半期以降ある程度相殺される可能性が出てきている。

<資産効果が個人消費を押し上げる>

そこで、現在の資産価格の推移がどの程度個人消費を押し上げているか推計してみよう。個人消費の変化は、個人所得の変化と資産価格の変化(資産効果)に分解できるので、次のような回帰分析を行った。

被説明変数として個人消費支出の変化(前年同月比)、説明変数として個人所得の変化(前年同月比)、住宅価格の変化(S&P/ケース・シラー指数の前年同月比)、株価の変化(S&P500月末値の前年同月比)の3つを設定し、05年から13年4月の期間を対象に回帰分析を行った。

回帰結果はいずれの変数についても有意であり(すなわち統計上偶然ではない)、説明度を示す決定係数は0.89と高い。これは対象期間の個人消費の変化の89%は、上記3つの変数の変化で説明できることを意味する。

個人消費支出の変化に対する影響度が最も高いのは、当然ながら個人所得の変化である。次に影響度が高いのは住宅価格の変化であり、住宅価格指数の前年同月比10%の上昇は個人消費支出を0.54%押し上げる。また、株価指数の10%の前年同月比の上昇は個人消費支出を0.29%押し上げると推計された。

こうした個人消費支出の動向を示したのが、下の掲載図表である。灰色の線が個人消費支出、黄色の線が個人所得の前年同月比の推移である。個人所得が12年12月に一時的に大きく跳ね上がっているのは、高所得層への減税が停止される直前の昨年12月にボーナス支払いと配当支払いの駆け込みがあったためと考えられる。

青線は回帰分析による個人消費支出の推計値である。上記の12年12月の個人所得の上振れは一時的なものであり、実際の個人消費支出はそれにほとんど反応していないが、推計値は反応して計算されるので、一時的に上振れている。それを除くと、個人消費支出の推計値は現実の変化をよく説明しており、目先個人消費が上向く可能性も示唆している。

赤線が推計値の内訳から資産効果(住宅と株式)部分を抜き出したものであり、リーマンショックの年の08年から09年後半までマイナスとなった後、10年にプラスに転じたが、住宅価格が再度低迷した11年はほぼゼロ近辺となっていた。ところが12年後半から再びプラスに転じ、足元の13年は0.8―1.0%ほど個人消費支出を押し上げている(プラスの資産効果)。

13年第1四半期の実質GDP成長率2.4%に基づいて、この資産効果の規模を考えてみよう。同期間の政府部門の支出は前年同期比でマイナス2.3%、個人消費支出は前年同期比でプラス2.1%だった。米国の個人消費支出の規模はGDPの約7割を占め、政府部門支出の4倍である。したがってプラス1%の正の資産効果による個人消費支出の押し上げは、今年の第2四半期以降の政府部門支出がマイナス4%になってもそれを相殺し得ることになる。

<「化石燃料再革命」の中心に米国>

連邦政府の財政赤字問題は依然長期にわたるリスク要因ではあるが、今年5月に発表された議会予算局(CBO)の長期財政収支予測では、連邦財政赤字はGDP比率で12年度のマイナス7.0%から、13年度マイナス4.0%となり、15年度にはマイナス2.1%まで縮小する。もちろん、CBOの財政見通しは現行の法的処置が予定通り発動されて、歳出の削減や減税の停止が実行されることを前提に計算されているので、政治動向次第で赤字が上振れる可能性は十分にある。

連邦財政収支のさらなる改善のためには公的医療保険制度を中心とする赤字削減、並びに増税が必要であるが、政府債務が膨張・発散するリスクシナリオは回避可能であることが見えてきている。そうした事情を反映して、今月10日に格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、米国債の長期格付け見通しを「ネガティブ(弱含み)」から「安定的」に引き上げると発表した(格付け自体は最上位から2番目の「ダブルAプラス」)。

米国の対外不均衡の動向に目を転じると、06年にGDP比率で6%を超えた経常収支赤字は、リーマンショック後に半減した。過去1年間はGDP比率で2%台後半の推移である。詳しい説明は省略するが、この水準は米国の対外負債の持続可能性に長期的にも懸念を引き起こすものではない。

さらに長期的には、「シェール・ガス&オイル」の急速な増産によるエネルギー革命の進展が米国の産業構造と成長力にポジティブな変化をもたらすだろう。日本政策投資銀行の今年2月のレポートによる予測では、米国は天然ガスの生産では15年から20年代末にかけてロシアを抜いて世界最大の産ガス国となり、17年から20年代半ばにはサウジアラビアを抜いて世界最大の産油国になるという。

21世紀は原油生産がピークアウトし、化石燃料大量消費時代の終焉になるといわれた10年前までの近未来観とは反対に、どうやら21世紀は「化石燃料再革命」の時代となりつつあるようだ。その中心に米国がある。

一方、米国における所得や資産格差の拡大については、たとえばノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ教授による近著「The Price of Inequality」(2012年)での警鐘、すなわち米国では経済的な格差の拡大が、将来の経済成長や民主主義的な政体の維持を危うくするという主張を私は尊重している。しかし、格差問題の現状が中期的な視座で成長を損なうほどであるとは思っていない。

<波乱があっても一時的>

19日のFOMC声明文とバーナンキ議長の記者会見では、「今後の経済データが現在の我々の見込みと概ね一致する場合には」、現在の量的金融緩和のための債券購入額は今年の後半から減じ、来年半ばまでには停止されるのが妥当だという方針が述べられた。これに反応して、直後の金融・投資市場ではとりあえず債券売り、株売りの動きとなった。今後債券については価格下落(利回り上昇)基調となろうが、景気回復が持続する限り株価の堅調基調が大きく崩れる公算は低い。

今後起こり得ることと類似すると思われる過去のパターンとしては、94年の例がある。同年、景気の回復とインフレ率の上昇を背景に金融緩和政策が終了し、フェデラルファンド金利が3%から6%に引き上げられた。この時は金融機関や投資家は金利上昇に対して不用意な状態にあったため、長期債券価格の急落などで大きな損失を抱えた。株価も94年3月に反落局面があった。しかしそれは一時的で、実体経済の回復は持続し、株価も95年から目立った上昇基調となった。今回FRBは94年当時よりはずっと慎重に量的金融緩和の段階的な縮小、終了を行うはずである。

結論として米国経済は順風下にある。今年の実質GDP成長率は通年2%台に乗り、来年は3%前後となるだろう。ドル円相場について言えば、前回のコラム「この先のドル買いはハイリスク・ローリターン」(here)で警鐘を鳴らしたが、100円超えの水準で一段の円安・ドル高予想に煽(あお)られて、損失を被った方々も少なくないようだ。しかし、今年の後半には再度100円前後の円安・ドル高のチャンスがあるかもしれない。

*竹中正治氏は龍谷大学経済学部教授。1979年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、為替資金部次長、調査部次長、ワシントンDC駐在員事務所長、国際通貨研究所チーフエコノミストを経て、2009年4月より現職、経済学博士(京都大学)。新著に「稼ぐ経済学 黄金の波に乗る知の技法」(光文社)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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