[ニューヨーク 22日 ロイター] - 「シートベルトを締めろ。相当な乱気流を予想しろ」──バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長が連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見で緩和策の縮小に近く着手する可能性に言及した時に伝えようとしたメッセージがこれだったとしたら、投資家はしっかり受け止めたと言えるだろう。
昨年秋の量的緩和発表後は落ち着いていた市場は、議長の発言で一変。世界的な株、債券、コモディティ(商品)売りは、一部から、新たな振れの激しい秩序ない取引局面の幕開けとの声も出た。
上場投資信託(ETF)を運用するプロシェアーズの資本市場部門責任者ステファン・サックス氏は「市場が再びシフトし始めた時、秩序だった動きになることはほとんどない。ドットコムバブルが崩壊した時や、金融危機が最も深刻化した時の株価急落が良い例」と指摘し「荒い動きになるのが普通。今度は金利でそれに直面することになる」と述べた。
確かに、バーナンキ発言がもたらした金融市場動揺の震源は債券市場だ。FRBの金融緩和で過去最低になっていた指標金利は、ほぼ2年ぶりの水準に上昇した。2014年半ばまでにFRBの債券買い入れが終了する可能性をトレーダーが視野に置いた今、一段の上昇が予想されている。
東京からサンパウロまで、FOMC後の市場の動揺は大きかった。世界の株式市場では20日だけで1兆ドルが吹き飛んだ。
バーナンキ議長が5月下旬に緩和縮小の可能性に言及していたことから、FOMC後の市場の激しい動きに驚く向きもなかにはいる。それでも、その週に長期金利が10年超ぶりの大幅な上昇となったことに、投資家は冷や水を浴びた思いだったはずだ。
フォート・キャピタルの株式シニアアナリスト、キム・フォレスト氏は「人は常に現実から目をそらして生きている。金利はいずれ上がらざるを得ないと頭では分かっていても、それが現実のものになった、と言われる用意ができていない」と語った。
フォレスト氏の指摘が当てはまるのが、資金調達コストの上昇に直面している企業や、低コストで取引資金を調達していた投資家だ。
これまで投資家は、安定した低金利の米債市場で資金を調達し、よりリスクの高い市場に投資してきた。しかし米債利回りは上昇し、振れが激しくなっている。こうした状況は少なくとも当面続くとみられている。
ルーミス・セイレスのダン・フュス副会長は、現在のような激しい動きを目の当たりにすると人は神経質になり、それがさらなる売りを呼ぶと指摘した。
いつまでもFRB追随型トレードを続けたいと考えていた債券投資家は、さらに厳しい状況に直面している。ロード・アベッットの債券ストラテジスト、ゼーン・ブラウン氏によれば、金利がよりノーマルな水準に戻ろうとすることで、代表的な米債の指数(バークレイズUSアグリゲート債券指数)をベンチマークとしている投資家は今後5年間、トータルリターンがゼロとなる見通しという。
トムソン・ロイター傘下の投信情報会社リッパーによると、課税債券ファンドからは6月初からの3週間で151億ドルの資金が流出した。3週間の流出額としては、金融危機が最高潮だった2008年10月以来の高水準となった。
<超敏感>
こうした状況で投資家は荒れる夏を予想し、急きょ守りの態勢を固め始めた。
バーナンキ議長が初めて緩和縮小に言及した5月下旬、金利先物取引は過去最高に膨れ上がったが、FOMC翌日の20日も再び活発化した。
S&P総合500種指数オプションの取引も20日に過去最高を更新した。
バーナンキ議長は、債券買い入れ縮小の条件として景気の持続的回復を挙げた。このため、トレーダーは、今後市場がほぼすべての経済指標に一喜一憂する展開を予想している。
オンライン証券TDアメリトレードのチーフストラテジスト、J.J.キナハン氏は「オプション市場で保険を買う動きがみられる。市場は、FRBが言うことに超敏感になり、雇用、小売売上高、住宅に関する指標がずっと注目材料になる」と述べた。
高ければ高いほど株式投資家の不安心理が高いことを意味するCBOEのVIX指数.VIXは20日、23%も上昇し、投資家心理の節目とされる20を今年初めて超えた。
オプション市場では、これまで好成績をみせていた新興国アセットに対する懸念も出ている。アイシェアーズMSCIエマージングマーケッツETF(EEM.P)に関する20日のオプション取引は82%がプットだった。
米国債市場の変動を予想するメリルリンチのMOVE指数.MERMOVE1Mは21日、103.7に上昇した。同指数は5月初め、数年ぶりの低水準50だった。
FRBが緩和策の扱いをめぐってもたらした不確実性は、昨年終盤以来、ほぼ途切れることなく続いた市場上昇を終わらせ、投資家や市場に問題を生じさせている。
荒い値動きは、投資家を大きな損失にさらされやすくする。このため投資家は、一定期間に予想されるポートフォリオの損失を示すVaR(バリュー・アット・リスク)を低くするために資産を急いで売ろうとする。ある市場でその動きが十分過ぎるほど高まると、別の市場に移る。やがて世界の市場に伝播することは想像に難くない。
それが5月下旬の債券・株売りをもたらした原動力と、HSBCのG10為替戦略責任者のボブ・リンチ氏は指摘する。さらに「現在の環境で金融資産を下落させる重要な要因になり得る」という。
一方RCMウェルス・アドバイザーズのポートフォリオマネジャー、マイク・トサウ氏は「市場のFRBに対する反応が単なるノイズなのか、それとも米株を大々的に売る動きなのか、まだ見極められる段階にない」とみている。「この1カ月、われわれは株式市場から資金を引き揚げてきて、とりあえず現金で持っている。来週初めに、今が株の買い場か様子を見るべきか検討する予定」と述べた。
(Steven C. Johnson、Doris Frankel、Gertrude Chavez-Dreyfuss、Jonathan Spicer、Herbert Lash記者;翻訳 武藤邦子;編集 田中志保)