September 12, 2013 / 5:54 AM / 6 years ago

コラム:大連から見える新興国の風景=カレツキー氏

アナトール・カレツキー

9月11日、世界経済フォーラムが毎年中国で開くようになった「夏季ダボス会議」の出席者らは、上から見下ろすのではなく、東から横目で世界を見ている。写真は中国の李克強首相。チャイナ・デーリー提供(2013年 ロイター)

毎年冬にスイスアルプスで開かれる世界経済フォーラム年次総会議(ダボス会議)で、出席者は上から世界を見下ろす。標高が高いという地形的理由だけでなく、象徴的な意味でもそうだ。

米国の政治科学者サミュエル・ハンティントン氏が「ダボス・マン」と名付けた世界のジェットセッターらを特徴付けるのは、高所得、高い地位、高尚な修辞なのだから。しかし私は今週、まったく異なる見地からダボス・マンの「亜種」を発見した。世界経済フォーラムが毎年中国で開くようになった「夏季ダボス会議」の出席者らは、上から見下ろすのではなく、東から横目で世界を見ている。この視点の変化は、私のように頻繁にアジアを訪れる者にとってさえ画期的だ。私のような人々も、東のエリート層の希望と懸念にこれほどどっぷりつかる経験は珍しい。

大連で今週開かれているダボス会議で最も驚いたのは、数カ月先についても非常に長期的な視点でも、経済見通しをめぐる意見が東西でかけ離れていることだ。西側エコノミストは概して、発展途上国全般、中でも中国は、早ければ来週の米連邦公開市場委員会(FOMC)で米金融緩和の縮小が始まろうという情勢下、深刻な金融危機を恐れているはずだと信じている。新興国は米連邦準備理事会(FRB)の供給する安価な資金を利用して過剰な投資と借り入れを行ってきたが、今度は欧米が5年前に経験したのと同様の厳しいデレバレッジ(資産圧縮)に直面する、というのが一致した見方だ。デレバレッジは翻って、新興国経済の栄光の日々の終わりを意味し、おそらく中国を含む大半の新興国は、多くの発展途上国のさらなる発展を阻んできた「中所得国の罠」を決して抜け出せないかもしれない。この罠は、1人当たり所得が1万ドル程度を超えると成長の足かせとなりはじめ、西側の生産性に追いつくための明白な機会の多くが使い果たされる。国際通貨基金(IMF)によると、中国の1人当たり所得は9160ドルだ。

私は今週中国を訪れるに当たり、発展途上国経済に対する最近の風向きの変化と、その結果として大半の新興国が今年経験した債券、株式、通貨の急落について議論が集中すると予想していた。そして実際、大連においても、それに先立ち深センで清華大学とインステテュート・フォー・ニュー・エコノミック・シンキングが主催したセミナーでも、西側の出席者の発表は、破滅的な債務増大と危険なまでに持続不可能な投資バブルへの警告一色だった。

しかし驚いたことに、深センの中国人エコノミストらは西側の警告などどこ吹く風といった風情で、環境、統治、国民の健康といった問題や、金融市場設計の詳細についての議論に専念したがっていた。大連でも金融面での警鐘は奇妙なほど聞こえず、他の発展途上国のスピーカーは、債務管理よりも人口、教育、統治、汚職、銀行規制、競争、エネルギー、都市計画といった構造問題の方が優先課題だという点で、中国の出席者に同調した。

トルコといえば、バーナンキFRB議長が緩和縮小を示唆してから厳しい金融波乱の犠牲になったとの見方が一般的だが、同国のババジャン副首相はあるセッションで、国内総生産(GDP)の約1.5%相当の「小幅な」資金流出を経験しただけだと指摘した。「これは(トルコの通貨と株式市場の)調整にすぎず、一方でわが国経済は4.4%成長を享受し続け、所得分配の改善も伴っている」。ロシアのドボルコビッチ副首相も同様に、先週の20カ国・地域(G20)首脳会合で世界金融市場の見通しやFRBの政策について強い懸念を表明した出席者はいなかったと指摘した。

こうしたコメントを、自国に都合の良い欺瞞だ、慢心だと一蹴したい誘惑に駆られる。インドやトルコなど一部の新興国が多額の貿易・財政赤字を抱え、西側からの資金調達に強く頼っていることを踏まえれば、なおさらだ。しかしながら中国にはそうした弱点はない。従って中国は米金融政策の転換や、新興国市場へのウォール街の心理の変化に対し、堂々と無関心を決め込んでいられるのだ。李克強首相はそのことを明確に示した。

李首相は、アジアのメディアが「リコノミクス」と呼ぶようになった経済改革計画をお披露目する演説において、西側アナリストが注目する中国の過剰投資と債務急増という2大不均衡にほとんど触れずじまいだった。その代わり、金融、財政、与信政策は概ね今後も安定を維持し、「中国経済を(2桁近くの)急成長から7.5%前後の中程度から高スピードの成長へと減速させる」政策を続けると約束した。首相は「緩和も引き締めもせず、穏やかかつ大胆に難局に対応してきた」金融政策によって、これは達成可能だと主張した。

リコノミクスの要は、与信管理や過剰投資の抑制よりも、政府改革と新たな需要源の創出にあるようだ。李首相は政府改革について、ファイナンス、エネルギー、交通、インフラ、公的部門の資材調達といった分野で、段階的に市場原理と民間ビジネスの役割を拡大するものだと説明。需要の再構成が目指すのは、消費支出の拡大やサービス産業の支援に加え、環境保護、低所得者向け住宅、都市インフラ、開発の遅れた内陸部への投資促進だと述べた。

中国版サブプライム危機を引き起こすと多くの西側エコノミストが予想する債務の増大について、李首相は軽く一蹴。「懸念の種になった地方政府の債務問題に関して、われわれは秩序立った方法で対処、監督するための辛抱強い措置を実行している」と語った。

避けられたはずの5年前の金融危機の影響に未だに苦しむ西側から見れば、この発言は傲慢あるいは妄想と映るかもしれない。しかし3.5兆ドルの外貨準備と世界最大の貿易黒字を抱え、主要金融機関すべてを直接管理して過去30年にわたり金融市場の奴隷ではなく主人として成功を収めてきた政府の立場からすれば、これは至極現実的に響く。そして西側アナリストの間で突如沸き起こった懐疑的見方をよそに、中国が経済をさらに大きな繁栄へと導くことができるなら、同じことは他の多くの新興国にも当てはまるだろう。これらの新興国は、支援と指針を西側ではなく中国に求める傾向を強めている。いずれにせよ、これがダボスならぬ大連から見た景色なのだ。

[11日 ロイター]

*アナトール・カレツキー氏は受賞歴のあるジャーナリスト兼金融エコノミスト。1976年から英エコノミスト誌、英フィナンシャル・タイムズ紙、英タイムズ紙などで執筆した後、ロイターに所属した。2008年の世界金融危機を経たグローバルな資本主義の変革に関する近著「資本主義4.0」は、BBCの「サミュエル・ジョンソン賞」候補となり、中国語、韓国語、ドイツ語、ポルトガル語に翻訳された。世界の投資機関800社に投資分析を提供する香港のグループ、GaveKal Dragonomicsのチーフエコノミストも務める。

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